魔法薬師と魔王の今日これから

緒海ちろ

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プロローグ

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「僕が恐ろしくないのか?」

「はい?」

「え?」

 女性はコバルトグリーンの瞳を何度は瞬きをして、首を僅かに傾げた。拍子に一纏めにした緩くウェーブがかったベージュの髪が揺れる。

 この人は何を言っているんだろう。
 質問の意味が分からないといった表情で女性は男性を見つめた。
 一方男性も男性で女性の反応に、嘘だろ、といった表情で鮮やか青紫の瞳を丸くして見返す。
 その二人の間で一人の小柄な女性が、真っ直ぐな黒髪からのぞく赤い瞳で遠い目をしていた。

「それは……過去に何か大きな闇を抱えている訳ありのキャラクター、という流行りのものでしょうか」

「は……?」

 コバルトグリーンの瞳の女性の質問に男性は口をぽかん、と開ける。先ほどまで男性は寝ていたことにより、白い髪に寝癖がついてる。それがとても間抜けに見える。

「あ、私はソフィア。貴方は?」

 コバルトグリーンの瞳の女性――ソフィアは人の良さそうな笑みを浮かべて自己紹介をした。
 さっきまで男性が緊迫した空気を醸し出したなんて全く気にしていない。
 だが男性はソフィアの質問に、唖然としていた表情から打って変わって、勝気な笑みを携えながら手のひらをそっと胸元に添えた。
 さぁ慄くがいい! と言わんばかりの自信で高らかに宣言する。

「僕の名前はゲラルド。ゲラルド・ヴァインセンだ」

 一言一句、誰でも聞き取りやすいようにゆっくりと男性――ゲラルドは自己紹介をする。
 ソフィアは「ゲラルド」と呟き、ハッと表情を変える。
 それを見て、ゲラルドは今度こそ! ともう一度言おうとした。僕が恐ろしくないのか、と。

 だがそれはまるで名案を思い付いた、といった笑顔を向けてきたソフィアによって遮られた。

「長いからルドーにしましょう。よろしく、ルドー」

 手を差し伸べて握手を求めてくるソフィアにゲラルドは真顔になった。そして思う。
 この女、正気なのか、と。

 ゲラルドは唇をひくつかせながらも、その握手に紳士的に応じた。
 現在もてる、ありったけの魔力を込めて。敵意はない。だが圧倒的な魔力に驚くだろう、という算段だ。
 今度こそ! と何故こんなにも必死になっているのか分からないが、必死になってしまっているゲラルドは勝ちたいという気持ちが勝った。ちなみに勝負はしていない。
 ソフィアとゲラルドの手が重なる。

「ルドー、起きてすぐで申し訳ないのだけど、暮らすところがないなら私と一緒に暮らさない? 衣食住に関して保証はする。貴方はその稀有な体質で私と協力してほしいの」

 ぽんぽんと話を一人で進めるソフィアは気付いていない。表情を無くしているゲラルドに。
 なぜこんなにもゲラルドが自分の目、耳を疑うような衝撃を受けているかというと理由があった。
 ソフィアが仲良しよろしくで握手をしている男。それは国々を震撼させた存在であった。

 ゲラルド・ヴァインセン。デルドルフ帝国国王。魔王。

 それが彼の肩書きで、誰もが恐れる存在。
 だが今もしっかりとゲラルドの手を握っているソフィアは、恐れのおの字もない。むしろ真剣な眼差しでゲラルドを見つめていた。

「私は魔法薬師になりたいの。そのために貴方の力が必要なの」

 固まるゲラルドを気にする事なく、ソフィアはしっかりと瞳を見つめて手を握りしめて伝える。
 ソフィアはソフィアで自分の願望のために必死なのだ。きっとこんなチャンスは二度とない、と。
 だから相手が何か魅力に感じそうなことを列挙していった。

「魔法薬師として第一人者にソフィア・コネリーとゲラルド・ヴァインセンって名前が載るの。素敵じゃない?」

 その言葉を聞いて、ゲラルドは固まっていた表情から驚愕の色に変わった。

「……は? ソフィア・コネリー? コネリー!?」

 ゲラルドはソフィアのファミリーネームを聞いて、声をあげる。ソフィアはゲラルドの反応に「あぁそういえば」と、慣れたように言葉を返した。

「エルリック・コネリーの姉です。よろしくね」

 僕が何をしたっていうんだ。
 ふふ、と笑うソフィアにゲラルドは強く思った。後悔にも近い感情だ。

 エルリック・コネリー。その名前はゲラルド・ヴァインセンと同等に有名である。
 何故ならば、エルリックという男は魔王を倒したことにより勇者となったのだから。

 ソフィア・コネリー。彼女は勇者の姉である。

 どういういきさつでこの二人が出会ってしまったのかというと、それは数日を遡る。
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