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第10章 そしてふたりは…

【裸裸赤裸々】

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 その翌日、例のサプライズ登場がなければ
さりーと会っていたであろう5月10日の早朝

俺は息子と二人、さりーの働くお店の近くで
カメラを回していた

彼女をテーマにした例の曲の
いわゆるミュージックビデオ的な動画作成のためだ。

表向きはありふれたラブソングのようで
実は風俗嬢との恋愛を描いた稀有なテーマのこの曲

俺がさりーに会いに行く道程と
さりーがこのお店に出勤するルートを重ねて

そこでふたりが出会う、
そんなイメージの動画を作ろうと考えていた。

 一介の風俗嬢に向けて彼女との日々を小説に書き
彼女のために曲を作る…

どう考えても尋常なスタンスとは思えない…が
これが二人の間では当たり前な事象となり

俺は完成に向けてインスピレーションを膨らませ
日々、制作に打ち込む。

そしてそれらが真っ当な評価を受ける日が来れば
俺のしていたことは
あながち間違いではなかったことが証明される。

この出会いを自分の名を知らしめるために
利用するかのような不謹慎な思いに駆られながら

俺は息子の協力のもと撮影を続けた。

もうさりーの働くお店の目と鼻の先にある
コンビニあたりでもカメラを回し

時計を確認すると9時30分
そろそろさりーが出勤する時間帯だ。

 さりーがお店にいる時間は
なるべくその近くにいたいとは思わない。

そりゃそうだろ…
自分がこれから会いに行くならまだしも

俺がすぐ近くにいるその先で
さりーが誰かの身体と触れ合って…
などと考えるといたたまれない気持ちになる

いくらそれがさりーの仕事とは言え。

きっともう少し前なら
そこまで考えてなかっただろう。

やはり少しずつ俺のさりーへの想いは
友情を越えた何かに肥大しつつあるのだろうか?

"さりーの仕事が始まる前にここから退散しよう"

俺は息子を急かすように車を発進させ
何事もなかったように自宅に戻った頃

“10:00~ 待機中”の表示と共に
さりーからトークが届いた。

 撮影の件は前日に伝えていたので
さりーからは“ステキな動画が撮れるといいねぇ”と
ほのぼのとした返信が届く中

昨日に続いて俺は衝撃の事実を知ることになる。

それは…

"昔のさりーはギャル雑誌に載ってる子どもそのものだったよ"

え…?そうだったのか

確かに前日、さりーは昔ギャルだったことを
カミングアウトしてくれた。

確かに若い頃ちょっと“やんちゃ”してた?
そんなイメージはあったものの

どちらかと言えばヤンキー漫画に登場する
ちょっと悪そうな女の子のイメージだったので
ギャルだったのは意外だった。

過去の話を聞くことによって
少しずつさりーの意外な一面を
知ることが出来る喜びに心が躍った。

 ギャルだったことを明かした経緯は
さりーと俺の元カノが瓜二つだと言う話題から派生した

と、なるとこんなことはきっと他の客には
そこまで赤裸々に話していないのでは?

その優越感だけで俺の気持ちは高揚した
少なくとも俺とさりーしかわからない世界

そもそも陰陽座の話題だって唯一無二だし
家族…子供さんたちの話題にしても
まるでママ友に話すレベルの内容だ

さりーはきっと俺のことをそんな感覚で
捉えているのかも知れない。

 更にトークの話題は月末の再開に向けた
罰ゲームやクイズの話

どれだけ5月29日を楽しみにしてくれているのか
直接言葉にしなくても十分に伝わってくるし

それは俺も同じ気持ちだ。

当日までに一度サプライズで登場して
さりーを驚かせたりして
更に気持ちを高めてみようかな?

直接伝えたいこともあるし…

俺はそんな風に考えてその機会を伺っていた。
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