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19 目的と目標
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衝撃に巻き込まれた一つの家屋が遂に倒壊した。人ならざるものの手によって。
辺りに粉砕された家の残骸が散らばる。その中にはーーーー。
「うあっ! うああぁぁぁあアァァァァァアァアァァ!!!」
まるで羽根のように空を舞う…アーリィの姿が……あった………。
金髪の髪を靡かせ、重力に逆らうことなく地に落ちる。
月夜の明かりに照らされた彼女の髪は、己の体液により真紅に染めた。誰が見てもわかる。あれは重症だと。
怪物は俺の叫びを聞いて嗤っていた。もっと聞かせろと言わんばかりにいやらしく口角を歪ませて。
果たしてこの怪物は満足したのだろうか。ひとしきり嗤うともう役目は終わったとばかりに、こちらには一切目もくれず歩き出した。
今度は村人の家が密集している方角へ。
(くそっ! くそっ! くそぉっ!!)
憎しみと例えようのない怒りが俺を包んでいく。だが!こんなにも憎んでいるのに! 心は猛り狂っているのに! 身体が動かない!!
(動けッ! 動けッ! 動けよぉッ!!)
「うおぉぉぉ、くそッくそッ! 殺す! 殺してやる! クソッタレ! チクショウ、動けよッ!!」
サイクロプスはどんどん小さくなっていく。そして、遊びのように住宅を次々と積み木の城を壊すかのように薙いでいく。
それだけで住宅は飴細工のように粉砕されていく。
住人にはその圧倒的暴力に抗う術はない。故に人々はその光景を拳を握って黙って眺めているしかなかった。
そして遂に、サイクロプスは村から姿を消した。後に残ったのは大量の瓦礫の山と少なくない怪我人だった。
怪物が去った後、その場に残されたのは俺と瀕死のアーリィだけだった。
俺は満身創痍の身体を必死に動かし、なんとかアーリィの側まで行こうと躍起になる。
だが、俺にも限界がきていたのだろう。もがいているうちに、疲れよりも先に強烈な睡魔に襲われる。
(くそ……、あ…アーリ…ィ……)
必死に感覚のない腕をアーリィに伸ばす。だが、俺の腕は見当違いのところに伸ばされ虚しく空を切る。
体力の限界がきてしまった俺はもう伸ばした手を戻す力もなく、力尽きたのだった。
***
「おーい?」
(なんだ…、誰だ?)
「ちょっと、ねぇ!」
(なんだ…この声……聞いたことが、あるような……)
「ん~起きないなぁ…。やっぱり今呼び出すのはマズかったかな…」
俺は遂に、鉛よりも重かった瞼をゆっくりと開いた。
「やぁ!」
(!?)
眼前には整った顔立ちをした青年…いや、ジェイドがいた。
「いやぁ気がついたかい?」
ニコニコと笑みを浮かべるジェイドがそう問いかけてくる。
「あ、はい……。…あれ?」
ふと自身の体の違和感に気づく。あれだけサイクロプスに打ちのめされたのに身体のどこにも傷がないのだ。
不思議に思っている俺の様子に気付いたのか、ジェイドが説明してくれる。
「ん? 傷がないのが気になるのかい? それはここに連れてきているのは君の精神だけだからさ。いくら私でも生身の肉体をここまで持ってくるのは骨が折れるからね。だから戻れば普通に傷が残っているからね、そこは勘違いしないように」
「あ、はい、わかりました」
今の状態でそんなこと言われてもイマイチ実感が湧かなかった。今は無傷だけど戻れば肉体は傷ついてる、なんて言われてもなかなか実感できるものではないと思う。
「おっと、こんなことしてる場合じゃなかった! さっそくで悪いけどこの場所に君を呼んだ説明をしておこうか」
「は、はい」
「もう分かっているとは思うが、君はあの場で死ぬはずの運命だった。でも死ななかった。 何故だと思う?」
「え、いや…分かりません」
「それは、君の死という結果があの場にいた誰かしらの死という結果に上書きされたからだ。 悪い言い方をすれば、自分の死を誰かに押し付けたことになる。」
「…………」
あの時の瞬間を思い出す。住居をなんの躊躇いもなく破壊していく怪物。家の中には誰か残っていたかもしれない。そのうちの誰かが死んだのだろうか。
だが俺の脳内には1人の人物が浮かび上がっていた。
(まさか…いややっぱり…、そういうこと、なのか……?)
「うん、君が思い浮かべている子は死んでないから安心するといいよ」
まるで思考を読み取ったかの如く適正なタイミングで俺の思考に割り込んだ。
「ほ、本当ですか!?」
「うん、それは神である私が確かに保証するよ。 ただ、死人は確実に出ているがね。 この場では、君が関わったことのある人とだけ言っておこうか。後は自分の目で確かめてみるといいよ」
だらかが死んだ、と言うジェイドの言葉に胸を締め付けられる。
「まぁそれはともかく。君はもう今日で運命のケリがついた、と思ってたかい? 残念ながら君の死の運命は未だに迫ってきている。理由は分かるかい?」
顎に手を当て僅かに逡巡すると俺は答えた。
「…俺が死んでいないから、ですか?」
「うーん、違うね。 確かに君が生きているからこそ死の運命はあるけど、今の問題はそこじゃない。」
「というと?」
「君を死という結果に引きずり込もうとした原因が、未だにあるからだ。 残念ながら私の口からはそれ以上答えることはできない。後は君がなんとか解決するんだ」
「そこまで教えていただければ、俺にもなんとかできると思います。 ありがとうございました!」
俺は助言をくれたジェイドに対して感謝を述べる。
「本当はもっと力になってあげたいんだけれどね…今の私にはこんな事しかできない。 すまないね」
「いえそんな! 十分に助かりましたって!」
手をブンブンと振って、そう告げる。
「ふふ、ありがとう。 …さて、そろそろ時間だね。君を肉体に戻す。 今度会うときは今を乗り越えたら、かな?」
「はい! 必ずまた神様にお会いしたいと思います!」
「ハハッ、是非その意気で頑張っておくれ! ーーの器よ…」
ジェイドの激励を最後に、再び俺の瞼は力無く下がるのだった。
辺りに粉砕された家の残骸が散らばる。その中にはーーーー。
「うあっ! うああぁぁぁあアァァァァァアァアァァ!!!」
まるで羽根のように空を舞う…アーリィの姿が……あった………。
金髪の髪を靡かせ、重力に逆らうことなく地に落ちる。
月夜の明かりに照らされた彼女の髪は、己の体液により真紅に染めた。誰が見てもわかる。あれは重症だと。
怪物は俺の叫びを聞いて嗤っていた。もっと聞かせろと言わんばかりにいやらしく口角を歪ませて。
果たしてこの怪物は満足したのだろうか。ひとしきり嗤うともう役目は終わったとばかりに、こちらには一切目もくれず歩き出した。
今度は村人の家が密集している方角へ。
(くそっ! くそっ! くそぉっ!!)
憎しみと例えようのない怒りが俺を包んでいく。だが!こんなにも憎んでいるのに! 心は猛り狂っているのに! 身体が動かない!!
(動けッ! 動けッ! 動けよぉッ!!)
「うおぉぉぉ、くそッくそッ! 殺す! 殺してやる! クソッタレ! チクショウ、動けよッ!!」
サイクロプスはどんどん小さくなっていく。そして、遊びのように住宅を次々と積み木の城を壊すかのように薙いでいく。
それだけで住宅は飴細工のように粉砕されていく。
住人にはその圧倒的暴力に抗う術はない。故に人々はその光景を拳を握って黙って眺めているしかなかった。
そして遂に、サイクロプスは村から姿を消した。後に残ったのは大量の瓦礫の山と少なくない怪我人だった。
怪物が去った後、その場に残されたのは俺と瀕死のアーリィだけだった。
俺は満身創痍の身体を必死に動かし、なんとかアーリィの側まで行こうと躍起になる。
だが、俺にも限界がきていたのだろう。もがいているうちに、疲れよりも先に強烈な睡魔に襲われる。
(くそ……、あ…アーリ…ィ……)
必死に感覚のない腕をアーリィに伸ばす。だが、俺の腕は見当違いのところに伸ばされ虚しく空を切る。
体力の限界がきてしまった俺はもう伸ばした手を戻す力もなく、力尽きたのだった。
***
「おーい?」
(なんだ…、誰だ?)
「ちょっと、ねぇ!」
(なんだ…この声……聞いたことが、あるような……)
「ん~起きないなぁ…。やっぱり今呼び出すのはマズかったかな…」
俺は遂に、鉛よりも重かった瞼をゆっくりと開いた。
「やぁ!」
(!?)
眼前には整った顔立ちをした青年…いや、ジェイドがいた。
「いやぁ気がついたかい?」
ニコニコと笑みを浮かべるジェイドがそう問いかけてくる。
「あ、はい……。…あれ?」
ふと自身の体の違和感に気づく。あれだけサイクロプスに打ちのめされたのに身体のどこにも傷がないのだ。
不思議に思っている俺の様子に気付いたのか、ジェイドが説明してくれる。
「ん? 傷がないのが気になるのかい? それはここに連れてきているのは君の精神だけだからさ。いくら私でも生身の肉体をここまで持ってくるのは骨が折れるからね。だから戻れば普通に傷が残っているからね、そこは勘違いしないように」
「あ、はい、わかりました」
今の状態でそんなこと言われてもイマイチ実感が湧かなかった。今は無傷だけど戻れば肉体は傷ついてる、なんて言われてもなかなか実感できるものではないと思う。
「おっと、こんなことしてる場合じゃなかった! さっそくで悪いけどこの場所に君を呼んだ説明をしておこうか」
「は、はい」
「もう分かっているとは思うが、君はあの場で死ぬはずの運命だった。でも死ななかった。 何故だと思う?」
「え、いや…分かりません」
「それは、君の死という結果があの場にいた誰かしらの死という結果に上書きされたからだ。 悪い言い方をすれば、自分の死を誰かに押し付けたことになる。」
「…………」
あの時の瞬間を思い出す。住居をなんの躊躇いもなく破壊していく怪物。家の中には誰か残っていたかもしれない。そのうちの誰かが死んだのだろうか。
だが俺の脳内には1人の人物が浮かび上がっていた。
(まさか…いややっぱり…、そういうこと、なのか……?)
「うん、君が思い浮かべている子は死んでないから安心するといいよ」
まるで思考を読み取ったかの如く適正なタイミングで俺の思考に割り込んだ。
「ほ、本当ですか!?」
「うん、それは神である私が確かに保証するよ。 ただ、死人は確実に出ているがね。 この場では、君が関わったことのある人とだけ言っておこうか。後は自分の目で確かめてみるといいよ」
だらかが死んだ、と言うジェイドの言葉に胸を締め付けられる。
「まぁそれはともかく。君はもう今日で運命のケリがついた、と思ってたかい? 残念ながら君の死の運命は未だに迫ってきている。理由は分かるかい?」
顎に手を当て僅かに逡巡すると俺は答えた。
「…俺が死んでいないから、ですか?」
「うーん、違うね。 確かに君が生きているからこそ死の運命はあるけど、今の問題はそこじゃない。」
「というと?」
「君を死という結果に引きずり込もうとした原因が、未だにあるからだ。 残念ながら私の口からはそれ以上答えることはできない。後は君がなんとか解決するんだ」
「そこまで教えていただければ、俺にもなんとかできると思います。 ありがとうございました!」
俺は助言をくれたジェイドに対して感謝を述べる。
「本当はもっと力になってあげたいんだけれどね…今の私にはこんな事しかできない。 すまないね」
「いえそんな! 十分に助かりましたって!」
手をブンブンと振って、そう告げる。
「ふふ、ありがとう。 …さて、そろそろ時間だね。君を肉体に戻す。 今度会うときは今を乗り越えたら、かな?」
「はい! 必ずまた神様にお会いしたいと思います!」
「ハハッ、是非その意気で頑張っておくれ! ーーの器よ…」
ジェイドの激励を最後に、再び俺の瞼は力無く下がるのだった。
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