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魔王、虎さんに出会う

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そうして3時間ほど続き続けた頃。そろそろお腹すいてきたなぁ……なんて考えてたら、遠くからミシッ、パキ、ミシッ、ミシッと、何かが近づいてくる音が聞こえた。

───うん、この近づいてくるやつ、絶対獣とかだよね、これ!?に、に、逃げないとぉぉぉ!!!!


うわぁぁぁ~ん!と、闇雲に逃げ惑う。後ろをちらっと振り返ると、そこに居たのは───そう、虎だった。え?なんでこんなとこに虎?とか思ったけど、そんな場合じゃない。このままじゃ食われる~!と、またもや泣きながら必死に逃げる。しかし、前世はデスクワークばかりしていた俺。運動神経はやはり落ちていたのか、自分の足がぐちゃぐちゃに絡まって、どしーん!と、すっ転んでしまう。


背後からは、ノシ、ノシ、とゆっくり虎が近づいてくる音が聞こえる。もう、頭の中がパニックになってしまった俺は、凄い勢いで虎の方へ振り向き、「た、食べないでぇっ!ごめんなさいぃぃぃー!」
と、号泣しながら叫んでしまった。

すると、ピタ、と止まった虎。
え?この虎、もしかして話が通じるの!?と、びっくりしてしばしその虎と見つめあっていると。

ゆっくりと虎が俺の方へ近づいてきた。怖くて、「こ、来ないでぇっ!」と、必死に抗議するが、虎は無視して近寄ってくる。ああ、虎に話が通じるわけないか。もう、終わりだ───そう思ったのだが。
俺の目の前、もう、それも虎の前足が俺に触れるくらいに近寄ったところで、すたっとお座りの姿勢をしたのだ!

「え?な、何……?」
と、涙声で問いかけると。

「我は召喚獣のハルクである。我が主よ。我は、そなたに惹かれたのだ。我が主となってくれぬか。」

と、答えが返ってきた。
え?この虎喋れるの?と、じぃーっと虎の顔を見つめていると。
だんだん焦れてきたのか、虎が地面をしっぽでたしっ、たしっと叩きながら「どうである?我と主従契約を結ぶのは。」と、再度聞かれてしまった。

それはもう、ひとつしか選択肢はないだろう。ここで断りでもしたら、俺がどうなるのかわかったもんじゃない。絶対腹いせに食い殺されちゃうよぉ!と、ガクガク震えながら、「い、いいよ……?契約、しても言いよ、虎さん。」

と、答えると「誠であるか!感謝する!」と言い、虎の大きな舌で俺の頬をべろっと舐められた。
その時、ふわっと手の甲が光った気がして、ちら、と見やると、そこにはよく分からない紋章が。

これは何なんだ?と、虎に問う様に首をこて、と傾げながら虎に視線を向けると、彼も前足をひたっと前に出してくれた。そこには、俺と同じ紋章が。

ああ、なるほどね。契約したから、そのしるしに紋章が浮き出たってことか。と、納得して、安心したからかまた、目からぽろ、と涙がこぼれおちた。それを見た虎は、またその大きな舌で、今度は涙をぺろっと舐めてくれた。ふふふ、優しい虎だなぁ、なんてほっこりしてしまって、自然と笑顔になる。そんな俺の様子を見て、虎もどこか嬉しそうだ。

その後、日が落ちてきたのを確認した俺たちは木の根元の所に小さな穴を見つけたので、そこに入り込んで2人(1人と1匹?)で寝ることにした。なんだかこの虎さんの体温は落ち着く。転生してから、こんなに安心したのは初めてかもしれないな───なんて考えてうとうとしていると、いつの間にか眠りについていた。

ちなみに、晩ご飯は虎さんがどこからか、木の実みたいなものを取ってきてくれた。とても美味しかった。




その頃、魔王城では。
魔王様の様子を、宰相が水晶で確認しているところであった。魔王様が人間界の視察を自らしたいと言うので、人間界にやったというのに、何故か謎の獣と主従契約をしているのを見た宰相は、また魔王様の人(?)タラシがでた……と、深いため息を着いていたのであった。

そう、魔王は魔界を追放された訳では無い。先程の会議で、何でもかんでもうん、とうなづいているうちに、いつの間にか人間界での視察をすることになっていたのである。それも、冷戦中の人間界の弱みを握るために。

魔力もない魔王に、果たして敵だらけのこの場所で、人間界の有力な情報は掴めるのか───

これは、そんなポンコツ魔王の、人間界での奮闘をまとめた物語である。





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