73 / 76
73
しおりを挟むこの部屋に閉じ込められてから、何日が経っただろうか。窓一つない暗闇の中、僕はただひたすら孤独に耐えるばかりだった。
それに、いくら待てど誰も僕を助けに来てくれる者はおらず、そればかりか僕を罪人として告発する準備は着々と進んでいるようだった。
一日に数回、ウロボロスのボス、ルミナスが僕の部屋を訪れる。
僕の様子を見て楽しげに話をしたり、僕の罪の告発の準備があとどれくらいかを告げに来たり。
ルミナスは、ずっと僕が、友が助けに来るかもしれないと思っているのを見抜いているのか、「君の友達はもう、君のことを見捨てたんじゃないかな。彼らに君を助ける義理はないからね?」と言っては僕の反応を楽しんでいるようだ。
そんな言葉には騙されない、と頭ではわかっているのだけれど。ただ、やはり待ち続けるだけというのは辛い。
それに加えて、刻一刻と迫る罪の告発までの時間に、焦りがわいてくる。
もしかして、レオン君たちは危険を犯してまで僕に協力するのに嫌気がさしてしまったのではないか。
そんな考えまで浮かんでしまうくらいには、僕の思考は落ち込んでいた。
そうして今日もいつものように部屋にやってきたルミナスは、僕の前にしゃがみ込み、冷え切った僕の頬を、指先でなぞって、僕の反応を楽しむ。
「君は、捨てられたんだよ。お父様からも、信じていた友人たちからも。役立たずで無価値の君は、やはり捨てられる運命なんだよ。……人というのは変わるんだ。以前、友だったとしても、それが永遠というわけじゃないだろう?みんな、君に飽きたんだ。呆れたんだ。」
「……違う……そんなの……」
それを否定する僕の言葉には、全然力が入らなかった。それに、否定する力も誰も来ないこの状況の中で、日に日に無くなっていた。
そして、ルミナスの言葉を否定しきれないのには、理由があった。
───だって、僕は知っているから。
最初は育ててくれていたであろう僕を捨てた実の親。
孤児だった僕を拾って、愛してくれていたのにアランが帰ってきて豹変したお父様とお母様。
大好きだったアッシュを一度捨ててしまった僕。
嫌われていたはずなのに、仲良くしてくれるようになったレオン君やテルノ、アラン。
友達だったはずのレオン君を好きになってしまった、僕。
人の心と言うのは、わからない。
コロコロと形を変えるもの。
永遠なんて、ない。ずっと友達なんて、存在しない。
だから。
やはり最終的に、僕は誰からも捨てられる、誰にも愛されない人間ということなんだろう。
───そんな捨てられてばかりの僕に触れ、声をかけてくれるのは、今はルミナスだけで。
「……そろそろ、君を裁判にかける準備が整いそうでね、予定は明日の昼だ。君は、自分の犯した罪……数々の悪行を突きつけられ、最終的には衆人環視の中で処刑されるかもしれないね。お父様が涙ながらに君を告発する姿は、きっと民衆の心を掴むだろう。」
そう言うと、ルミナスは僕の耳元に顔を寄せ、とびきり優しい声で、囁いた。
「……ねえ、ノア君。私が救ってあげようか?」
「……え……?」
僕は動揺して、目を見開く。
ルミナスの真意をとろうとじっと見るけれど、何を考えているかわからない。
「表には、君は告発される自分の罪に耐えかねて、自ら命を絶ったことにする。死体は適当な身代わりを用意すればいい。……そうして、君はこの世から消え、私たちウロボロスの仲間になるんだ。」
ルミナスの手が、僕の首筋を這い、服の隙間から胸元へと滑り込んだ。
「な、何……っ」
「君のその美しい見目にだけは、価値があるからね。君の周りの人間は君を拒絶したんだ。君を求めているのは、私だけ。
……私なら、君をゴミのように捨てる家族や仲間たちとは違い、可愛がってあげるよ。君が死ぬまで、ずっとね。」
「……死ぬまで、ずっと……?僕を捨てることは、無いってこと……?」
「そうだよ。君を捨てることはしないと、誓おう。……どうだい? 独りで寂しく処刑台に上るよりは、ずっとマシだと思わないか?」
彼の言葉は、毒のようにゆっくりと僕の思考を麻痺させていく。
きっと、これは嘘だ。
こんなことをして、ルミナスに何も得がないから。
こんなことを言って、きっといつかは僕を捨てるだろうし、仲間になったところで何をさせられるかわかったものでは無い。
……だけど今、この手を取らないと僕は明日には罪を告発されて、孤独のまま誰にも必要とされないゴミ同然として死ぬかもしれない。
嫌だ。それだけは、嫌だ。
(……でも、待ってたって誰も来ない。レオン君も、アランも……誰も、僕を助けてはくれないんだ。)
暗闇の中で一人、誰にも見向きもされず、お父様の駒として使い潰され、ゴミのように捨てられる。
それなら……。
たとえそれがおかしな提案だとしても。
たとえ、この先の人生が人間として扱われない家畜のような生だとしても。
それでも、ルミナスは、僕を必要だって言ってくれるから。
この世でたった一人、僕を「必要だ」と言ってくれる人の手を取れば、この地獄のような孤独から逃げられるのではないか。
判断能力を失った僕の頭は絶望で支配されていて、目の前に差し出された手しか目に映らない。
「……さあ、おいで。ノア」
ルミナスが、優しく、慈しむような声とともに、僕に手を差し出す。
「……ぁ、ああ……」
僕は、震える指先を彼に伸ばした。
レオン君の温かい手でもなく、きっと自分を壊し、弄ぼうとしている悪魔の手に向かって。
66
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。
これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。
無自覚両片想いの勇者×親友。
読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった
angel
BL
つまらないことで死んでしまったボクを不憫に思った神様が1つのゲームを持ちかけてきた。
『転生先で王様になれたら元の体に戻してあげる』と。
生まれ変わったボクは美貌の第一王子で兄弟もなく、将来王様になることが約束されていた。
「イージーゲームすぎね?」とは思ったが、この好条件をありがたく受け止め
現世に戻れるまでノラリクラリと王子様生活を楽しむはずだった…。
完結しました。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる