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少年
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「実は、貴女に似ている美しいご婦人を目撃しましてね、ずっと追っていたのですが……」
洋史は、庭で飼い犬と戯れる馨を見た。
成人した男とは思えぬ、無邪気な笑顔。少年の恰好をしていてさえ、その華は隠しようが無かった。
「私に似ている?」
「はい。恐らく、彼が変装していたのだと思われます。目元を髪で隠し、化粧を施せば、似せることができます。
今となっては想像するしかないのですが、貴女を組織から匿う為に、変装してあちこちに現れていたのではないでしょうか」
「あたしは、違うと思う。
堀川馨は、川中蕗子になりたかったんだと思うよ。父親に愛されたかったんだと。
川中蕗子になって、自分が愛されているのだと思いたかったんだと……」
「私もそう思います。
二度しか会っていませんけれど、馨さんは私にとても冷たかった。
初めは、組織との関係を疑われているのかしら。とか、伯爵家の財産を狙っているように思われているのかしらって思ったのですけど、お父様とお話しをしている時、憎しみの目を向けられて……。
その時、この人は愛情に飢えているのだと思いました。でも、高い自尊心がそれを認めさせないのだと……」
馨が離れた場所から、蕗子に向かって手を大きく振った。それに対して蕗子は、優しい母親の笑顔を見せ、手を振り返す。
愛情に溢れた、幸せな母子の姿がここにはあった。
「事件の直後に会った時は幼児のようでしたが、今は小学生くらいに見えますね」
蕗子は微笑むと、えぇ。と答えた。
「二三年の内に、元に戻るだろうと、津川先生も仰ってました」
馨の母親の死の現場に居た者達の証言から、殺人では無く過失致死であると認定され、時効を過ぎていた。
平助の事件は当然大きく報道され、堀川伯爵家も関わりを疑われたが、先代は亡くなり、新しい当主となった馨は何も語れぬ状況だったため、直ぐに報道は沈静化した。
ただ、伯爵家の敷地内で行われていたからには、知らぬ存ぜぬで済むはずもなく、被害者となった娘の遺族には、多額の慰謝料を払うことになった。
平助はもう、塀の外には出られはすまい。
永吾は、洋史に勘当を言い渡した時には既に、隠居を届け出て、長男に家督を譲っていた。
津川医院は、永吾の後輩に当たる医師が、長男が継げるようになるまで管理してくれることになっていた。
『私も後悔している』
洋史は、庭で飼い犬と戯れる馨を見た。
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「あたしは、違うと思う。
堀川馨は、川中蕗子になりたかったんだと思うよ。父親に愛されたかったんだと。
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「私もそう思います。
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馨が離れた場所から、蕗子に向かって手を大きく振った。それに対して蕗子は、優しい母親の笑顔を見せ、手を振り返す。
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蕗子は微笑むと、えぇ。と答えた。
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永吾は、洋史に勘当を言い渡した時には既に、隠居を届け出て、長男に家督を譲っていた。
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