拳の剣聖

シンカイ

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1始まりという現実逃避

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 俺は今正気でいるのだろうか。それとも頭を打ったからこんな光景が見えているのか、そうなのか?
 今、俺の眼前にはのどかな、ファンタジーで云うそう、ベタな草原がどこまでも広がっていた。

 ──ちょ、ちょっと待てや!

 ちょっと思いだそう。俺は確か自宅でゲームをしていた。そう、ちょ~っとアレなゲームをしていたんだ。それに熱中していた俺の耳に誰かは知らんが階段を上ってくる音が僅かに聞こえていた。
 しかし、あまりにも熱中していた俺はその階段の音を別の音と勘違いしてしまった。
 そしてドアノブを回す音が聞こえたときにはもう遅かった。扉が開け放たれる前に何とか隠蔽しようと慌てて椅子から立ち上がり機器の隠蔽を試みた。
 だが!なんの不幸か俺は偶然足元に置いてあった表面がツルツルの本を踏んでしまい、綺麗にスッ転んだ。そしてその時に頭を強く打った俺の視界はテレビの電源を切ったようにブラックアウトした。
 そうして目が覚めると──いつの間にか草原にいたという訳だ。

 ──………どどどどどどどうしよう!?

 ままままて、俺は画面は消したのか?ゲームは隠したか?大切な俺の七色の性癖聖書セブンスバイブルはどうしたっけ?アレの隠蔽が出来なかったら俺はもうきっと永遠に汚物を見るような目を常に向けられ続けるだろう……!

 ──ヤバイ、思い出せない。

 「うおおおおマジか!嘘でしょ?嘘であってほしい!」

 周りには未だに地平線まで続く草原が見える。だがそんなこと気にしちゃいられねぇ!

 「思い出せ思い出せ!」

 だが、転倒した後の記憶は何も思い出せない。

 ──終わった…。もう帰れねぇ…!

 じゃないや目を覚ましたくねぇ!目を覚ませばきっと俺は生きながらにして地獄を味わうだろう。
 少しだけその光景を俺なりに想像してみた。

 ──やだぁ。もう無理だぁ…!

 ガックリと肩を落とす。ついでに膝を折る。もう何も考えたくなかった。

 ──何てこった……。

 は!待てよ?これが夢なら目を覚まさなければ良くね?

 ──そうだよ!ナイスアイディアオレ!

 よーぅし、そうと決まれば俺はこののどかな光景を永遠に味わってやるぜ!

 ──一時間後──

 「スヤァ…」

 気持ちよく爆睡している俺の鼻に何かが当たる。感触からして十中八九草だろう。

 「ファ…、ベックショイ!」

 くしゃみの反動で目が覚める。いつの間にか寝てしまったようだ。そして目が覚めたということは──

 ──やべぇぇぇ!起きたくねぇよ!

 その場で頭を抱えて胎児のように縮こまる。間もなく襲われるであろう罵倒に備えて。
 しかし、一向に罵倒は飛んでこない。

 ──あれ?

 おそるおそる腕のガードをゆっくりと外す。そして気付く。景色が全く変わっていないことに。
 そこで俺はようやく気付いた。

 ──何で草に触れるんだ?何で風があるんだ?夢だろ?夢だよな?あれ?

 俺はつい先程までこの場所で寝ていたはずだ。夢ならば、夢で意識が断たれたなら俺は今頃間抜けなアホ面を家族にゴミを見るような目で見られながら覚醒していたことだろう。
 だが、そうではなかった。つまり──

 「ここどこだよぉぉぉおおおおぉぉぉ!!」

 空に向けて絶叫した。
 俺が出した結論はここは地球のどこか。若しくは地球ではないどこかということだ。
 だが、ここがどこであるにせよであることに変わりはない。

 「俺迷子じゃん!」

 ──あーもうどうしようホント…

 どこを見てもうんざりするほどに広い草原が見える。悲しいことに人工物は一切見当たらなかった。

 そうして途方にくれることに時間を費やしていると、常に心地よい風に運ばれて来ていた草の揺れる音に混じってとても小さな異音が耳に届いた。
 それはあまりにも小さな本当に微かに聞き取れる音だったが、延々と風の音だけを聞いていた俺には分かった。しかし聞こえてくる方角が特定できない。

 ──また聞こえるのかな?

 耳を澄ますとまた聞こえる。先程よりもハッキリと。

 「!」

 ようやく俺はこの異音の正体が分かった。それは──

 「悲鳴だ……、それも女の子の……!」

 ──どうしよう。どうすればいいんだ…?

 体が硬直する。俺には関係ない、とばかりに。
 悲鳴に関して俺には忘れがたい思い出があった。それも、必ず俺が不幸になっていた思い出が。
 俺は、悲鳴の主には大変申し訳ないが、無視をしようと意識を逸らそうとした。だが──

 「──けて…!」

 とても弱々しい、怯えて震えるような声でだが、俺には方角すら完璧に分かるほどにハッキリと聞こえた。否、聞こえてしまった。
 その瞬間、俺は駆け出した。

 ──何でだろう。俺は弱いのに。喧嘩だってしたことないのに。

 自然と体が動く。先程までは体が鎖で縛られたように体が、動かなかったのに。

 ──畜生、どうして無視できねぇんだよ!

 いつもそうだ。誰かが困っていると俺はつい手を差し伸べてしまう。そのあといつもいつもいつも俺は不幸になっているのに!
 だが俺はそう考えつつも足を止めることはなかった。

 どのくらい走ったのだろうか、数百メートルだろうが今の俺には余力を残すほどの余裕は生まれなかった。
 息を切らしながらも走り続ける。そして──

 「み、見つけた…!」

 遂に俺は悲鳴の主であろう今にも…犬、いや狼か?に襲われそうな女の子をその目に捉えた。
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