殺された人形

岡倉弘毅

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片親

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 「男だよ。なんで堀川馨を描いてんだい?」

「あらまぁ、良く似てること」

 里美は本気で驚いている。

「母さん、会った事あるの?」

「お弟子さんの甥御さんなのよ。

 ほら、前に話したでしょう? 貴方が男の子の恰好をする切っ掛けになったパーティーで、服を取り換えた男の子。それが馨さんだったの」

「詳しく教えてもらえませんか?」

 里美は、楽しい思い出を語る口調で、笑顔の儘、馨と有紀の服を入れ替えた事、短時間ながら有紀が行方知れずになった事を話してくれた。

 恐らくそれから、有紀が男の子の恰好をし始めたのでは無いだろうか。との推測も交えて。

 洋史は出来る限り楽しそうな表情を作る努力をした。有紀が、不安を持たぬように。



 風呂から上がり、客間に入る。もうじき日付が変わる時間であるが、洋史にしてみれば眠っている場合では無い。

 皆で喋っている間に描いた馨に、鉛筆で黒い真っ直ぐな髪を書き足す。柔らかで明るい雰囲気が、少しだけ重い感じになった。

 女は前髪を目に掛かるか掛からないかの長さで揃えていた。二重なのか一重なのか分からぬ程度の長さであった。

 その長さまで髪を伸ばすと、蕗子に似た顔が画帳に現れた。

 唇を紅く染める。あの日見た、赤い着物を着せる。段々と、あの日見た雪女が姿を見せ始めた。

 前に会った時も今日も、馨はいかにもやんごとないお育ちらしい、人懐っこい笑顔を見せていたから気付かなかったが、蕗子らしき雪女と顔立ちがよく似ている。

 女にしては大きな手と、男にしては小さな手。雪女を見た時は既に着席していたから、身の丈は分からぬが、女にしては肩幅が広いように思われる。

 巾の広い指輪をしていたなら、比較対象としての指は細く見える。巾の狭い指輪をしていたならば、その逆である。

 女らしく見える赤で纏め、指が細く見える指輪を付けて、馨が蕗子の真似をしていたのだろうか。

 一体何の為に?

 自分に問いかけながら、心の中では勝手に答えを出していた。

 蕗子がここにいると存在を示さなければならぬ理由は、一つしかなかろう。と。

 また一つ、困難が増えてしまった。

 疑惑を持つのは勝手だが、それを証明するには証拠が必要となる。どうやって調べれば良いのか。

 一般人であっても面倒なのに、相手は伯爵家の跡取りである。迂闊なことをしようものなら、東京にいられなくなってしまう可能性すらある。
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