用済みになった貴族の養子の子が本当の愛を知るまで

チョココロネ

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夕食の後、アランが「話がある」と言って僕の部屋にやってきた。 彼は僕の部屋の鍵をしっかりと閉めると、図書館から借りてきたという分厚い本を、僕の膝の上に広げた。

「兄様、ペンダントのこと……少しわかったよ」

アランが指差したのは、『辺境の守護者と、命の代償』というページにある、蛇の挿絵だった。

「これ……僕のペンダントの模様と同じだ」

僕が服の下から、ルカスから貰ったペンダントをそっと出す。
───間違いない。同じ模様だ。

「ああ。ガゼル公国の『蛇の民』という部族の紋章だ。そして、ここに書いてあることが真実なら……このペンダントは、作り手の生命力を削って作られた、身代わりの秘術が込められている」

「せ、生命力……?」

僕は思わず、胸元の服の上からペンダントを強く握りしめた。 
あの時、崖から落ちた僕とアランを光が包み込み、僕たちは無傷で助かった。その代償として、誰かの命が削られたということなのだろうか。

「そんな……じゃあ、僕たちは誰かの力を削った代わりに助かったってこと……?」

「いや、このペンダントの力が発動した時に生命力が削られると言うより、このペンダントを作る際に生命力は削られると考える方が正しそうだよ。だから、ノア兄様は心配しなくて平気だ。ただ、わかって欲しいのはこのペンダントはただの飾りじゃなくて、やはり不思議な力が込められてるってことだ。」

アランは僕のペンダントを握る手を、上からぎゅっと握りしめた。

「兄様。俺は、蛇の民についてもっと知りたい。この国とガゼル公国の両方に出入りしている商会を見つけて、その伝手で現地の人間──俺の恩人である狩人を探そうと思う。俺が昔育ててもらっていた狩人なら、なにか知っていると思うんだ。彼は、同じ模様の短剣を持っていて、大事にしていたから。───それに、さよならも言えずに彼とは別れたんだ。もう一度、ちゃんと感謝も伝えたいし、いい機会だ。」

「商会を使って狩人さんに接触するってこと……?」

「ああ。父にも、そしてこれは万が一だけど敵対家計のアーヴェントにもバレないように、俺たちだけで秘密裏に動きたいんだ。だから、商会もグランベル家が関わっているところはダメだ。お父様との関わりもなく、ガゼル公国も俺たちの国も行き来する商会を見つけたい。
……兄様、協力してくれる?」

アランの瞳には、僕を守ろうとする強い意志が宿っていた。 
僕一人を危険な目に遭わせないために、彼はここまで調べてくれたんだ。───なら、僕だって逃げるわけにはいかない。

「うん、もちろんだよ。僕も行く。アラン一人に危険なことはさせられないし……僕自身も、ちゃんと真実を知りたいから」

僕たちは部屋の中で、明日からの行動指針を固めた。二人で商会を探し、アポを取りに行く。

(アランにばかり頼ってちゃだめだ。僕も、頑張らないと。)

そう、心の中で意気込んだ僕は、その日はもう遅いからとアランとは別れた。




───それから、1週間後。
放課後、僕とアランは、二人で寮に向かいながら小声で商会のリストについて話し合っていた。

「……ここの商会はお父様の息がかかっているから駄目だ。こっちの『緑の羅針盤亭』なら……」

「うん、場所も大通りから外れてるし、目立たないね」

廊下を歩きながら、僕たちは肩が触れ合うほどの距離で地図を覗き込んでいた。 お父様の目をごまかすため、そして危険な調査を進めるため、僕たちは周りが見えなくなるほど話し込んでいたのだが──。

「──楽しそうだな。2人とも。」

不意に、背後から影が落ち、耳元ですぐに声がした。 驚いて振り返る間もなく、僕とアランの間にぬるりと腕が差し込まれる。

「ひゃっ……!?」
「アーヴェント……!?お前、放課後は委員会の用事があるとか言ってなかったか?」

後ろから現れたのは、レオン君だった。でも、彼はどこか様子がおかしく、怒っているわけではないけれど、その金色の瞳はどこか据わっていて、笑みの奥になにか恐ろしいものが見え隠れしている。

「レ、レオン君……?」

「二人でコソコソと……。ここ最近、やけに二人でいる時が多くないか?」

「そうだよ、僕たちのこと忘れないでよね~」

後ろから、ひょこっとテルノまで現れる。

「テ、テルノ……。」

レオン君は僕の頬にかかった髪を指先で掬い上げると、面白くなさそうに目を細めた。

「ここのところ、ずっとアランと一緒じゃないか。」

「そ、そんなことないよ! ただ、アランと次の課題の話をしていただけで……」

僕が慌てて誤魔化そうとすると、レオン君は「ふーん」と気のない返事をしながら、さらに距離を詰めてきた。僕が後ずさると、背中はすぐに窓枠に当たってしまう。

───逃げ場がない。

「課題、ねぇ……。だったら俺にも相談しろよ。
……なぁ、ノア。お前、俺を避けてるんじゃないのか?」

レオン君の顔が至近距離まで迫る。その整った顔立ちと、甘い香りにクラクラしそうだ。彼は僕の目をじっと見つめたまま、わざとゆっくりと瞬きをした。

「……別に、避けてなんか」

「なら、こっちを見ろ」

レオン君は僕の顎にそっと手を添えると、親指で唇の端を優しく撫でた。乱暴ではないけれど、拒否できない強い圧がある。

レオン君の後ろでは、ヒューヒューと言いながら騒いでるテルノがちらっと見える。

「おい、調子に乗るなよアーヴェント。兄様に近づきすぎだ」

見かねたアランが冷ややかな声で割り込み、僕の肩を抱いて引き寄せようとする。

そんなアランに対して、レオン君は余裕たっぷりに肩をすくめたが、アランを見る目は笑っていなかった。
二人の間で、静かな火花が散っているようだ。


(レオン君、どうしちゃったんだろう……なんだか今日のレオン君は怖いな……。)


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