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2 (幼少期)
しおりを挟む10歳の誕生日。 この家に来て、もう3年が経つ頃だった。この日は、僕の誕生日パーティと貴族の社交界デビューを兼ねたお披露目会だった。
盛大にお祝いしようということで、家の中はとってもピカピカに磨かれて、たくさんのお花でカラフルに飾り付けられた。僕もいつもと違う、キラキラの宝石が散りばめられた服を着させられ、同じように飾り付けられた。
鏡の前で、お母様が僕の襟を整えながら微笑んだ。
「ノア、あなたは本当に立派になったわ」 「ありがとう、お母様。」 「ええ。今日はノアのための日よ。お誕生日おめでとう、ノア。お母様は、ノアに巡り会えてとても幸せよ。血は繋がっていなくても、ノアは私たちの大切な家族よ。」
嬉しくて、嬉しくて、お母様に思わず抱きついた。
僕はお母様に抱きしめられたまま、ぽろぽろ涙を零した。 僕は、やっと“家族”になれた気がしたんだ。
……その時までは。
突然、扉が乱暴に開いた。 父が息を切らしながら叫んだ。
「……見つかった! アランが、見つかったんだ!」
母が息を呑む。 その瞬間、嫌な胸騒ぎがした。
アラン——?
「生きていたのよ! あの子が!」
歓喜の声が響く。 僕を抱きしめていた母が、母の腕が、僕から離れていく。
僕から視線が離れていく。
「お、お母様……?」
「……ごめんなさいね、ノア。あとで、ね?」
このままだと何かが崩れてしまう気がして、咄嗟にお母様の服の端を掴んで呼び止めた。だけど、お母様は笑顔を向けつつ、どこか鬱陶しそうな表情を僕に向けて、そう言い残して、お父様と一緒に部屋を出ていってしまった。
今日は、僕のための日って言ったのに。
父も、使用人たちも、皆、僕を置いていった。
部屋にひとり取り残されて、鏡に映る自分の姿を見た。 誕生日用の服。宝石できらきらした胸飾り。 誰ももう、見ていない。
でも、こんなことで拗ねてはいけない。きっと、お父様もお母様も、アランという子が見つかって嬉しかったのだろう。今日は僕のパーティの日だ。だから、きっと直ぐに、2人とも戻ってきてくれるはず───そう思っていた。
だけど、その日、僕の部屋に2人が戻って来ることはなかった。
お披露目会は中止になった。
翌朝から、家の中の空気が変わった。 お父様もお母様も僕に笑顔を向けなくなったし、僕が呼びかけても素っ気なくなった。たくさんの使用人たちも、本物の坊っちゃま───アラン様が来るんだ、ってみんなでウキウキしてて、僕だけはよく分からないままで、仲間はずれにされた気分だった。
そうして、バタバタとした雰囲気の中、数週間経った後、僕はようやく“弟”に会った。
僕の弟で、お父様とお母様の本当の息子で、今まで誘拐されて行方不明だった彼───アランに。
初めて会った時、アランは、怯えた目をしていた。 僕を見たとき、彼は少しだけ身を引き、お母様の服をぎゅうっと握りしめた。
「兄さま……ですか?」
「うん。はじめまして、アラン。僕の名前は、ノアって言います。」
「……兄、なんだ。」
その小さな声には、少し棘があった。
その日は、その会話だけだった。
アランを心配するようにお父様とお母様は彼に寄り添って消えた。
僕だけ、残された。
僕はやっぱり、彼らの家族になんてなれていなかったのかもしれないな。
それに、僕は気づいてしまった。アランの髪の色と瞳の色───僕と、全く同じだったんだ。
年齢は、僕が拾われた日を僕の誕生日にした分、僕の方が数ヶ月早くて僕が兄ということになったけれど、同じだった。
きっと、僕はアランの代わりだったのだろう。
帰ってこないアランへの悲しみを埋めるための道具?もしくは、本当に帰って来なかった時の代わりにでもしようとしていたのだろうか。
本当のことはよく分からないけれど、僕はただの「偽物」に過ぎないんだってことは、理解出来た。
その日から、僕の居場所は完全に消えた。
「ノア」ときちんと誰かに名前を呼ばれることも、少なくなった。 食卓ではアランの話ばかり。 母の膝の上は、もう僕の場所ではない。お母様の膝の上でニコニコとご飯を食べるアランを、僕は少し恨めしく思ってしまった。
でも、アランは今までずっと誘拐されていたから、可哀想な子なんだ。
アランを恨むなんて、絶対にしちゃいけない。
そう、頭ではわかっていても、どうしても彼のことを羨ましいと思ってしまう。
僕は悪い子なのかな。
そんな、もやもやとした気持ちを抱えたまま過ごしていた僕は、ある日、事件を起こしてしまった。
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