用済みになった貴族の養子の子が本当の愛を知るまで

チョココロネ

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この部屋に閉じ込められてから、何日が経っただろうか。窓一つない暗闇の中、僕はただひたすら孤独に耐えるばかりだった。

それに、いくら待てど誰も僕を助けに来てくれる者はおらず、そればかりか僕を罪人として告発する準備は着々と進んでいるようだった。

一日に数回、ウロボロスのボス、ルミナスが僕の部屋を訪れる。
僕の様子を見て楽しげに話をしたり、僕の罪の告発の準備があとどれくらいかを告げに来たり。
ルミナスは、ずっと僕が、友が助けに来るかもしれないと思っているのを見抜いているのか、「君の友達はもう、君のことを見捨てたんじゃないかな。彼らに君を助ける義理はないからね?」と言っては僕の反応を楽しんでいるようだ。

そんな言葉には騙されない、と頭ではわかっているのだけれど。ただ、やはり待ち続けるだけというのは辛い。
それに加えて、刻一刻と迫る罪の告発までの時間に、焦りがわいてくる。
もしかして、レオン君たちは危険を犯してまで僕に協力するのに嫌気がさしてしまったのではないか。
そんな考えまで浮かんでしまうくらいには、僕の思考は落ち込んでいた。
 


そうして今日もいつものように部屋にやってきたルミナスは、僕の前にしゃがみ込み、冷え切った僕の頬を、指先でなぞって、僕の反応を楽しむ。

「君は、捨てられたんだよ。お父様からも、信じていた友人たちからも。役立たずで無価値の君は、やはり捨てられる運命なんだよ。……人というのは変わるんだ。以前、友だったとしても、それが永遠というわけじゃないだろう?みんな、君に飽きたんだ。呆れたんだ。」

「……違う……そんなの……」

それを否定する僕の言葉には、全然力が入らなかった。それに、否定する力も誰も来ないこの状況の中で、日に日に無くなっていた。

そして、ルミナスの言葉を否定しきれないのには、理由があった。
───だって、僕は知っているから。

最初は育ててくれていたであろう僕を捨てた実の親。
孤児だった僕を拾って、愛してくれていたのにアランが帰ってきて豹変したお父様とお母様。
大好きだったアッシュを一度捨ててしまった僕。
嫌われていたはずなのに、仲良くしてくれるようになったレオン君やテルノ、アラン。
友達だったはずのレオン君を好きになってしまった、僕。

人の心と言うのは、わからない。
コロコロと形を変えるもの。
永遠なんて、ない。ずっと友達なんて、存在しない。

だから。
やはり最終的に、僕は誰からも捨てられる、誰にも愛されない人間ということなんだろう。


───そんな捨てられてばかりの僕に触れ、声をかけてくれるのは、今はルミナスだけで。

「……そろそろ、君を裁判にかける準備が整いそうでね、予定は明日の昼だ。君は、自分の犯した罪……数々の悪行を突きつけられ、最終的には衆人環視の中で処刑されるかもしれないね。お父様が涙ながらに君を告発する姿は、きっと民衆の心を掴むだろう。」

そう言うと、ルミナスは僕の耳元に顔を寄せ、とびきり優しい声で、囁いた。

「……ねえ、ノア君。私が救ってあげようか?」

「……え……?」

僕は動揺して、目を見開く。
ルミナスの真意をとろうとじっと見るけれど、何を考えているかわからない。

「表には、君は告発される自分の罪に耐えかねて、自ら命を絶ったことにする。死体は適当な身代わりを用意すればいい。……そうして、君はこの世から消え、私たちウロボロスの仲間になるんだ。」

ルミナスの手が、僕の首筋を這い、服の隙間から胸元へと滑り込んだ。

「な、何……っ」

「君のその美しい見目にだけは、価値があるからね。君の周りの人間は君を拒絶したんだ。君を求めているのは、私だけ。
……私なら、君をゴミのように捨てる家族や仲間たちとは違い、可愛がってあげるよ。君が死ぬまで、ずっとね。」

「……死ぬまで、ずっと……?僕を捨てることは、無いってこと……?」

「そうだよ。君を捨てることはしないと、誓おう。……どうだい? 独りで寂しく処刑台に上るよりは、ずっとマシだと思わないか?」

彼の言葉は、毒のようにゆっくりと僕の思考を麻痺させていく。 

きっと、これは嘘だ。
こんなことをして、ルミナスに何も得がないから。
こんなことを言って、きっといつかは僕を捨てるだろうし、仲間になったところで何をさせられるかわかったものでは無い。

……だけど今、この手を取らないと僕は明日には罪を告発されて、孤独のまま誰にも必要とされないゴミ同然として死ぬかもしれない。

嫌だ。それだけは、嫌だ。

(……でも、待ってたって誰も来ない。レオン君も、アランも……誰も、僕を助けてはくれないんだ。)

暗闇の中で一人、誰にも見向きもされず、お父様の駒として使い潰され、ゴミのように捨てられる。 

それなら……。

たとえそれがおかしな提案だとしても。
たとえ、この先の人生が人間として扱われない家畜のような生だとしても。 

それでも、ルミナスは、僕を必要だって言ってくれるから。
この世でたった一人、僕を「必要だ」と言ってくれる人の手を取れば、この地獄のような孤独から逃げられるのではないか。

判断能力を失った僕の頭は絶望で支配されていて、目の前に差し出された手しか目に映らない。

「……さあ、おいで。ノア」

ルミナスが、優しく、慈しむような声とともに、僕に手を差し出す。

「……ぁ、ああ……」

僕は、震える指先を彼に伸ばした。 
レオン君の温かい手でもなく、きっと自分を壊し、弄ぼうとしている悪魔の手に向かって。


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