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一章 ソフィアと魔王
恋というのは
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窯作りはどうやら成功したらしい。粘土を取り扱っている商人が居るか不安だったけど、ドワーフが未だに使うとか。粘土で作った置物に魔法石をはめこんだ魔法具、といった洒落たものが貴族では流行っていると言っていた。
レンガで作った窯の底に敷き詰めるように、薪とコンロで使っている魔法具を入れていき、炎の魔法を起こさせる。その上にチエリとゲラルドが集めてくれた油が入った鍋を乗せて、入り口を重い石で閉じる。
油がどれくらいで蒸発するのか知らないけど、きっと水よりも時間がかかるだろう。
「どーやってゲラルドと仲直りしようかなぁ」
そもそも「ごめんね」と謝って、原因を聞かれたら何となくは分かるけど今後そういったことはしないか、と問われれば私は肯けない。自分の本心を隠してまで仲良しこよしなんて私は出来るわけがないんだ。
エルのように人当たりのいい性格ではないのは分かってる。チエリのように義理固い性格でもない。
別に羨ましいと感じたことはない。それによって生きにくそうだなぁ、と感じるものもあるから。
ゲラルドが出て行ったらそれはそれで良いと思う。ちょっと残念くらい。
ただあんなに私の事を気に掛けているのに、私がゲラルドの事を考えないのは少しフェアじゃないというか。
「ゲラルドってどんな環境に居たんだろ」
人の性格の形成は環境が一番影響を与える、って前にどこかの本で読んだ。
きっとその辺の人よりも強いであろうゲラルド。なのに他人のことを気にする。
前になんか人間関係でトラブルがあったのかな。強過ぎるから嫉妬されたとか、崇められたとか。どちらにせよ面倒くさそう。私なら無理。
「あー分かんない」
今の時代は生物による研究が教会から禁止されている。だからなにも進んでいない。大半のことが白魔法で片付いているから。
でもそれで片付いていないケースだってある。それを教会は魔王の仕業だと言った。
「魔王って誰なんだろ」
エルが倒しちゃったけど。
もし教会が言ってる事が本当なら、魔王は生物の研究でもしてたのかな。だから魔法では治せないものを生み出せたとか?
科学の進化には犠牲はつきもの。
それは現在の魔法具が成り立つまででよく分かっている。
きっと無機物でそうだったなら、有機物――生物ではもっと犠牲がある。だから教会は禁忌とした。殺生を嫌うだけある。
「魔王とだったら話が合いそうなんだけどなぁ」
「なんて物騒なこと言ってるんですか」
「あ、チエリ」
「窯の出来、すごいですね。全く蒸気が出ていない……」
「でしょー? 初心者の私では出来たほうだと思うの」
たしかに煙すらも出ないのは予想外だ。こんなに上手くいくとは。どれくらい熱したらいいのか分からないけど。
私の隣に立ったチエリは「で? 魔王がなんですか」とちょっと拗ねたような声で聞いてくる。チエリは勇者一行だったから魔王の話をされるのはあまり面白くないんだろう。
「魔王だったら私、魔法薬師について楽しく話せそうだなぁ、って思って」
「そんな事ないですよ。ほら、冷徹な奴でしたし」
「あれでしょ? 教会が治せない病は魔王が撒いたものー、ってやつ。どうやって思いついたんだろ?」
「それは嘘ですよ」
え、そうなんだ。
チエリを見つめれば、遠い目をして「あんな臆病者にそんな事出来たら、双子説を考えますね」と断言する。
チエリは魔王と会ったことあるから、どんな人なのか分かるんだ。拳を交えると心が通じる、ってやつなのだろうか。前に教えてもらった。
「どんな人?」
「ええー……」
「なんでそんな嫌そうなの!?」
「倒されたへっぽこ魔王になんで今更興味持つんですか」
私から横に一歩、チエリが離れる。逃げる気だ。
「うーん。なんか気になったから」
その一歩を私が移動して埋める。さっきよりも近くに。
「根拠がないです。薬師って科学者なんですよね? なら魔法薬師を目指しているソフィア殿も根拠が無くては」
「あ、そういう事言う」
近くに落ちていた木の枝を拾って、チエリの手を掴む。
「薬師って人の気持ちにも寄り添ったりしたんだって。人の気持ちって色んな名称があって、立証されてるの。私のこの気持ちもきっと名前がある。だから――」
掴んだチエリの手のひらに木の枝を置く。チエリは木の枝と私を交互に見つめた。
「魔王、描いて?」
「アッ無理です無理ですそれはちょっと某は絵を描くのは苦手でして」
「嘘だー! 冒険してるところ、絵葉書にして送ってくれたじゃん! あれチエリ作ってたの嘘だったの!?」
「嘘じゃありません! 某がソフィア殿に……あ」
言ってしまった、と口を手のひらで抑えるけど、出てしまった言葉はもうどうにも戻せない。口角が持ち上がる私に、チエリは露骨に嫌そうな表情をしてくる。
「某がエルリック殿に怒られます」
「エルはそんな事じゃ怒んないよ」
「ソフィア殿以外の事では、ですね。嫌です。某、木の枝では絵が描けない呪いにかかってるんです」
「魔王しか生み出せない病って呪いって言われてるもんね。最終決戦でかかったの?」
「某がへっぽこ魔王の呪いにかかるわけないじゃないですか! あーもう! どうにでもなれですよ!」
木の枝を勢いよく取ったチエリは、地面にしゃがんでサラサラと絵を描いていく。
頭頂部、腕、髪の毛、肩からマント、テーブル、以上。
「……え、なんで魔王がテーブルに顔を伏せてるの」
「最後に見た魔王はこんな感じでした」
「居酒屋で飲み比べでもして勝負決めたの?」
「違いますよ。とにかく魔王というのはこの思い出しかありません。以上です」
随分とクオリティの高いイラストだ。テーブルに顔を伏せている魔王は悲壮感が漂っている気がする。このテーブルの向かいにはエルが居たのだろう。まるでいじめっ子みたいだ。
「ふーん」
どんな顔してるのかな。
どんな表情しているんだろう。
顔が持ち上がったら、泣いてたりしたのかな。
この人に魔法薬師の事を話したらどんな反応するだろう。
世界を驚かせませんか? って言ったら頷いてくれるかな。
もし一緒に魔法薬師を目指せたら、絶対に楽しいだろうなぁ。
「あ、そうか」
「なんですか」
チエリは机に顔を伏せている魔王のイラストを早急に消していく。心なしか消し方が力がこもっている。よほど壮絶な戦いだったのだろう。
「恋だ」
「………………は?」
「相手の事を知りたくて仕方なくて、その相手と共に過ごす時間を考えてしまう場合、それは恋、って本に書いてあった。そっか」
「待って。待ってください。ちょっと待って!!」
待ての三段活用を繰り広げたチエリは、勢いよく立ち上がり「え、どうしよう無理これは知らせられないなんで言えばいい監督不届きなの嘘だ私は唆していない」と、ノンブレスで小さく呟いていく。顔色はとんでもなく悪い。
「その本、なんでそんな事記してあったんですか」
「クレモデアで侍女たちが女心をこちらで学んではいかがですか? って優しく教えてくれた本」
「いやそれ嫌がらせ! ちょっと待ってください今からその本を抹消しますだからそこに記してあったものは虚偽。いいですか」
「全世界の女性が読んでるバイブルって言ってたよ」
「私は! そこに居ないので! 全世界じゃありません!」
「近い近い近い近い」
私の両肩を掴んで、必死な形相で伝えてくるチエリの目は血走っている気がする。
「そもそも倒されたんでしょ? なら私は会わないから想う気持ちは叶わないよ」
「ンンンンンッ」
「なんの鳴き声?」
「ちょっと今、現実に向き合いたくないので待ってください」
そうか。これが恋なのか。
恋をしたと思ったら、相手が故人というのがなかなか面白い。いつか魔王の側近で生き残りが居たら、是非とも話を聞いてみたいものだ。
「私、魔王に恋したんだぁ」
「ウワー!!」
チエリの断末魔が大きく響いた。
レンガで作った窯の底に敷き詰めるように、薪とコンロで使っている魔法具を入れていき、炎の魔法を起こさせる。その上にチエリとゲラルドが集めてくれた油が入った鍋を乗せて、入り口を重い石で閉じる。
油がどれくらいで蒸発するのか知らないけど、きっと水よりも時間がかかるだろう。
「どーやってゲラルドと仲直りしようかなぁ」
そもそも「ごめんね」と謝って、原因を聞かれたら何となくは分かるけど今後そういったことはしないか、と問われれば私は肯けない。自分の本心を隠してまで仲良しこよしなんて私は出来るわけがないんだ。
エルのように人当たりのいい性格ではないのは分かってる。チエリのように義理固い性格でもない。
別に羨ましいと感じたことはない。それによって生きにくそうだなぁ、と感じるものもあるから。
ゲラルドが出て行ったらそれはそれで良いと思う。ちょっと残念くらい。
ただあんなに私の事を気に掛けているのに、私がゲラルドの事を考えないのは少しフェアじゃないというか。
「ゲラルドってどんな環境に居たんだろ」
人の性格の形成は環境が一番影響を与える、って前にどこかの本で読んだ。
きっとその辺の人よりも強いであろうゲラルド。なのに他人のことを気にする。
前になんか人間関係でトラブルがあったのかな。強過ぎるから嫉妬されたとか、崇められたとか。どちらにせよ面倒くさそう。私なら無理。
「あー分かんない」
今の時代は生物による研究が教会から禁止されている。だからなにも進んでいない。大半のことが白魔法で片付いているから。
でもそれで片付いていないケースだってある。それを教会は魔王の仕業だと言った。
「魔王って誰なんだろ」
エルが倒しちゃったけど。
もし教会が言ってる事が本当なら、魔王は生物の研究でもしてたのかな。だから魔法では治せないものを生み出せたとか?
科学の進化には犠牲はつきもの。
それは現在の魔法具が成り立つまででよく分かっている。
きっと無機物でそうだったなら、有機物――生物ではもっと犠牲がある。だから教会は禁忌とした。殺生を嫌うだけある。
「魔王とだったら話が合いそうなんだけどなぁ」
「なんて物騒なこと言ってるんですか」
「あ、チエリ」
「窯の出来、すごいですね。全く蒸気が出ていない……」
「でしょー? 初心者の私では出来たほうだと思うの」
たしかに煙すらも出ないのは予想外だ。こんなに上手くいくとは。どれくらい熱したらいいのか分からないけど。
私の隣に立ったチエリは「で? 魔王がなんですか」とちょっと拗ねたような声で聞いてくる。チエリは勇者一行だったから魔王の話をされるのはあまり面白くないんだろう。
「魔王だったら私、魔法薬師について楽しく話せそうだなぁ、って思って」
「そんな事ないですよ。ほら、冷徹な奴でしたし」
「あれでしょ? 教会が治せない病は魔王が撒いたものー、ってやつ。どうやって思いついたんだろ?」
「それは嘘ですよ」
え、そうなんだ。
チエリを見つめれば、遠い目をして「あんな臆病者にそんな事出来たら、双子説を考えますね」と断言する。
チエリは魔王と会ったことあるから、どんな人なのか分かるんだ。拳を交えると心が通じる、ってやつなのだろうか。前に教えてもらった。
「どんな人?」
「ええー……」
「なんでそんな嫌そうなの!?」
「倒されたへっぽこ魔王になんで今更興味持つんですか」
私から横に一歩、チエリが離れる。逃げる気だ。
「うーん。なんか気になったから」
その一歩を私が移動して埋める。さっきよりも近くに。
「根拠がないです。薬師って科学者なんですよね? なら魔法薬師を目指しているソフィア殿も根拠が無くては」
「あ、そういう事言う」
近くに落ちていた木の枝を拾って、チエリの手を掴む。
「薬師って人の気持ちにも寄り添ったりしたんだって。人の気持ちって色んな名称があって、立証されてるの。私のこの気持ちもきっと名前がある。だから――」
掴んだチエリの手のひらに木の枝を置く。チエリは木の枝と私を交互に見つめた。
「魔王、描いて?」
「アッ無理です無理ですそれはちょっと某は絵を描くのは苦手でして」
「嘘だー! 冒険してるところ、絵葉書にして送ってくれたじゃん! あれチエリ作ってたの嘘だったの!?」
「嘘じゃありません! 某がソフィア殿に……あ」
言ってしまった、と口を手のひらで抑えるけど、出てしまった言葉はもうどうにも戻せない。口角が持ち上がる私に、チエリは露骨に嫌そうな表情をしてくる。
「某がエルリック殿に怒られます」
「エルはそんな事じゃ怒んないよ」
「ソフィア殿以外の事では、ですね。嫌です。某、木の枝では絵が描けない呪いにかかってるんです」
「魔王しか生み出せない病って呪いって言われてるもんね。最終決戦でかかったの?」
「某がへっぽこ魔王の呪いにかかるわけないじゃないですか! あーもう! どうにでもなれですよ!」
木の枝を勢いよく取ったチエリは、地面にしゃがんでサラサラと絵を描いていく。
頭頂部、腕、髪の毛、肩からマント、テーブル、以上。
「……え、なんで魔王がテーブルに顔を伏せてるの」
「最後に見た魔王はこんな感じでした」
「居酒屋で飲み比べでもして勝負決めたの?」
「違いますよ。とにかく魔王というのはこの思い出しかありません。以上です」
随分とクオリティの高いイラストだ。テーブルに顔を伏せている魔王は悲壮感が漂っている気がする。このテーブルの向かいにはエルが居たのだろう。まるでいじめっ子みたいだ。
「ふーん」
どんな顔してるのかな。
どんな表情しているんだろう。
顔が持ち上がったら、泣いてたりしたのかな。
この人に魔法薬師の事を話したらどんな反応するだろう。
世界を驚かせませんか? って言ったら頷いてくれるかな。
もし一緒に魔法薬師を目指せたら、絶対に楽しいだろうなぁ。
「あ、そうか」
「なんですか」
チエリは机に顔を伏せている魔王のイラストを早急に消していく。心なしか消し方が力がこもっている。よほど壮絶な戦いだったのだろう。
「恋だ」
「………………は?」
「相手の事を知りたくて仕方なくて、その相手と共に過ごす時間を考えてしまう場合、それは恋、って本に書いてあった。そっか」
「待って。待ってください。ちょっと待って!!」
待ての三段活用を繰り広げたチエリは、勢いよく立ち上がり「え、どうしよう無理これは知らせられないなんで言えばいい監督不届きなの嘘だ私は唆していない」と、ノンブレスで小さく呟いていく。顔色はとんでもなく悪い。
「その本、なんでそんな事記してあったんですか」
「クレモデアで侍女たちが女心をこちらで学んではいかがですか? って優しく教えてくれた本」
「いやそれ嫌がらせ! ちょっと待ってください今からその本を抹消しますだからそこに記してあったものは虚偽。いいですか」
「全世界の女性が読んでるバイブルって言ってたよ」
「私は! そこに居ないので! 全世界じゃありません!」
「近い近い近い近い」
私の両肩を掴んで、必死な形相で伝えてくるチエリの目は血走っている気がする。
「そもそも倒されたんでしょ? なら私は会わないから想う気持ちは叶わないよ」
「ンンンンンッ」
「なんの鳴き声?」
「ちょっと今、現実に向き合いたくないので待ってください」
そうか。これが恋なのか。
恋をしたと思ったら、相手が故人というのがなかなか面白い。いつか魔王の側近で生き残りが居たら、是非とも話を聞いてみたいものだ。
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