用済みになった貴族の養子の子が本当の愛を知るまで

チョココロネ

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その後も、舞台の上には次々と“商品”が運ばれていった。
小鳥、子犬、珍しい小動物────そして煌びやかな宝石までも。

けれど、宝石の説明ですら奇妙だった。

「こちらは大変お利口さんでしてね」

「こちらは泣き止むまでの時間がとても短く……」

(……宝石に泣き止むも、お利口も……あるわけ、ない……)

会場の笑い声が、耳の奥でぼんやり響く。
周りの客の多くがぎらついた瞳で札を上げ、興奮に頬を赤らめていた。

ふと、その中に、妙な行動をする者たちがいることに気づく。
ウェイターを呼び止め、何かの紙を受け取っている客たち。それを受け取った客は、必ずと言っていいほど目を細めて興味深そうに眺めていた。

(なに……あれ。写真……?)

目を凝らしていると、ひとりのウェイターがこちらに気づき、微笑みながら近づいてきた。

「こちら、本物の商品の写真でございます。参考になさってください」

手渡された紙を見た瞬間、僕の呼吸が固まった。

鎖に繋がれた子どもたち。
虚ろな目、青あざ、怯えた顔。
いくつもの写真が並び、それぞれに番号が振られていた。

「こ、これ……っ」

「ああ、お客様は初参加で?
今競りにかけられているのは仮のモノでして。
こちらが、本物の商品でございます」

(じ……人身売買……!!)

「どうぞ、ごゆっくりお楽しみください」

まるで気の利いたサービスでもしたかのように、ウェイターは軽く会釈をして去っていった。
僕の頭の中は、もう混乱でいっぱいだった。

(こ、この商会……本当に……人身売買に……?
お父様はやっぱり、悪事に加担して……?

嘘だ……そんな……そんなはず……)

胸の奥がぎゅっと縮まって、呼吸が荒くなる。
手が震えて、視界の端が揺れる。

その時、脳裏に浮かんだ。
───前に、ルカスに言われた言葉。

『もし君がグランベル家からさえも見捨てられたら──僕が買ってあげようね』

(……まさか……まさか僕は……!
お父様に見捨てられて、ここに……?
だからルカスは今日、僕をここに呼んだ……?
僕は……商品になる……?)

喉の奥がせり上がる。
息が吸えない。

(ルカスが僕をここに呼ぶ理由が他に思い当たらない……!
逃げなきゃ、ここから逃げなきゃ……!)

反射的に体が動いた。
客の波をかき分ける。

「あ、すみません……っ、どいて……!」

僕の異様な様子に、仮面の人々が不審そうに振り返る。
でも、そんなの気にしている余裕はなかった。
胸が痛い。足が震える。

出口──大扉へ走ると、黒服の屈強な男たちが列を作って塞いでいた。

(だめだ……!閉じられてる……!!)

なら、奥へ。
奥の細い通路へ駆け込む。控室か何かへ続く道だろうか。

とにかく、今いる場所から離れられればいい。

(はぁ……っ、はぁ……っ……ここなら……一旦……)

──ドンッ!

横から突然現れた影にぶつかり、僕は尻もちをついた。
その衝撃で、仮面が床を転がる。

「あっ……!」

慌てて拾い、顔に押し当てる。
見上げた先にいたのは、小太りの男。
仮面の奥の目が細められ、薄い笑みが浮かんだ。

「へぇ……子どもじゃないか。こんな場所じゃ珍しいね。
どこへ行くつもりなんだ?」

「と……トイレを……探してて……」

震える声が自分でも分かる。
男は鼻で笑う。

「ふーん……にしては、ずいぶん焦ってるようだが?」

「……っ」

僕は後ずさる。
だが、しゃがんだ男は僕の肩を掴む。

「こんなパーティにガキが来てるなんておかしい。……お前、誰かのペットだな?
ははは、ご主人様には黙っておけよ。ちょっとだけ、私と一緒に楽しもうではないか!ほら、こっちへ来い。」

「や、やだ……やめ──っ」

腕が強く引かれ、横部屋へ連れ込まれそうになる。
全身が恐怖で固まる。

(だめだ……いやだ……!誰か……誰か──っ)

「───何をしている?」

その時、低い声が廊下に落ちた。
振り返ると、ルカスがいた。
仮面越しでも分かるほど、目が笑っていない。
男は眉をひそめる。

「なんだお前……関係ないだろ。こいつは──」

「僕のペットですが?」

一瞬、空気が止まった。

「……本当か?」

「ええ。だからそうだと言っているでは無いですか。僕の可愛いペットに、勝手に触らないでもらえます?」

ルカスの声音は柔らかいのに、刃みたいに冷たかった。
男はじり、と後ずさる。
それを横目にルカスは僕の腕をぐっと引き寄せ、その勢いのまま顔を近づけてくる。

「な、えっ……」

そうしてルカスは僕の頬を掴み、口をふさぐように深くキスをした。

「っ……!?!?」

身体がびくりと跳ね上がり、頭が真っ白になる。

(なんで、なんで……っ!?)

口の中を舌が割って入ってきて、僕の口内を乱暴に掻き回す。
男は「ちっ……面倒な飼い主だ。」と吐き捨てて去っていった。

男が去ってからも、何故かルカスは僕を解放してくれない。
息が吸えなくて、だんだん苦しくなってきた僕は、バンバンとルカスの胸を必死に叩く。
すると、ようやくルカスは僕から唇を離し、ふふっと笑った。

「だから言っただろう、勝手に逃げるなって。」

「……っ、勝手に、キスすんなよ……!」

思い切りルカスの胸を押して、ルカスを突き放す。
堪えていた涙がぼろぼろ溢れた。
助けてくれたのはありがたいけど、まさかキスするなんて。

────でも、助けられたのに、怖い。
助かったのに、息ができない。

(ルカスも……信用できない……
だって……だって、ルカスも……人身売買に関わって……!)

「そんなに嫌がられると、僕もちょっと傷つんだけどなぁ。」

まるで本当に傷ついたみたいな声で、普通の顔で笑うルカス。

でも────
その“普通さ”こそが恐ろしかった。

(なんで……?
なんで人身売買になんて関わっておきながら、こんな顔で笑えるの……?)

ガタガタと震えが止まらない。
僕の身体は正直だった。



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