3 / 29
一章 ソフィアと魔王
最初からそのつもり
しおりを挟む
「あの」
フラスコの中身を集め終えた後に立ち上がる。ローレンとユリリアは私の声を聞いて、幻覚でも見ているレベルの嫌味を止めた。そして露骨に嫌な顔してくる。
むしろ清々しいものだ。
それを真っ直ぐに見つめれば、ローレンは気に入らなかったのか顔をしかめて睨んでくる。
笑ってしまいそうだった。
だってそうしていられるのは今のうちだから。
「なんだその目は――」
大きく振りかぶった。
投球をするようにフォームを構える。フラスコを持っていた反対の手に、ポケットから取り出した小さな球体を握った。
ユリリアとローレンは突然の私の大きな動きに目を追うだけ。その二人に、三流芝居もいいところの抑揚のなさで言った。
「わぁすみませぇん手が滑りましたー」
「は」
小さな球体をローレンとユリリア目掛けて投げた。迷いのない一直線。
「きゃー!?」
「うわぁ!?」
「ピーチクパーチクほーんと、うるさいっ! 小鳥の方がもっと上手く囀るんじゃない? 生産性もない、同じような話ばっかり! 嫌味ならもっとボキャブラリー増やして。つまんないの、こっちに新しい刺激にもなりもしない!」
私はついに爆発した。
今までの鬱憤を晴らすように、エルリック一行の賢者のお墨付きの、よく回る口でありとあらゆるものを吐き散らしていく。
全部吐き終えてちょうどくらい。兄妹を包んでいた煙が晴れ、そこにはどぎついピンク色になった二人が。
「ちょ!? 何よこれ!」
「わぁ! 体温変化反応成功! ということは、ある一定の体温で発色が上手くいったならば、これを使って……」
「おい! 貴様! こんな事してただで済まされると思っているのか!?」
ローレンは顔を赤くして怒鳴りだす。静かだった王城の廊下にはよく響き、野次馬が増えていく。
でもそんなの知ったことか。
ニコリと機嫌良く笑って見返せば、ユリリアが「なによその顔!」とヒステリックに叫んでくる。その顔もなにも、元からこんな顔だ。
「確かにこの国の国民であれば大罪ですね。この国に居れば」
「何を当たり前のことを言って――」
「チエリッ!」
高らかに呼ぶ。そうすればチエリは私の影から姿を現した。
うわぁこの人本当にやっちゃったよ、と顔を引きつらせているチエリに、私は気にすることなくチエリの手と私の手を繋いだ。
あぁ、今から自分が起こすことが楽しみで仕方ない。目の前の兄妹はどんな表情をするのだろう。王城の人たちも、そして帰ってきた国王に言われるであろう罵倒も。
そこに私が居ないのは酷く残念だが、きっと数時間後にはどうでもよくなる。
「本当にエルリック殿にそっくりですね……」
「あらチエリ。それは褒めてるの?」
「さぁ、どうでしょう」
チエリは仕方ないと困ったように笑みを作って、私の手を強く握り返した。
さて、目の前で未だに色々と言っている彼らに言わなくては。本当に怒られる側は自分達ではないのかと。
「エルがね、最後に私に言い残したの。この国に置いてある僕のものは全て姉さんのものだ、って」
ローレンよりも奥の遠くを見つめる。ローレンはその視線にまさか、と淡いピンク色の瞳を見開いて表情を悪くした。
ローレンは次期国王。父である国王が留守にすれば国を任される事もある。何度か任されることがあったようだけど、その度に別に問題はなかった、と言われている。
なのに今回任された直後にした事は宴。ローレンは宴というものが大好きだ。
だが国のものを使えば、すぐに国王にバレて自分は追放されるだろう。
だからローレンは国のものでないものを質屋に入れる約束をして、お金作りをした。それはエルリックが私のためにと置いていった宝の山。
見たこともない宝石や水晶。服や布。魔法具や武器まで。私だって本でしか見たことないものが沢山あった。別に要らない、と言っても「いつか役に立つと思うから」と置いていった品々。
きっとローレンも見たこともないものもあったと思う。
ただ彼は審美眼だけは確かなものだ。だから質屋という選択に出たのだろう。先に査定してもらったお金を貰って、後から物品を取りに来るという順序で。
ローレンはあれが自国のものではないと理解した上で、無許可で行ったことだ。
自室か研究室か図書館に篭りきりの私が気付くわけない、と思ったのだろう。
賢いがツメは甘い。今回のことで学んでほしいものだ。でないと、国の転覆の危機に起こっても不思議じゃない。
「っ! そこのお前、宝物庫を見て来い!」
慌ててそばに居るものに宝物庫に向かうように指示し始める。
その様子を見て、つい唇が弧を描いてしまった。だってもう遅いのだもの。
「私がここに居た理由は図書館の本。やっと今日それを読み終えたの。だからね図書館のもう用がないの」
「よ、読み終えた……?」
「あぁ、勘違いしないで。興味あるものだけ。それ以外はどうでもいいの。私は出て行くけどエルリックと国王様には謝っておいてね」
ローレンとユリリアに手を軽く振れば、チエリはそれが合図のように私の中にチエリの魔力が流れ込んでくる。それは私の足下にある影の中へ呑み込まれる合図。
私とチエリはその場から姿を消した。
チエリの魔法は極東の秘術。門外不出で有名な民族の秘術に、その場に居た、つまりはどの魔法士にも分かるわけがなかった。
その日私とチエリはエルリックが置いていった宝物と、ゴマを擦っていた者から半ば押し付けるように貰った調度品と共に王城から消えた。
それが二週間前、王都クレモデアからトンズラしたことだった。
フラスコの中身を集め終えた後に立ち上がる。ローレンとユリリアは私の声を聞いて、幻覚でも見ているレベルの嫌味を止めた。そして露骨に嫌な顔してくる。
むしろ清々しいものだ。
それを真っ直ぐに見つめれば、ローレンは気に入らなかったのか顔をしかめて睨んでくる。
笑ってしまいそうだった。
だってそうしていられるのは今のうちだから。
「なんだその目は――」
大きく振りかぶった。
投球をするようにフォームを構える。フラスコを持っていた反対の手に、ポケットから取り出した小さな球体を握った。
ユリリアとローレンは突然の私の大きな動きに目を追うだけ。その二人に、三流芝居もいいところの抑揚のなさで言った。
「わぁすみませぇん手が滑りましたー」
「は」
小さな球体をローレンとユリリア目掛けて投げた。迷いのない一直線。
「きゃー!?」
「うわぁ!?」
「ピーチクパーチクほーんと、うるさいっ! 小鳥の方がもっと上手く囀るんじゃない? 生産性もない、同じような話ばっかり! 嫌味ならもっとボキャブラリー増やして。つまんないの、こっちに新しい刺激にもなりもしない!」
私はついに爆発した。
今までの鬱憤を晴らすように、エルリック一行の賢者のお墨付きの、よく回る口でありとあらゆるものを吐き散らしていく。
全部吐き終えてちょうどくらい。兄妹を包んでいた煙が晴れ、そこにはどぎついピンク色になった二人が。
「ちょ!? 何よこれ!」
「わぁ! 体温変化反応成功! ということは、ある一定の体温で発色が上手くいったならば、これを使って……」
「おい! 貴様! こんな事してただで済まされると思っているのか!?」
ローレンは顔を赤くして怒鳴りだす。静かだった王城の廊下にはよく響き、野次馬が増えていく。
でもそんなの知ったことか。
ニコリと機嫌良く笑って見返せば、ユリリアが「なによその顔!」とヒステリックに叫んでくる。その顔もなにも、元からこんな顔だ。
「確かにこの国の国民であれば大罪ですね。この国に居れば」
「何を当たり前のことを言って――」
「チエリッ!」
高らかに呼ぶ。そうすればチエリは私の影から姿を現した。
うわぁこの人本当にやっちゃったよ、と顔を引きつらせているチエリに、私は気にすることなくチエリの手と私の手を繋いだ。
あぁ、今から自分が起こすことが楽しみで仕方ない。目の前の兄妹はどんな表情をするのだろう。王城の人たちも、そして帰ってきた国王に言われるであろう罵倒も。
そこに私が居ないのは酷く残念だが、きっと数時間後にはどうでもよくなる。
「本当にエルリック殿にそっくりですね……」
「あらチエリ。それは褒めてるの?」
「さぁ、どうでしょう」
チエリは仕方ないと困ったように笑みを作って、私の手を強く握り返した。
さて、目の前で未だに色々と言っている彼らに言わなくては。本当に怒られる側は自分達ではないのかと。
「エルがね、最後に私に言い残したの。この国に置いてある僕のものは全て姉さんのものだ、って」
ローレンよりも奥の遠くを見つめる。ローレンはその視線にまさか、と淡いピンク色の瞳を見開いて表情を悪くした。
ローレンは次期国王。父である国王が留守にすれば国を任される事もある。何度か任されることがあったようだけど、その度に別に問題はなかった、と言われている。
なのに今回任された直後にした事は宴。ローレンは宴というものが大好きだ。
だが国のものを使えば、すぐに国王にバレて自分は追放されるだろう。
だからローレンは国のものでないものを質屋に入れる約束をして、お金作りをした。それはエルリックが私のためにと置いていった宝の山。
見たこともない宝石や水晶。服や布。魔法具や武器まで。私だって本でしか見たことないものが沢山あった。別に要らない、と言っても「いつか役に立つと思うから」と置いていった品々。
きっとローレンも見たこともないものもあったと思う。
ただ彼は審美眼だけは確かなものだ。だから質屋という選択に出たのだろう。先に査定してもらったお金を貰って、後から物品を取りに来るという順序で。
ローレンはあれが自国のものではないと理解した上で、無許可で行ったことだ。
自室か研究室か図書館に篭りきりの私が気付くわけない、と思ったのだろう。
賢いがツメは甘い。今回のことで学んでほしいものだ。でないと、国の転覆の危機に起こっても不思議じゃない。
「っ! そこのお前、宝物庫を見て来い!」
慌ててそばに居るものに宝物庫に向かうように指示し始める。
その様子を見て、つい唇が弧を描いてしまった。だってもう遅いのだもの。
「私がここに居た理由は図書館の本。やっと今日それを読み終えたの。だからね図書館のもう用がないの」
「よ、読み終えた……?」
「あぁ、勘違いしないで。興味あるものだけ。それ以外はどうでもいいの。私は出て行くけどエルリックと国王様には謝っておいてね」
ローレンとユリリアに手を軽く振れば、チエリはそれが合図のように私の中にチエリの魔力が流れ込んでくる。それは私の足下にある影の中へ呑み込まれる合図。
私とチエリはその場から姿を消した。
チエリの魔法は極東の秘術。門外不出で有名な民族の秘術に、その場に居た、つまりはどの魔法士にも分かるわけがなかった。
その日私とチエリはエルリックが置いていった宝物と、ゴマを擦っていた者から半ば押し付けるように貰った調度品と共に王城から消えた。
それが二週間前、王都クレモデアからトンズラしたことだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~
ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。
そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。
自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。
マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――
※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。
※第二章まで完結してます。現在、最終章について考え中です(第二章が考えていた話から離れてしまいました(^_^;))
書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m
※小説家になろう様にも投稿しています。
幼馴染の勇者パーティーから「無能で役立たず」と言われて追放された女性は特別な能力を持っている世界最強。
佐藤 美奈
ファンタジー
田舎の貧しい村で育った6人の幼馴染は、都会に出て冒険者になってパーティーを組んだ。国王陛下にも多大な功績を認められ、勇者と呼ばれるにふさわしいと称えられた。
華やかな光を浴び、6人の人生は輝かしい未来だけが約束されたに思われた。そんなある日、パーティーメンバーのレベッカという女性だけが、「無能で役立たず」と言われて一方的に不当にクビを宣告されてしまう。恋愛感情は、ほんの少しあったかも。
リーダーのアルスや仲間だと思って信頼していた幼馴染たちに裏切られて、レベッカは怒りや悔しさよりもやり切れない気持ちで、胸が苦しく悲しみの声をあげて泣いた――
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる