僕の彼女はアイツの親友

みつ光男

文字の大きさ
上 下
22 / 293
Act 04. 黎明

【消しゴム】

しおりを挟む
 そんな葛藤と戦っている最中さなか

「ねえ…」

どこかから押し殺したようなか細い声が聞こえた。

聞き覚えのない声だったので
僕は聞こえないふりをして無視していた。

 するともう一度

「ねえ、ちょっと…聞こえてる?」

後ろからシャーペンで肩の辺りを軽く小突かれた
すぐ近くから聞こえた声の主は煌子だった。

ー え?田中さんが?


驚いた、なんてもんじゃなかった

煌子から声をかけられ
振り返った僕の目の前には

今まで見たことのない笑顔で僕を見る煌子

いや、笑顔と言うよりは
どこかおどけたような人懐っこい表情

これがあの田中さん?

正に目と鼻の先、
こんな至近距離で見たのは初めてだ、

きめ細やかな肌の質感までもが
つぶさに感じ取れるほどの距離に煌子がいる、

僕はまるで
メデューサと対峙したかのようにたじろいだ、
そのまま石になってしまいそうですらあった。

ー え?田中さんてこんなにもかわいいのか?
いや、確かにかわいいとは思ってたけど…

煌子を直視することが出来ない。

 そんな状況だから平静を保つのに精一杯だったが
どきまぎしながらも

「え?俺?」

「そ」

一言、そう答えた煌子は僕を見て小さく頷いた。

 それは今まで見てきた無感情で能面のような
煌子からは想像もつかないような

由里や美月とは全くテイストの違う


正に正真正銘の"美少女"


そんな煌子と
こんな形で初めての接点が生まれるとは
思ってもいなかった。

 これが記念すべき初めての会話になる
何て言葉を返せばいい?

それよりも早く消しゴム、拾ってあげなきゃ…
他の誰かに拾われる前に

ー これは田中さんから俺に課せられた
ある意味、ミッションなんだ…

僕の鼓動はこれまでにないくらい高鳴っていた。
しおりを挟む

処理中です...