24 / 76
24 (レオン・アーヴェント視点)
しおりを挟む──────その後、ノアの痛々しい背中の傷を見つけ、手当てをしているうちに、彼は眠ってしまった。
傷の痛みや熱でどれだけしんどかっただろうに、それを隠して平気なふりをしていたのだと思うと、胸の奥がきしむように痛む。
そして──ノアにこんな酷い傷をつけた人間がいるのだという事実に、抑えきれない怒りが湧き上がった。
背中の傷跡を、静かに見つめる。
これは鞭で叩かれた痕に間違いない。
ノアは使用人にやられたと言って、命令した者の名前は頑なに言おうとしなかったが……ほぼ、ノアの親と見て間違いないだろう。
そう考えると───ノアは、あの家で虐げられている。そう判断するほかない。
思えばノアは、いつも怯えるように人と話していた。
誰にでも作ったような笑顔を浮かべ、敬語で距離を置き、壁を作って。
今では俺たちには敬語は外してくれたけど、他のクラスメイトと話す時は必ず敬語だ。
それに、人の視線に過剰に敏感で、他人に頼ることを極端に怖がっている。
初めて俺が直接声をかけ、軽く触れた時も、ノアは錯乱してパニックを起こしていた。
ノアのトラウマは、きっとこの辺りと深く関わっている。
「……居場所、ないんだな、お前。」
ぽつりとこぼした自分の声が、妙に寂しく響いた。
家にも学校にも、彼にとっての安心できる場所はずっとなかったのかもしれない。
最初の頃は、悪口を言われてもやり返さず、悪口を言ってくる奴らにすら普通に接するノアに、苛立ちを覚えていた。
プライドはないのか、情けない奴だ、と。
でも今は違う。
彼はただ、生きるために必死だったのだとわかる。
──どんな理由があれ、もうノアを放ってはおけない。
たとえ、彼が監視対象で俺の家と対立する立場にあったとしても。
彼が悲しむ姿を、もう二度と見たくなかった。
くまのぬいぐるみを抱きしめ、静かに眠るノアの横顔を見る。
普段より幼く見えるのは、気のせいじゃないだろう。
きっと、このクマだけが彼の味方だったのかもしれない。
ずっと、ひとりで戦ってきたのかもしれない。
最初は調査のために近づいただけだったのに。こんな気持ちになるなんて、思いもしなかった。
ノアの泣き顔が頭から離れない。
守ってやりたい。
その衝動が、どうしようもなく止まらなかった。
──ノア・グランベル。
お前はいったい、どこまで俺を振り回す気なんだ。
◆
「ごめんね、風邪伝染るかもだし、申し訳ないから帰っていいよ……。」
放課後、再度テルノと一緒にノアの部屋を訪ねると、ベッドの上でクマのぬいぐるみを抱きしめたノアが、弱々しくそう言った。
テルノはその姿を見るや否や、「可愛いの供給過多……!」と小声で騒ぎ出す。
──正直、ノアがクマを抱いていると可愛さが倍増するのは否定しないが。
熱のせいで潤んだ瞳で見つめられると、なんだか胸の奥がざわつく。
さっき手当てしていた時も、思わず「可愛い」と口をついて出てしまったくらいだ。
──ノアに聞かれていなかったのは、不幸中の幸いだが。
「もう、帰るわけないでしょ! 僕もレオン君も、ノア君のこと心配なんだよ。
お粥作るから、ノア君は寝てていいよ。」
「う、うん……ごめん……」
申し訳なさそうに縮こまるノアに、テルノはふわりと微笑んで言う。
「ねえノア君。こういう時は、ごめんじゃなくて“ありがとう”でいいんだよ。
僕は好きでお粥を作りたいんだから、謝る必要なんてないの。」
「…………あ、ありがとう、テルノ。」
「うん、どういたしまして。」
ノアはただでさえ熱で真っ赤な頬をもっと赤くして、照れたように笑った。そして腕の中にいるくまをぎゅっと抱きしめる。
その様子に、テルノはまた奇妙な声を上げていた。
───ふと考える。
こんなふうに利害関係なく、互いに助け合える仲間なんて、いつぶりだろう。
俺の周りにはいつも、アーヴェント家という家柄だけを見て近づいてくる奴らばかりだった。
そういう連中は決まって、ノアのことを平民だと見下して馬鹿にする。
家柄を抜けば、自分なんてどうでもいい存在で、価値のない人間だと思わされてきたから……。
ノアがそういう奴らにすら普通に接するのが、昔は気に食わなかった。
でも、ノアもテルノも、あいつらとはまったく違う。
ちゃんと人の心を持っていて、相手そのものを見て話してくれる。
俺自身、気を張らずにのびのびと自分を出せたのは本当に久しぶりだ。
───そう思って、俺も心の中で、2人にそっと「ありがとう」と感謝した。
119
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。
これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。
無自覚両片想いの勇者×親友。
読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった
angel
BL
つまらないことで死んでしまったボクを不憫に思った神様が1つのゲームを持ちかけてきた。
『転生先で王様になれたら元の体に戻してあげる』と。
生まれ変わったボクは美貌の第一王子で兄弟もなく、将来王様になることが約束されていた。
「イージーゲームすぎね?」とは思ったが、この好条件をありがたく受け止め
現世に戻れるまでノラリクラリと王子様生活を楽しむはずだった…。
完結しました。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる