32 / 76
32 (少し無理やり表現あり)
しおりを挟むその後も、舞台の上には次々と“商品”が運ばれていった。
小鳥、子犬、珍しい小動物────そして煌びやかな宝石までも。
けれど、宝石の説明ですら奇妙だった。
「こちらは大変お利口さんでしてね」
「こちらは泣き止むまでの時間がとても短く……」
(……宝石に泣き止むも、お利口も……あるわけ、ない……)
会場の笑い声が、耳の奥でぼんやり響く。
周りの客の多くがぎらついた瞳で札を上げ、興奮に頬を赤らめていた。
ふと、その中に、妙な行動をする者たちがいることに気づく。
ウェイターを呼び止め、何かの紙を受け取っている客たち。それを受け取った客は、必ずと言っていいほど目を細めて興味深そうに眺めていた。
(なに……あれ。写真……?)
目を凝らしていると、ひとりのウェイターがこちらに気づき、微笑みながら近づいてきた。
「こちら、本物の商品の写真でございます。参考になさってください」
手渡された紙を見た瞬間、僕の呼吸が固まった。
鎖に繋がれた子どもたち。
虚ろな目、青あざ、怯えた顔。
いくつもの写真が並び、それぞれに番号が振られていた。
「こ、これ……っ」
「ああ、お客様は初参加で?
今競りにかけられているのは仮のモノでして。
こちらが、本物の商品でございます」
(じ……人身売買……!!)
「どうぞ、ごゆっくりお楽しみください」
まるで気の利いたサービスでもしたかのように、ウェイターは軽く会釈をして去っていった。
僕の頭の中は、もう混乱でいっぱいだった。
(こ、この商会……本当に……人身売買に……?
お父様はやっぱり、悪事に加担して……?
嘘だ……そんな……そんなはず……)
胸の奥がぎゅっと縮まって、呼吸が荒くなる。
手が震えて、視界の端が揺れる。
その時、脳裏に浮かんだ。
───前に、ルカスに言われた言葉。
『もし君がグランベル家からさえも見捨てられたら──僕が買ってあげようね』
(……まさか……まさか僕は……!
お父様に見捨てられて、ここに……?
だからルカスは今日、僕をここに呼んだ……?
僕は……商品になる……?)
喉の奥がせり上がる。
息が吸えない。
(ルカスが僕をここに呼ぶ理由が他に思い当たらない……!
逃げなきゃ、ここから逃げなきゃ……!)
反射的に体が動いた。
客の波をかき分ける。
「あ、すみません……っ、どいて……!」
僕の異様な様子に、仮面の人々が不審そうに振り返る。
でも、そんなの気にしている余裕はなかった。
胸が痛い。足が震える。
出口──大扉へ走ると、黒服の屈強な男たちが列を作って塞いでいた。
(だめだ……!閉じられてる……!!)
なら、奥へ。
奥の細い通路へ駆け込む。控室か何かへ続く道だろうか。
とにかく、今いる場所から離れられればいい。
(はぁ……っ、はぁ……っ……ここなら……一旦……)
──ドンッ!
横から突然現れた影にぶつかり、僕は尻もちをついた。
その衝撃で、仮面が床を転がる。
「あっ……!」
慌てて拾い、顔に押し当てる。
見上げた先にいたのは、小太りの男。
仮面の奥の目が細められ、薄い笑みが浮かんだ。
「へぇ……子どもじゃないか。こんな場所じゃ珍しいね。
どこへ行くつもりなんだ?」
「と……トイレを……探してて……」
震える声が自分でも分かる。
男は鼻で笑う。
「ふーん……にしては、ずいぶん焦ってるようだが?」
「……っ」
僕は後ずさる。 だが、しゃがんだ男は僕の肩を掴む。
「こんなパーティにガキが来てるなんておかしい。……お前、誰かのペットだな? ははは、ご主人様には黙っておけよ。ちょっとだけ、私と一緒に楽しもうではないか!ほら、こっちへ来い。」
「や、やだ……やめ──っ」
腕が強く引かれ、横部屋へ連れ込まれそうになる。
全身が恐怖で固まる。
(だめだ……いやだ……!誰か……誰か──っ)
「───何をしている?」
その時、低い声が廊下に落ちた。
振り返ると、ルカスがいた。 仮面越しでも分かるほど、目が笑っていない。
男は眉をひそめる。
「なんだお前……関係ないだろ。こいつは──」
「僕のペットですが?」
一瞬、空気が止まった。
「……本当か?」
「ええ。だからそうだと言っているでは無いですか。僕の可愛いペットに、勝手に触らないでもらえます?」
ルカスの声音は柔らかいのに、刃みたいに冷たかった。 男はじり、と後ずさる。
それを横目にルカスは僕の腕をぐっと引き寄せ、その勢いのまま顔を近づけてくる。
「な、えっ……」
そうしてルカスは僕の頬を掴み、口をふさぐように深くキスをした。
「っ……!?!?」
身体がびくりと跳ね上がり、頭が真っ白になる。
(なんで、なんで……っ!?)
口の中を舌が割って入ってきて、僕の口内を乱暴に掻き回す。
男は「ちっ……面倒な飼い主だ。」と吐き捨てて去っていった。
男が去ってからも、何故かルカスは僕を解放してくれない。
息が吸えなくて、だんだん苦しくなってきた僕は、バンバンとルカスの胸を必死に叩く。
すると、ようやくルカスは僕から唇を離し、ふふっと笑った。
「だから言っただろう、勝手に逃げるなって。」
「……っ、勝手に、キスすんなよ……!」
思い切りルカスの胸を押して、ルカスを突き放す。
堪えていた涙がぼろぼろ溢れた。
助けてくれたのはありがたいけど、まさかキスするなんて。
────でも、助けられたのに、怖い。
助かったのに、息ができない。
(ルカスも……信用できない……
だって……だって、ルカスも……人身売買に関わって……!)
「そんなに嫌がられると、僕もちょっと傷つんだけどなぁ。」
まるで本当に傷ついたみたいな声で、普通の顔で笑うルカス。
でも────
その“普通さ”こそが恐ろしかった。
(なんで……?
なんで人身売買になんて関わっておきながら、こんな顔で笑えるの……?)
ガタガタと震えが止まらない。
僕の身体は正直だった。
105
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。
これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。
無自覚両片想いの勇者×親友。
読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった
angel
BL
つまらないことで死んでしまったボクを不憫に思った神様が1つのゲームを持ちかけてきた。
『転生先で王様になれたら元の体に戻してあげる』と。
生まれ変わったボクは美貌の第一王子で兄弟もなく、将来王様になることが約束されていた。
「イージーゲームすぎね?」とは思ったが、この好条件をありがたく受け止め
現世に戻れるまでノラリクラリと王子様生活を楽しむはずだった…。
完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる