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第1章 取材と言う名の潜入捜査

【聖域再訪】

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 10数年前通っていた小説「レイナ」の舞台だった
「Girls Street」が「Re:Incarnation」と名を変えて

再度オープンしていたことは知っていた。

懐かしい思いにかられながら店内に入ると誰もいない…

あれ?何だか以前と雰囲気が変わってるな、
そう思いながら立ち尽くしていると

後ろから声がした。

「あ、すみません!今、誰か呼んで来ますので…」

しばらくすると黒いベストを来た男が現れ
この店は現在閉店して案内所となっていて

向かい側のビルに新たに同系列のお店が
2店舗開店していることを告げられた。

料金の相場はあの頃より
少し上がっているように思えたが

代わりにグレードは上がっている…?
話を聞いてそう感じた。

ひとつは若い女の子メイン、
もうひとつは人妻メインのお店で

金額を少し上乗せすれば
ラストまで体験出来るコースもあるとのことだが

俺の今日の目的は"本番"を楽しむことではない。

むしろ小説を書くための情報や
女の子からインスピレーションを授かるための
“潜入捜査”なのだから。

ひと通り内容を聞かされ俺が選んだのは
人妻さんがメインの「Dream Fantasy」なるお店。

今回はとりあえず短い時間でそれなりに
何か刺激や構想を得られれば、と思い

割りとお手頃なコースを選択した。

「指名は無しでいいですよ」

基本、初めて行くお店で誰か女の子を指名することはない

写真や自己紹介の文言だけで決めない、
と言う理由もあるが

指名せずにお店が最初にお薦めしてくれる女の子で
その店のクオリティを測る、と言う意味合いもある。

今後も行くか否かはそこのお店の最初の対応次第、と言うわけだ。

すると店員さんが俺に尋ねた

「好みのタイプの女の子はいますか?」

随分丁寧な対応だな、

これまでなら指名をしない時点で
そのまま通されるのがオチだってのに…

やはり例のウイルスの影響で客足が減り
色々と対策を打ち出しているのだろうか?

「好み…ですか?」

「そう、例えば若い娘がいいとか、スリムとかぽっちゃりが好きとか…あります?」

「うーん、せっかくなので若いに越したことはないですけどね…」

「若い…若いに越したことはない…?そうですよね、そりゃそうです」

「あと、楽しい娘がいいですね、ほら、プレイとのギャップみたいなのに弱くて…」

何だか聞いたことのある台詞、

そう「レイナ」の中でも登場人物は
同じことを話していた…

つまりは俺の常套句と言うわけだ。

「なるほど、わかりました」

「あ、あと、細身で猫目なら言うこと無しです」

予期せぬ質問に最初は戸惑っていた俺だったが
気づけば随分饒舌に好きなタイプを語っていた。

「かしこまりました、それでは女の子の準備が整うまでお待ちください」

そう言われて待合室に通された。

カーテンで仕切られた狭い部屋には
在籍中と思われる女の子の写真や自己紹介文が
ずらりと並んで展示されている

さて、どんな娘が出てくるのやら?

まあ、何にせよワンナイトスタンドだ…

刹那の悦楽を楽しませてもらって快感を貰えれば
何か閃いて「レイナ」の続編を執筆するための
きっかけになるかも知れない。

俺は落ち着きなく待合室の中をウロウロしながら
無料のミネラルウォーターを飲みながら
時が来るのを待っていた。

ほどなく受付にプルプルと電話のベルが鳴る、
これこそ女の子からのラブコール…

準備が出来たと言う合図だと俺は知っている。

「お客さま、お待たせしました」

「あ、はい」

「それではこちらの番号札を女の子に渡してください」

胸の高鳴りを抑えながら無言で札を受け取った俺は
おもむろに立ち上がり店員さんの後ろをついていく。

「カーテンの後ろで女の子お待ちです、ごゆっくりどうぞ」

緊張の瞬間…

さあ、どんな女の子が迎えてくれるのだろう?

「いらっしゃいませぇ…」

目の前に立っていたのは…
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