殺された人形

岡倉弘毅

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狂気

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 どれくらい時間が経っただろうか。洋史はまだ待っているのだろうか? それとも先に帰り、有紀が戻っていないことを心配しているだろうか?

 無性に洋史に会いたかった。抱きしめて欲しかった。そうしてあの穏やかな声で、もう怖くありませんよ。と、言って欲しかった。

 頬を伝う涙を袖口で拭う。寒さと恐怖とで震えながら泣き続ける有紀に、三月はもう言葉を掛けてはこなかった。

 涙も涸れて疲れ切った有紀の耳に、金属の音が響いた。そうして、人の声。ゆっくりと扉が開く間に聞こえた声に、洋史のものが混じっているのが分かった。

 洋史の声に安堵したのも一瞬だけ。

 どうして洋史がここに来るのか、有紀は疑問に思った。

 誰かが連れてきた?

 まさか、洋史がここに有紀を探しに来るとは思えない。

 康子を騙し、伯爵家の土地に侵入した二人を警察に突き出す前に、洋史に状況を説明するつもりなのか。

 そうでありますように。有紀は心の中で祈った。

 最悪の考えは、この死体の美術館を平助と共に作り上げているかも知れぬとの、恐ろしい想像。

 一番に顔を見せたのは、馨だった。二人を見ると、馬鹿にしたような笑いを見せた。

「服装に乱れが無いな。

 折角好きな女と二人きりにしてやったのに、それでも男?」

 その後ろには、平助の大きな体が見え、更にその後ろから、洋史が姿を見せた。

「有紀……三月君……」

「お前達、あれが何かもう分かってるよな」

 平助が、いつも通りの吞気そうな声を出した。

「あれって、平助さんの作品でしょう? 蝋人形」

 有紀は首を横に振った。

「違うよ、洋史。あれは死体だ。どういうわけか知らないが、死体が飾られているんだ」

「そんだけ近くで見りゃさすがに分かるか。洋史には近寄らせなかったからな。

 何年前になるかな。俺はほら、あの一番奥にある死体を見た。そして、これこそが俺の求めていた芸術だと気付いたんだ。

 人間ってのはな、簡単に言やぁ空気を遮断しておけば、脂肪が蠟になるんだ。そうなりゃ腐りもせず、こうして美しい姿を留められる。

 目は、硝子玉を入れるしか無いが、目隠しするよりはましだろうて。

 もう、完璧なんだ。俺は完璧な蝋人形を作ることが出来るようになった。だから、俺が知る中で最も美しい女を、永遠の蝋人形にしようと決めたんだ。

 洋史、手伝ってくれるだろう?」
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