用済みになった貴族の養子の子が本当の愛を知るまで

チョココロネ

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───数日後。


「じゃあ、今日はここまでにしようか!」

テルノが明るく言って、ノートをぱたんと閉じた。
授業後も放課後に集まり、図書室の閉室時間まで3人で作業を進めることができた。

「すごい進んだね! いやぁ、三人だとやっぱり早いな~!」

「……そうだな。想定よりはるかに早い。」

「うん……そうだね。それに、楽しかった。」

小さく言葉をこぼすと、テルノが笑顔で頷く。

「僕も!じゃあ、明日もいつも通り放課後に図書館で待ち合わせで。
───あ、あとさ。今、期間限定で出てる学食のチキン、めちゃくちゃ美味しいんだって!もし良かったら、三人で一緒に食べに行こうよ!」

「えっ……僕も?」

「もちろん! 三人でだよ。ね、レオン君!」

「……ああ。別に構わない。」

レオンがわずかに口元をゆるめたのを見て、胸が少し熱くなる。
今まではいつも一人ぼっちで、昼休みは教室に居づらくて、学食のパンを買って中庭や空き教室で食べていた。それが、一緒に昼ご飯を食べる友達ができるなんて。
みんなから嫌われて、いつも陰口を叩かれていたから、僕に味方なんていないと思っていた。
でも、それは僕の思い込みだったのかもしれない。
こうやってテルノみたいに、優しい子はきっといるんだ。

───ただ、僕が誰かに歩み寄る勇気を持てなかっただけだ。

だって、今まで、僕の大切な人───本当の家族や、僕を拾って育ててくれたお父様とお母様は、みんな僕のことを嫌いになってしまった。最初は大事にしてくれていても、いつか必ず僕を嫌いになって、離れていってしまうから。
だから、誰かと特別仲良くなるのが怖かったんだ。

それに、僕は誰からも愛されることなんてないって、いつも思っていたから。
それは、今だってそうだ。

でも、もしかしたらテルノ君やレオン君───彼は少し何を考えているのか分からないことも多いけれど───彼らのことを、信じてもいいかもしれないって、今なら思える。

彼らから、僕も一歩、勇気を踏み出そうって、自信をもらえた気がして。

(僕、今……ちゃんと笑えてるのかもしれない。)

ほんの少し前まで、人の輪に入ることが怖かった。
けれど今は───テルノとレオン君と一緒にいる時間が、純粋に楽しい。




きっとこのまま、すべてが良い方向に進んでいくのだろう───そんな漠然とした期待が、胸の中で膨らんでいく。

けれど、そんなはずはない。

僕なんかが思い上がった罰のように、不幸は、その日、急に訪れた。







彼らと別れたあと、部屋に戻った僕は、ドア横の配達ポストに白い封筒が差し込まれているのに気づいた。

───呼吸が、思わず止まる。

見慣れた紋章。双頭の鷲。胸が一瞬で冷たくなった。

「……グランベル家の……また、お父様から……?」

手が震える。
手紙を開封するのが怖かった。
でも、逃げられない。

急いで部屋に入り、震える手で封を切ると、整った筆跡の文字が並んでいた。


『至急、帰宅しろ。
学園で問題を起こした件について、直接弁明を求める。
お前の行いは到底看過できぬ。
今晩、我が家の馬車を寮の前へつける。すぐに準備をしておくように。』


───学園で、問題……?

もしかして、停学になったことが親にも報告されたのか……?

そうだとしたら、ルカスに包みを渡したのを生徒に見られたことまで、芋づる式に知られてしまったかもしれない。


───そうしたら、また、あの折檻が待っている……?

ヒュッと息が詰まる。

「あ……ぁ……っ」

息が苦しい。
視界が滲む。

耳の奥で、昔の声が蘇る。鞭で打たれた身体中の痛みも。

──「恥を知れ」
──「お前のせいで」
──「また、愚かな真似を」──

(やだ……いやだ……もう、いやだ。)

体が勝手に震え出す。
呼吸が乱れて、胸の奥が締めつけられた。

「ア……アッシュ……!」

ベッドの上に置かれていたくまのアッシュを、ぎゅうっと抱きしめる。
柔らかな感触が、震える指先を包んでくれる。
喉からヒュウヒュウとおかしな音が鳴り、涙も次から次へと流れ出して止まらない。

「……だめだ、また怒られる……。
 僕、また……っ……いやだ、どうしようアッシュ、助けて……誰かっ……!!」

せっかく、希望が見えてきていたのに。


───また全部、壊れてしまうのかもしれない。


家に戻るのなら、数日間は学園を休まなければならない。
折檻を受けることを考えれば、何日休むことになるか……。
テルノとレオンに、どう説明すればいいんだろう。
数日間休むだけでも、きっと迷惑をかける。

また、嫌われてしまうかもしれない。

その考えが胸の奥で何度も反響する。

「……やっぱり、僕なんかが誰かと仲良くなんてできるわけなかったんだ……。
きっとまた、失望されて、みんな僕のことを嫌いになって、僕を捨てるんだ……!
みんな僕なんて見向きもしなくなって、また僕はひとりぼっちになるの……?」


アッシュのふわふわの体に顔を埋め、涙で濡らしながらアッシュに問いかける。
もちろん、アッシュは答えてくれない。
だって、ぬいぐるみだから。
アッシュは生きていない。
だから、僕を助けてくれることもない。



結局は、自分でどうにかするしかないのだ。


(きっと、逃げられない。大人しく、お父様に従うしかない。)

アッシュを抱きしめながら、心を落ち着かせる。


馬車がすぐに来るだろうから、早く準備をしなければ。


まずは、学園宛てに数日休みを取ることを伝える書類を書く。
ついでに、レオン君とテルノ君にも休むことになって申し訳ないと伝えてほしいと、備考にメモを書く。
手が震えて、上手く字が書けないけれど、少し汚くても伝わりさえすればいいだろう。

(みんなで食堂に行くの、楽しみだったのにな……。もう、行けないかもな。)

自嘲気味に笑いながら、窓の外へ視線を向ける。



全てを飲み込んでしまいそうなほどの闇を抱えた真っ暗な夜空は、これから進む僕の未来を映しているようだった。


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