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第6章 待ってる

【魔法少女】

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「うれしぃ~!また会いに来てくれて!」

俺の悲壮な決意を知らないさりーは部屋に入るなり
いつものような無邪気な表情で俺を抱きしめ

目を閉じるとその柔らかな唇で俺を優しく包み込む。

しばしその快感に酔いしれながら
互いにあっと言う間に全裸になると
いつものようにシャワーへと向かった。

さりーはいつも以上にご機嫌に見える

サプライズ登場にテンションが上がったのか?
それとも純粋に俺と会うことに喜びを感じているのか?

いずれにしてもこんな状況なら話は切り出しやすい。

「ちょっと待っててねー、温度ちょうどよくなるまで…」

シャワーの温度調節を済ませたさりーは

「えいっ!」

おもむろに俺の“あの部分”へお湯をかけた

「あいてててー!」

「あ、大丈夫?痛かったぁ?ごめんね」

「いつもながら水圧…すごいよね」

「よしっ、それじゃ…」

さりーは蛇口とシャワーヘッドを睨みながら
何かの呪文をかけるかのように

「はい!これで大丈夫」

「あ、ほんとだ、ちょうどよくなってる」

「ほらね、魔法使えたよ…さりーだから」

「それ、俺らにしかわからないやり取り」

「だよねー!光々がつけてくれた名前だもん」

「他の人には使わせんなよ、その呼び名」

「もちろんだよー!」

いつもの明るい感じに少し心が和んだ、
そしてまだまだトークのネタが尽きることはない。

「昨日、早退してたよね?体調悪くなった?大丈夫?」

するとさりーはそうそう!と言った表情で

「あ、あれね、子供が火傷したって連絡あったから、慌てて病院連れてったの」

「え?大丈夫だった?痕とか残らない感じ?」

「うん、そんなにひどくなかったから…ありがとう、心配してくれて」

俺の小学校時代の友人で顔に火傷を負ってしまい
大きくなっても痣のように残っていた人がいた

ふとそのことを思い出して聞いたのだった。

「うん…やっぱり気になるから」

俺はてっきり火傷したのはさりーの娘さんだと思って
そんな風に言ったのだが

後に“真実”を知って驚愕することになるなど
この時は考えてもいなかった。

「しばらく通院しなきゃ行けないから私もしばらくは遅刻するかもね」

「そうそう!大事だもんね」

「でもここなら前もって言っとけば遅れても何も言われないし、よかったー、って思うんだ」

「そうだね、融通利くのは何よりだよ」


そしてさりーはいつものことながら突然話題を変え

「そうそう!光々の推しのプロレスラー、観たよぉ!鹿島さん!」

そうだった、前回KAIRI選手の話題が出た時
俺の推し選手まだいるから紹介する、

そんな話をした後にトークで
鹿島沙希選手のことを話題にしたのだった。

「試合も観たんだ?」

「うん!何か悪役なのにかわいいよね、で…」

「で…?」

「光々の好きなタイプ…段々わかってきたかも」

「そう?でも俺の一番好きなのはさりーだから」

あまりにもあっからかんとした“告白”にも

「だよね…そりゃそうだよね」

「こんなに会いに来てるし」

戸惑うことなく受け止めるさりー、
この安心感が彼女の魅力でもある。

そして俺が薦めたものを直ぐチェックしてくれる優しさ
こうして俺はどんどんと図に乗っていくわけだ。

 こんな空気感の中でシャワーを終えると俺はまず
今日伝えたかった話のひとつを遠回しに切り出した。

「さりー…あのさ」

「ん?なぁに?」

ーいつもしてるトークの中で気になることとか
気を悪くさせるようなこと、俺書いてない?

大丈夫かな?ってちょっと気になってね…
割りとそう言うの、気にするタイプだから


突然真面目な顔で切り出した俺を見て
さりーは一瞬きょとんとした表情を浮かべたが
すぐにいつもの笑顔に戻り

「うぅん…全然ないよそんなの、すごく楽しいよ」

「めっちゃ長い文章とか返信、大変じゃない?」

「全然!私、気になることとかあったら黙ってられない性格だから…」

「うん、確かにそれは感じた」

「でしょ?だからそんなの気にしなくていいよ!」

さりーは笑顔で俺を嗜めるようにベッドへ誘った。

「もう!光々最近サプライズ多め!」

「こう言うの好きなんだよね」

「私さ、この前…娘に初めてアレ…やられた」

「え?何なに?」

「ビリビリボールペン!」

「あ、テレビのドッキリとかでよくある」

「そう!あれ痛いんだよね、意外に」

「そうなんだ、俺無理だな、それじゃ」

「その前はゴキだよ…虫のおもちゃみたいなの」

「さりー騙されっぱなしじゃん」

「そう!私、かかりやすいのかな?」

「じゃ俺これからもサプライズしよっかな」

「寿命縮まるのはやめてね…じゃ…」

そう言うとさりーはにっこり微笑むと
俺に覆い被さりいつものように愛撫を始めた。

きっかけもタイミングもいきなりだ、
でもそのギャップにいつもやられている。

「今日はぁ…光々が責めてくれるんだ…よね?」

前回の“あの話”を覚えていたさりーは
そう言いながら潤んだ瞳で俺を見つめた。
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