上 下
22 / 68
第4章 深淵へ

【比翼連理】

しおりを挟む
 時折、俺に続けていた愛撫を中断しながら
さりーは話し始める

「私、“さりー”って名前にちょっとしたトラウマがあってね…」

「え?変なニックネームつけちゃった?」

「ううん、大丈夫、私、小さい頃プリキュアが好きで…」

ークリスマスプレゼントにプリキュアが欲しいって
おじいちゃんにお願いしたんだけと…

「うん」

「何故か魔法使いサリーのね…グッズを…」

ーほらせっかく買ってくれたのに
無下に出来ないでしょ?

だから…

「で、サリーちゃんのグッズを受け取ったんだ?優しいんだね」

「そう!それ以来サリーちゃん見ると思い出すんだ、まさかその名前を…ねっ!つけられるなんて」

「何か不思議な繋がりだなぁ」

「だよね!ははは!」

 そんな曰く付きの名前をつけられると
さりーは予測していただろうか?

少なくとも俺は何も知らなかった。

これが俺とさりーとの偶然のような
運命のような不思議な接点の始まりだった。

「じゃあさ、私がつけた“光々”の由来、教えてあげよっか?」

「うんうん!気になる、興味津々」

ー日曜日の夕方、やってるアニメ…知ってるよね?
あっちじゃなくてこっちの方…

「6時から始まる方…だね?」

ーそう!で、あの中のCMでね…

「みつみつみつみつみつ~♪て歌うの」

「え?そんなCMあるの?まるちゃんが歌うの?」

「うん!それ観て、あ、みつみつーって連呼してるー!て、なってね、もう頭から離れなくって!」

「そうなんだ?じゃ週末に録画して観てみるよ」

「うん、笑うよ、絶対に!」

 初めての時から感じてはいたが
本当に人懐っこくてかわいらしい、

大人っぽさの中に潜むあどけなさとでも言おうか、
それが前回よりも更に増していて

ビジュアル、話し方、雰囲気、
そのどれもが会ったばかりと思えない、

そしてまだどこかよそ行きだった雰囲気が
今回は完全に払拭されて
まるで旧知の友人と話しているようだ。

初対面の時に感じていた、
過去の何処かで会っているような感覚…

その謎もおいおいと明かされてゆくのだろう。

いや、もう自分の深層心理の中では
誰だかわかっているはずだ。

そしてさりーは思い出したように俺の首筋に顔を寄せ
くんくんと匂いを嗅ぐや否や

「光々、今日いい匂いするー!」

「あ、これ?ビレバンとかに売ってるデオドラント的な、ね」

「あー!わかるわかる、あるよね…てやっぱ若いね、感覚が」

「いや、さりーだっていつも…」

そう言って俺はわざとらしく鼻を鳴らすように
さりーの髪の毛に顔を擦りよせた。

「きゃっ!」

「はは、変態モード発動してやった」

「いいよ…全然」

さりーが拒まないのをいいことに
俺もまた前回よりは大胆な行動を…

それだけの“実績”をこの2週間のトークで
積み上げてきたつもりだった。

「そうだ!さりー、ひとつお願いがあるんだ…」

「ん?なあに?」

「ほら、この前話した…小説に書いた風俗の女の子…レイナのことなんだけど」

「うん…」

「その娘はね、ある日突然お店からいなくなって二度と会えなくなった…」

ーだからね、もしも…もしもさりーが
このお店、退職することになった時は…

約束してほしいんだ…


「うん、絶対に言うよ!もし誰かにバレて急に辞めなきゃいけなくなっても…光々には前もってこっそりとトークで伝えるから!心配しないでね!」

まだ全て話していないのに、さりーは
俺が何を言おうとしているのか全て察していた…

「やっぱ家族には内緒で…」

「そりゃ、ね!言えないもん」

3年前にお相手した女の子の彼氏が
風俗のスカウトマンだったことを思い出し

まさか公認で、と思ったりもしたが
そもそもさりーは独身ではない

ここまでの雰囲気からすっかり独身のような
気持ちになっていたが

そうでないことは聞かされていたし
そもそもこのお店は人妻風俗店だった。

「私、こう見えて三児の母なの」

ーえっ?…

と、言うことは概算で逆算しても
10代で母親、なんて可能性がある。

「ふふ…18で母親よ、私」

「そうなんだ…?」

 何故このお店で?何がきっかけで?
様々な想いが頭をよぎり色んな境遇を想像した、
だがそれは余計な詮索と言うものだ。

それを聞くにはまだ時期尚早、
きっと時が流れ、話せる日が来たら

その真実はきっとさりー本人から
直接聞かされることになるかも知れない。

それまではこちらから聞くのはやめておこう…

俺はそんな妄想を抱きながら
さりーからの優しい攻めを受けていた

が、さりーが馬乗り状態とは言え
常に顔が触れる距離で向かい合わせで話している。

至福の70分はまだ始まったばかりとは言え
もう10分以上経過していた、

ここは風俗のお店にも関わらず

未だ俺たちはそれほどプレイらしき行為を
ほとんどしていなかった、

もう俺とさりーにはそんな行為がなくとも
互いを知ることが出来るかのように…
しおりを挟む

処理中です...