用済みになった貴族の養子の子が本当の愛を知るまで

チョココロネ

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「ノア!」

咄嗟にレオンの腕が僕の背に回る。
───しかし、背中に触れられた、その瞬間。

「っうぁぁ……っ!! 痛っ……!」

焼けるような痛みが走って、思わず声を上げて蹲った。
鞭で打たれた傷は、まだ全然治っていない。背中の上から自分で包帯を巻いたものの、少し触れられただけでも、まるで火を押しつけられたような痛みになる。

「ノ、ノア!? どうした、今の……!」

はぁ、はぁと荒い息のまま、必死に言葉を探す。

「な、なんでもない……ちょっと、ふらついて、びっくりして……」

「それだけで、そんな声出すかよ」

レオンの声が低くなる。
手が伸びて、僕の肩を掴んだ。

「背中に怪我でもしてるんじゃないのか?」

「ち、違う……!」

必死に誤魔化そうとするけれど、レオンは食い下がらない。

「……おい。背中、シャツに血が滲んでるじゃないか……! 怪我してるんだな? 背中なんて一人じゃ手当てできないだろ。俺がやる。」

「……いい! 大丈夫、ひとりでできるよ……っ!」

手が当たったり、急にしゃがんだりしたせいで、また傷が開いてしまったのかもしれない。
嘘をついているのは、きっともうバレている。
それでも迷惑をかけたくなくて、平気なふりをして立ち上がろうとするが、身体がふらついてまた座り込んだ。

「強がるなよ。立つこともできないじゃないか。ほら、肩に手を回せ。」

腕を掴まれ、レオンの肩にしがみつく。振りほどこうとしても、もう力が入らない。
そのまま、半分レオンに身を預けるような形で歩いた。

「邪魔するぞ。」

部屋に入ると、ベッドの上にそっとうつ伏せに寝かされる。

「手当ては、本当に自分でできるから……! もう大丈夫だから! ありがとう、ここからは僕ひとりで……!」 
「いや、俺がやる。大丈夫大丈夫って、ノアはそればっかりだ。さっきだって怪我して大丈夫じゃないのに我慢して……。もう少し、人を頼れよ。」

───どうして、そんな顔をするんだろう。
まるで、自分が痛い思いをしているみたいな顔。
僕なんかを、心配してくれてるのか。

でも、こんな傷……人に見せたくない。
きっと、気味悪がられるに決まってる。
どんなに優しいレオンでも、こんな傷を見たら嫌な気分になるはずだ。

「ごめん、多分、傷を見たら気持ち悪いと思うんだ。だから、ほんとに大丈夫だよ。」

「……人の傷を見て気持ち悪いと思うわけないだろ。俺をなんだと思ってるんだ。
病人はもっと人に頼って、甘えていいんだぞ。……救急箱、どこだ?」

「……あ、甘えてもいいの……? 本当に……?」

確認するようにレオンを見上げると、彼はしっかりと目を合わせ、頷いてくれる。


───そこまで言われたら、任せない方が失礼かもしれない。

熱でぼんやりした僕の頭は、なぜかそう判断した。
今より冷静な普段の僕なら、絶対に傷を見せる判断なんてしなかっただろうに……。
“甘えてもいい”なんて言葉を、あんなに優しく言われたら、心が緩んでしまう。

救急箱の場所を教えると、レオンがそれを取りに行った。その間にベッドの上でシャツのボタンを外していく。
熱のせいか、ボタンを外すだけでも息が上がった。
ふうふうと息を吐きながら、やっとの思いで脱ぐ。
一応巻いた包帯は、やはり自分ではうまく巻けなかったのか、あっけなく外れてしまう。

その状態で、レオンをぼんやりと待っていると───
バタン! と大きな音がして、肩がびくっと跳ねた。

「え、何、今の音……? レオン君……? 大丈夫……?」

振り返ると、レオンが呆然とした顔で立っていた。
足元には、落ちた救急箱。

「な、なんだよ、その傷……。ひどすぎる! 誰にやられたんだ!!」

「……え、えっ、え……」

鬼気迫る顔でずんずん近寄ってくるレオンに、僕はあわあわと慌てる。

「えっと、使用人……?」

「使用人、だと……?」

「ひぇ……っ」

目を見開いたままさらに近づいてくるレオン。
質問に答えただけなのに、怒りが増したように見えて怖い。

───やっぱり、気持ち悪い傷を見せたのがまずかったのかも。
不快な気分を隠そうとして、イライラしてるんだ……きっと。

「……おい、全部口に出てるぞ。」

「……えっ、ごめんなさい、レオン君……」

熱で頭がふわふわして、考えていたことをそのまま口に出してしまったらしい。
レオンに向かって“怖い”なんて言ってしまった。

「いや、謝るな。この傷だって、気持ち悪いなんて思わない。
こんな傷をつけた奴のことは、心底軽蔑するが……。
───それで、使用人に命令したのは誰だ。」

「れ、レオン君には関係ないから……言えない……。」

「はぁ……ここまで来て誤魔化しても無駄だ。誰の命令なんただ、答えろよ。」

「……言えないよ。」

ムッと口を結ぶ。
もしレオン君に言ったら、その事がお父様に伝わって、また怒られるかもしれない。お父様にこれ以上嫌われたくないんだ。
───それに、どうして関係ないレオンに言わないといけないのか、全然分からない。

「いいから言えって言ってるだろ……!」

「……やだ!」

声が裏返った。
 言いたくないのに強要してくる鬱陶しさと、どう見ても怒ってるレオン君に対する怖さと、色々なもので頭の中がごちゃごちゃしてきて、混乱する。自分でもわけが分からぬまま、だんだんと涙が瞳にたまりだした。

「教えてくれないと、わからないだろ!」

「レオン君に言ってなんの意味があるの……!」

目頭がじわじわと熱くなる。
やばい、本気で泣くかも。

「それは……って、ちょ、おい、ノア、待て、」

急にレオン君が慌てだしたが、僕の勢いは止まらない。

「もう!何回も、言いたくないって言ってるのに……!レオン君には言わないってば!なんでわかってくれないの……うぁぁぁん……!!」

とうとう、瞳に溜まっていた涙がぼろぼろと頬を伝って落ちた。

「え、おい、待て、泣くなって……! 悪かった、俺が悪かったから泣くな……!」

「僕も、泣きたくないのに、何故か止まらないの……!
うぅ……アッシュ、涙止まんないよぉ……。なんでえ……」

いつもの癖で、ベッドの上のクマのアッシュを抱き寄せて相談する。
いつもより感情のセーブが効かない。どうして。

「と、とりあえず、一回休もう。難しいこと聞いて悪かった。すぐ手当して、寝かせてやるから。」

「……ぐす……うん。わかった……でも、もう聞かないでね……!」

涙を啜りながら、じとっとレオンを見上げるが、なぜだか彼も僕みたいに顔が真っ赤で、ちゃんと視線が合わない。
レオン君まで熱があるんじゃないのか……?大丈夫かな。

「ほら、ノア。うつ伏せになって。まずは消毒からな。」

「うぅ、痛い……」

消毒が傷に染みて、思わずアッシュをぎゅっと抱きしめ、顔を埋めた。

「……はぁ、可愛すぎないか……」 

後ろから、ぼそっと呟く声が聞こえた。

「……え、何? ごめん、聞こえなかった……」

「いや、ただの独り言だ。」

そのまま、手当てを受けているうちに、まぶたが重くなる。
ぼんやりと温かい手の感触を感じながら、僕は静かに意識を手放した。







(甘えていいよ発言+熱でぽわぽわなノア君でした。次話からまた視点変わります!)

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