魔法薬師と魔王の今日これから

緒海ちろ

文字の大きさ
22 / 29
一章 ソフィアと魔王

恋というのは

しおりを挟む
 窯作りはどうやら成功したらしい。粘土を取り扱っている商人が居るか不安だったけど、ドワーフが未だに使うとか。粘土で作った置物に魔法石をはめこんだ魔法具、といった洒落たものが貴族では流行っていると言っていた。

 レンガで作った窯の底に敷き詰めるように、薪とコンロで使っている魔法具を入れていき、炎の魔法を起こさせる。その上にチエリとゲラルドが集めてくれた油が入った鍋を乗せて、入り口を重い石で閉じる。
 油がどれくらいで蒸発するのか知らないけど、きっと水よりも時間がかかるだろう。

「どーやってゲラルドと仲直りしようかなぁ」

 そもそも「ごめんね」と謝って、原因を聞かれたら何となくは分かるけど今後そういったことはしないか、と問われれば私は肯けない。自分の本心を隠してまで仲良しこよしなんて私は出来るわけがないんだ。
 エルのように人当たりのいい性格ではないのは分かってる。チエリのように義理固い性格でもない。
 別に羨ましいと感じたことはない。それによって生きにくそうだなぁ、と感じるものもあるから。

 ゲラルドが出て行ったらそれはそれで良いと思う。ちょっと残念くらい。
 ただあんなに私の事を気に掛けているのに、私がゲラルドの事を考えないのは少しフェアじゃないというか。

「ゲラルドってどんな環境に居たんだろ」

 人の性格の形成は環境が一番影響を与える、って前にどこかの本で読んだ。
 きっとその辺の人よりも強いであろうゲラルド。なのに他人のことを気にする。
 前になんか人間関係でトラブルがあったのかな。強過ぎるから嫉妬されたとか、崇められたとか。どちらにせよ面倒くさそう。私なら無理。

「あー分かんない」

 今の時代は生物による研究が教会から禁止されている。だからなにも進んでいない。大半のことが白魔法で片付いているから。
 でもそれで片付いていないケースだってある。それを教会は魔王の仕業だと言った。

「魔王って誰なんだろ」

 エルが倒しちゃったけど。
 もし教会が言ってる事が本当なら、魔王は生物の研究でもしてたのかな。だから魔法では治せないものを生み出せたとか?
 科学の進化には犠牲はつきもの。
 それは現在の魔法具が成り立つまででよく分かっている。
 きっと無機物でそうだったなら、有機物――生物ではもっと犠牲がある。だから教会は禁忌とした。殺生を嫌うだけある。

「魔王とだったら話が合いそうなんだけどなぁ」

「なんて物騒なこと言ってるんですか」

「あ、チエリ」

「窯の出来、すごいですね。全く蒸気が出ていない……」

「でしょー? 初心者の私では出来たほうだと思うの」

 たしかに煙すらも出ないのは予想外だ。こんなに上手くいくとは。どれくらい熱したらいいのか分からないけど。
 私の隣に立ったチエリは「で? 魔王がなんですか」とちょっと拗ねたような声で聞いてくる。チエリは勇者一行だったから魔王の話をされるのはあまり面白くないんだろう。

「魔王だったら私、魔法薬師について楽しく話せそうだなぁ、って思って」

「そんな事ないですよ。ほら、冷徹な奴でしたし」

「あれでしょ? 教会が治せない病は魔王が撒いたものー、ってやつ。どうやって思いついたんだろ?」

「それは嘘ですよ」

 え、そうなんだ。
 チエリを見つめれば、遠い目をして「あんな臆病者にそんな事出来たら、双子説を考えますね」と断言する。
 チエリは魔王と会ったことあるから、どんな人なのか分かるんだ。拳を交えると心が通じる、ってやつなのだろうか。前に教えてもらった。

「どんな人?」

「ええー……」

「なんでそんな嫌そうなの!?」

「倒されたへっぽこ魔王になんで今更興味持つんですか」

 私から横に一歩、チエリが離れる。逃げる気だ。

「うーん。なんか気になったから」

 その一歩を私が移動して埋める。さっきよりも近くに。

「根拠がないです。薬師って科学者なんですよね? なら魔法薬師を目指しているソフィア殿も根拠が無くては」

「あ、そういう事言う」

 近くに落ちていた木の枝を拾って、チエリの手を掴む。

「薬師って人の気持ちにも寄り添ったりしたんだって。人の気持ちって色んな名称があって、立証されてるの。私のこの気持ちもきっと名前がある。だから――」

 掴んだチエリの手のひらに木の枝を置く。チエリは木の枝と私を交互に見つめた。

「魔王、描いて?」

「アッ無理です無理ですそれはちょっと某は絵を描くのは苦手でして」

「嘘だー! 冒険してるところ、絵葉書にして送ってくれたじゃん! あれチエリ作ってたの嘘だったの!?」

「嘘じゃありません! 某がソフィア殿に……あ」

 言ってしまった、と口を手のひらで抑えるけど、出てしまった言葉はもうどうにも戻せない。口角が持ち上がる私に、チエリは露骨に嫌そうな表情をしてくる。

「某がエルリック殿に怒られます」

「エルはそんな事じゃ怒んないよ」

「ソフィア殿以外の事では、ですね。嫌です。某、木の枝では絵が描けない呪いにかかってるんです」

「魔王しか生み出せない病って呪いって言われてるもんね。最終決戦でかかったの?」

「某がへっぽこ魔王の呪いにかかるわけないじゃないですか! あーもう! どうにでもなれですよ!」

 木の枝を勢いよく取ったチエリは、地面にしゃがんでサラサラと絵を描いていく。
 頭頂部、腕、髪の毛、肩からマント、テーブル、以上。

「……え、なんで魔王がテーブルに顔を伏せてるの」

「最後に見た魔王はこんな感じでした」

「居酒屋で飲み比べでもして勝負決めたの?」

「違いますよ。とにかく魔王というのはこの思い出しかありません。以上です」

 随分とクオリティの高いイラストだ。テーブルに顔を伏せている魔王は悲壮感が漂っている気がする。このテーブルの向かいにはエルが居たのだろう。まるでいじめっ子みたいだ。

「ふーん」

 どんな顔してるのかな。
 どんな表情しているんだろう。
 顔が持ち上がったら、泣いてたりしたのかな。
 この人に魔法薬師の事を話したらどんな反応するだろう。
 世界を驚かせませんか? って言ったら頷いてくれるかな。
 もし一緒に魔法薬師を目指せたら、絶対に楽しいだろうなぁ。

「あ、そうか」

「なんですか」

 チエリは机に顔を伏せている魔王のイラストを早急に消していく。心なしか消し方が力がこもっている。よほど壮絶な戦いだったのだろう。

「恋だ」

「………………は?」

「相手の事を知りたくて仕方なくて、その相手と共に過ごす時間を考えてしまう場合、それは恋、って本に書いてあった。そっか」

「待って。待ってください。ちょっと待って!!」

 待ての三段活用を繰り広げたチエリは、勢いよく立ち上がり「え、どうしよう無理これは知らせられないなんで言えばいい監督不届きなの嘘だ私は唆していない」と、ノンブレスで小さく呟いていく。顔色はとんでもなく悪い。

「その本、なんでそんな事記してあったんですか」

「クレモデアで侍女たちが女心をこちらで学んではいかがですか? って優しく教えてくれた本」

「いやそれ嫌がらせ! ちょっと待ってください今からその本を抹消しますだからそこに記してあったものは虚偽。いいですか」

「全世界の女性が読んでるバイブルって言ってたよ」

「私は! そこに居ないので! 全世界じゃありません!」

「近い近い近い近い」

 私の両肩を掴んで、必死な形相で伝えてくるチエリの目は血走っている気がする。

「そもそも倒されたんでしょ? なら私は会わないから想う気持ちは叶わないよ」

「ンンンンンッ」

「なんの鳴き声?」

「ちょっと今、現実に向き合いたくないので待ってください」

 そうか。これが恋なのか。
 恋をしたと思ったら、相手が故人というのがなかなか面白い。いつか魔王の側近で生き残りが居たら、是非とも話を聞いてみたいものだ。

「私、魔王に恋したんだぁ」

「ウワー!!」

 チエリの断末魔が大きく響いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~

ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。 そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。 自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。 マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――   ※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。    ※第二章まで完結してます。現在、最終章について考え中です(第二章が考えていた話から離れてしまいました(^_^;))  書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m    ※小説家になろう様にも投稿しています。

幼馴染の勇者パーティーから「無能で役立たず」と言われて追放された女性は特別な能力を持っている世界最強。

佐藤 美奈
ファンタジー
田舎の貧しい村で育った6人の幼馴染は、都会に出て冒険者になってパーティーを組んだ。国王陛下にも多大な功績を認められ、勇者と呼ばれるにふさわしいと称えられた。 華やかな光を浴び、6人の人生は輝かしい未来だけが約束されたに思われた。そんなある日、パーティーメンバーのレベッカという女性だけが、「無能で役立たず」と言われて一方的に不当にクビを宣告されてしまう。恋愛感情は、ほんの少しあったかも。 リーダーのアルスや仲間だと思って信頼していた幼馴染たちに裏切られて、レベッカは怒りや悔しさよりもやり切れない気持ちで、胸が苦しく悲しみの声をあげて泣いた――

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...