落花流水、掬うは散華 ―閑話集―

ゆーちゃ

文字の大きさ
11 / 15

意地を張る理由 (本編229話頃)

しおりを挟む
※他サイトでですが、本編の連載が二周年を迎え、勢いと思い付きの記念投稿です。
※公開する予定はなかった裏設定(ストーリーに矛盾が出ないよう心情を中心に走り書きしていたモノ)がベースです。(一応読める程度には直しました!)
※本編229~230話、春が御陵衛士へ行くと言い出した時の土方さんサイドのお話です。



 * * * * *



「私、御陵衛士ごりょうえじに行きます」
「……は?」

 真っ暗な部屋の隅で蹲っていたかと思えば、突然何を言い出すんだ?

「ですから……御陵衛士に行きま――」
「寝言は寝てから言え」

 おでこを弾いてやった。
 余りのくだらなさについ加減をし忘れたが、つまらん冗談を言うお前が悪い。

 文机へ向かい書状を手に取るも、隣にやって来たかと思えば話を聞けとしつこい。
 仕方なく話を聞いてやりゃあ、御陵衛士の活動が上手くいけば新選組に有益な情報をもたらせるだと?

 お前が新選組を離れたくないのはよくわかっているつもりだ。何なんだ。
 つくならもう少しマシな嘘をつきやがれ。伊東の受け売りまんまじゃねぇか。
 ……あいつが何か仕掛けてきたか?

 伊東がこいつを気に入ってるのは知っている。斎藤や新八、そしてこいつを衛士へ連れて行きたいと直接申し入れてくるくらいだ。
 斎藤だけを許可したが、それじゃ納得出来ず直接働きかけたか。

 だが、普通に誘ったところでこいつなら断るだろう。
 それをしないという事は、つまり、断れない状況……脅されているのか?
 だとしたら何を? 秘密か? バラすと脅されたか?

 こいつは秘密が公になれば新選組にいられなくなるとわかっている。
 ただ追放されるくらいなら、少しでも繋がりの持てる衛士へ行き、そこから新選組に関わると決めたか。

 馬鹿野郎。
 どうしてそれを打ち明けて頼らねぇんだ。一人で抱え込むなと言っただろうが。
 そんなに俺は頼りにならねぇのかよ。

「勝手にしろ」

 気づいた時にはそんな言葉を放っていた。



 意地っ張りはお互い様か?
 あれから碌な会話もしねぇまま、気づけば前夜じゃねぇか。

 今頃荷物を纏め出したが、お前がやるべき事はそうじゃねぇ。
 助けてくれって、どうしてその一言が出ねぇんだよ。

 まさか、本当にこのまま出ていくつもりか?
 ……ああ、くそっ。



「俺に言わなきゃならねぇ事があんだろう」
「えっと、今までお世話になりま――」
「馬鹿。そうじゃねぇだろうが」

 あのなぁ。ここまでお膳立てしてやってるのに何で言わねぇんだ。
 核心を突いてやろうか。逃げんなよ。

「伊東に脅されてんだろ?」
「ッ!?」

 そんなんでこの俺を騙せるとでも思ってんのか……。

「大方、秘密をバラすとでも脅されてんだろ。お前の考えてることなんざお見通しなんだよ」
「違い、ます。そんなんじゃありません」

 何が違うだ。全部顔に出てんだよ、馬鹿。
 俺だって折れたんだ。いい加減、お前も意地張るのはやめろ。

「あのな、お前が言わなきゃいけねぇのはたった一言、“助けてくれ”だろうが。何で頼らねぇんだ。意地張ってんじゃねぇよ」
「意地なんて張ってません。御陵衛士へ行くと決めたのは、私の意志です」

 この期に及んでまだ言うか。
 普段のお前なら、そろそろ折れてもおかしくねぇはずだが。
 おおよそ俺にバレてるとわかっていながら、なぜそこまで意地を張る?

 ……何だ? まだ何かあるのか?
 お前がそこまで意地になるような事……おそらく、自分自身の事だけじゃねぇんだろう。
 だとすれば他の誰か……。

「……チッ。そういうことか……」

 ようやく繋がった。

「お前が意地になってる原因は俺か。俺の首でもかけられたか」

 ずっと近くにいる俺なら、こいつの秘密を知っていると考えるのが妥当だろう。
 つまり、副長という立場にありながら、こいつの秘密を一緒になって隠してきた。そんな俺も断罪されて当然というわけか。

 お前の表情も態度も、肯定しているに等しいくせにいまだ首を左右に振りやがる。

「餓鬼か! この意地っ張りが!」

 俺も大概だが、お前ほどじゃねぇ!

 俺のせいで今まで意地張ってただなんて笑えねぇんだよ。
 そのうえ、行きたくもねぇ衛士へ行くだと? ふざけんな。

 お前一人に背負わせるような、んな格好悪ぃこと出来るか!
 こうなったら局長である近藤さんに全て打ち明ける。

「離してください! どこ行くんですか?」
「近藤さんの所だ。全部打ち明ける。そうすりゃ、お前が衛士へ行く理由はなくなんだろ」
「それだけはダメですっ! そんなことしたら――」

 そんなことしたら?
 ほらな。俺の読みは当たりじゃねぇか。

 安心しろ。
 俺の首一つで済ませてやる。
 新選組にはいられなくなっちまうだろうが、せめて今後の生活には困らねぇようしてもらうさ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

偽夫婦お家騒動始末記

紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】 故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。 紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。 隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。 江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。 そして、拾った陰間、紫音の正体は。 活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...