落花流水、掬うは散華 ―閑話集―

ゆーちゃ

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囲碁

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 物騒な事件が起きることもなく、平穏なある日の昼下がり。
 近藤さんと土方さんが広間に面した縁側に腰を下ろし、囲碁を打ち合っていた。

 勝負の行方を見守るのは山南さん、井上さん、沖田さん、斎藤さん、藤堂さん、永倉さん、原田さんという所謂試衛館出身の幹部達。そして、山崎さんと私だった。
 詳しいルールを知らない私は、どちらが優勢なのかもわからず碁盤を覗き込みながら訊いてみた。

「どっちが勝ってるんですか?」
「近藤さんに決まってるじゃないですか~」

 すかさずそう答えた沖田さんは、自分が打っているわけでもないのにどこか得意げだ。
 そんな沖田さんを睨むのは、胡座の上で頬杖をつきながら空いた手で碁石を弄ぶ土方さんだった。

「うるせぇ総司。気が散る」
「このままだと、今日は近藤さんの勝ちかもね」
「平助、勝負はまだ終わってねぇ」
「歳、男なら引き際も肝心だよ?」
「山南さん、ちょっと黙っててくれるか」

 みんなの会話からして、どうやら土方さんの負けは時間の問題のようだった。

「まぁ、勝負は最後までわからんからな。油断は出来ん」

 そうは言うものの、近藤さんの顔は勝利を目前にして嬉しさを隠しきれず……といった表情を浮かべている。
 ところが、二手、三手と進めるうちに近藤さんの顔からは笑みが消えていき、次第に土方さんの表情にも余裕が見え始めた。

「さすがは土方さん。面白くなってきたな」

 永倉さんが腕を組みながら感心したように言えば、原田さんは覗き込んでいた碁盤から身体を反対側へと倒し、両手で支えるようにくつろぎながら言う。

「こりゃ、まだまだ勝負はつきそうもねーな」
「ふん、すぐに終わらせてやるさ」

 そう言って鼻を鳴らす土方さんは、さっきまでとは打って変わって自信満々に碁を置いた。

「土方さん……そこは……」

 斎藤さんがぽつりと溢せばどうやらそれは決定打だったらしく、碁盤を睨み付ける勢いで凝視していた土方さんが、何かに気づいて頭を抱えながら崩れた。

「副長、ここは甘いものでも食べて次戦に備えてはどうですか?」

 山崎さんがお盆の上に乗った小さな陶器で出来た器の蓋を開ければ、いつの間にか、井上さんまで人数分のお茶を用意してくれていた。

「ほら、丁度茶も淹れたぞ」

 お茶配りを手伝い終えると、ちらっと器の中身を覗いてみた。

「あっ、金平糖」
「さっき山崎君と買い出しに行った時に買ってきたんだ」

 そう言って、器に手を入れた井上さんが金平糖を数粒私の掌に乗せてくれる。
 そこから一粒摘まみ上げれば、不貞腐れたように寝転ぶ土方さんの掌に乗せてみた。

「甘いもの食べると、頭の回転がよくなるらしいですよ」
「うるせぇ!」

 そう言いつつ、土方さんは一粒の金平糖を口に放り込むのだった。
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