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第1章 取材と言う名の潜入捜査

【周章狼狽】

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 それはまだ寒さの残る2月の最終週のことだった、
火曜日が休みの時に必ず行く場所、

それは某レンタルCDショップ。

レンタル代が半額になる曜日が公休だと
俺は必ずそこへ行く。

この日も夜勤を終えると着の身着のまま、
ほぼ部屋着で車に乗り込んで数枚のCDをレンタルすると
午後1時過ぎ、いつものルートで家路に急いだ。

半額デーの上に当日レンタルだと更に安価になる、
大急ぎでパソコンに取り込んで早々に返却するためだ。

と、その帰り道にふと視界に飛び込んできたのが
「レイナ」の舞台となった例のお店。

 もうレイナがこの店から居なくなって10年以上経つ
ここには小説書くのに行き詰まって3年前に行ったな…

あの時お相手となった女の子は確か25歳、

ほぼすっぴんで童顔だった記憶があるが
どんな顔だったかは正直思い出せない、

多分…タイプではなかったんだろうな。

地元が大阪で彼氏が風俗のスカウトマン…
そんな話をした記憶が甦る。

トラウマがあるから、って何故か頬っぺたを
触られるのを拒んだのに

今日ゴム持って来てるから挿れていい?
なんて言われて…

ーえ、こんなことしていいの?

「大丈夫だよ、私がしてほしいだけだから、でも騎乗位でお願い…上に乗りたいの」

ま、女の子が望んだことだからいいか…なんて
考える隙も与えず

俺の上に乗っかって思い切り腰を振ってたな、
あの娘。

そんな妖艶な時間を過ごしても何故か
レイナの時のような感覚にはならなかった、

名前も聞かないまま再会の約束もせずに
部屋を出たんだった。

やっぱ風俗って基本、一期一会であるべきだろう、

レイナの時みたいに
何度もお店に通ってSNSで連絡取ったり、
ブログにコメント貰って返信したりなんて

あんな出会い、もうこの先無いんだろうな…

だって、いくら気持ちが若くて
昔みたいに好きなことやってたって時間の流れは残酷だ

を楽しむにしては、もう俺は歳を取りすぎた。

もう五十路なんだからさ…

だから今回も“取材”にかこつけることで
自分を納得させて

小説のネタ探しと刹那の快楽を求めて
久しぶりに行ってみるとするか…

ここ最近、仕事に追われ趣味の制作にも苦悩している
頑張ってる自分にご褒美あげてもいいんじゃないか?

突然思い立った俺は大急ぎで家に戻った。

風俗に行く前俺が必ずやること、

とりあえず必要最低限のエチケットとして
爪を切り、目立つ無駄毛は応急的に処理、

それを済ませると何かに急かされるように
慌てふためいて再び家を出た。

車に乗り込みシートベルトを装着した瞬間

「痛たたたっ!」

胸に針を刺されたような痛みを感じた。

間違いない…乳首周辺の毛を処理した際
ガード付きのカミソリで皮膚を切ってしまったようだ。

それでもハヤる気持ちの方が勝ったらしく
俺は傷口を確認することなく車を走らせた。

そしてあの懐かしい店の隣にある駐車場へと
車を乗り付けた。
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