落花流水、掬うは散華 ―閑話集―

ゆーちゃ

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折り紙 (本編137話頃)

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 今朝も、私の後ろに隠れるおたまちゃんと一緒に玄関先で藤堂さんを見送れば、二人で道場の敷地内を走り回って遊び、午後は部屋の中で折り紙をしていた。

 定番の鶴から風船、手裏剣なんかも作ってあげればとても喜んでくれる。
 今度は飛行機を折って、おたまちゃんの前で飛ばしてみた。折り紙で作る飛行機は長方形の紙で作るものとは違い、優しくふわりと飛んだ。

「わぁ!!」

 声をあげて喜ぶおたまちゃんが、部屋の隅で飛行機を拾い上げ、目をキラキラさせながら駆け寄ってくる。

「ハウ。これなあに?」
「これはね、ひこー……えーっとね……」

 飛行機と言ったところで通じない。どうしたもんか……。
 うーんと首を傾げていれば、おたまちゃんが訊いてくる。

「ちょうちょ?」
「うーん、ちょうちょではないかなぁ」
「とんぼ!」
「うーん、とんぼでもないんだなぁ……」
『うーん』

 二人声を揃えて唸っていれば、突然後ろから声がした。

「鳥じゃない?」

 驚いておたまちゃんと同時に振り返れば、そこには隊務を終え帰ってきた藤堂さんが立っていた。

「あ、おかえりなさい」

 そう告げれば、さっきまではあんなに元気だったおたまちゃんが、座っている私の背中に隠れた。
 そんなおたまちゃんに近づくように、藤堂さんが私の目の前に来てしゃがみ込む。

「ただいま。おたまちゃんも、ただいま」

 近頃の藤堂さんは、こうしておたまちゃんに話かけることが増えた。
 そのおかげか、最初こそ背中に顔を埋めて無言だったおたまちゃんも、私の肩越しから恥ずかしそうにひょっこりと顔を出し、その小さな頭をこくんと縦に振れば小さな声がこぼれる。

「……うん」

 そんな可愛らしいおたまちゃんに向かって、藤堂さんが言う。

「さっきのさ、鳥じゃないかな?」
「とい?」
「ん? いや、鳥」
「……とい?」

 幼い子供にラ行は難しい!
 首を傾げ合う二人に思わず吹き出せば、おたまちゃんが不思議そうに私を見た。

「……ハウ?」

 それを聞いた藤堂さんも、お手上げとばかりに私を見る。

「春、おたまちゃんに鳥だって教えてあげて」

 まぁ、そもそも鳥ではないうえに、おたまちゃんはきっと、鳥って言っているつもりなんだよね。
 握ったままの飛行機を見つめたおたまちゃんが、ぱぁっとまんべんの笑顔を浮かべた。

「とい! ハウ、とい!」
「あ、うん。そうだね、鳥だね!」

 可愛いから、もう鳥でいっか。
 藤堂さんにもラ行の発音は少し難しく、鳥と言っているつもりなのだと説明すれば納得してくれた。

「とうどうへいすけ。オレはラ行入ってないから、春と違ってちゃんと呼んでもらえそう」
「いいんです! おたまちゃんが可愛いからいいんです!」

 むしろ、おたまちゃんならもうずっとハウのままでいい!

「可愛いは正義です」
「何それ、アンタってホント面白い」

 そう言って笑い始める藤堂さんを、おたまちゃんがビシッと指さした。

「へーしゅけ!」

 あー、うん、そうだね。サ行も難しいよね!

「平助」
「へーしゅけ!」
「へ・い・す・け!」
「へーしゅけ!!」

 必死に訂正する藤堂さんの横で、今度は私が笑いをこぼすのだった。
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