拳の剣聖

シンカイ

文字の大きさ
28 / 29

28 代わりの人

しおりを挟む
 「リンさん…、リンさぁん……!」

 私は泣きじゃくりながら沢山の血を流して倒れているリンさんの体を揺する。
 でも、リンさんは目を覚まさない。そればかりではなく、身体から溢れる血がいつまで経っても止まらなかった。
 私にとってはそれはとてもとても恐ろしいことだった。
 私達に限らず全ての生き物には血が流れていることなど子供の私ですら知っていることだ。そんな大事だと分かっている血が大好きな人の身体から流れていってしまっている。
 手で押さえても血は止まらない。それがたまらなく怖かった。

 「リンさん…、はやっ、く起きでッ…、はやぐぅッ…!」

 涙で前が見えなくなる。それでもリンさんに触れている手を通じてリンさんに死神さんが近づいているのが分かる。
 自分の心がドキドキする度にリンさんから血が流れ、死神さんの鎌が音もなく静かに近づいて来るような恐怖を感じた。

 「アア、ヤッパリオレノカチダッタ」

 私のすぐ後ろで赤い色をした化け物が何か言った気がしたけど、多分気のせいだろう。

 「リンざんッ…、死なない゛でっ!! 死んじゃッ、やだっ、よう!」

 必死に言ってみたけど、リンさんはまだ目を覚まさない。すると、大きな足音を立てながら化け物が私のすぐ後ろに立った。

 「コドモ、ジャマ。 イマカラトドメヲサスカラドケ」

 瞬間私は、キッと化け物の大きな目を睨みつけながら

 「どがないよッ!!」

 大きな声で怪物に言った。
 すると化け物は、持っていた大きな木で出来たものを振り上げて、一言

 「ナラオマエモイッショニコロス」

 そう言ってその木を振り下ろした。

 (ああ、私、リンさんのお嫁さんにならないまま死んじゃうんだ…。イヤだけどリンさんと一緒だもん、それなら…)

 ギュッっと目を瞑って痛いのが来るのを待った。

 …………

 (……あれ? おかしいな、なんで来ないの?)

 そ~っと目を開けてみると、そこには——。

 「ナ、ナンダト!?」
 「はっはっは、軽いなぁオイ!」

 化け物の木を片手で掴んでいるリンさんがいた。
 リンさんは受け止めた木を化け物がまだ掴んでいるのに、化け物ごと投げた。
 私は開いた口が塞がらなかった。だってリンさんの何倍もある大きな身体が、小さいリンさんにいとも簡単に投げられている、そんな光景を目の当たりにしたのだから。
 リンさんは化け物を投げた後、こちらを見た。

 (? ……あれ!?)

 おかしい。目が合った瞬間私は違和感を感じた。何がどうとはうまく説明できないけど、何かが気がした。
 そしてそれは確信に変わった。

 「よう、大丈夫だったか?」

 (この人…、リンさんじゃない!)

 私は勇気を出して、リンさんの姿をした人に聞いた。

 「あ、あなたはだ、誰ですか?」

 そう聞いた途端、その人は目を丸くした。

 「お、おい、俺がリンじゃないってこと分かるのか?」

 半分ビックリした様子でこちらに聞いて来る人に、私は怒りの混じった声で言ってやった。

 「私は好きな人とそうじゃない人は絶対に間違えません!!」

 そう言った私を見て、その人は大きく笑い出した。

 「ハハッ、ハハハハハッ!! こいつぁスゲェのに好かれたもんだなぁ、リンさんよぉ!! ハッハハハハ、はぁ~、ととぉ、なんだどうしたぁ?」

 その人は大笑いしている最中に突然足元がおぼつかなくなった様子で、その場にフラリと倒れた。

 「お、おお? なんだこれ身体がダリィぞ?」
 「血が、一杯出てるから、早く止めないとダメです…」

 そう言ってあげると、その人は納得したようで、

 「ああ、なるほどな! オッケーオッケーそういうことな!」

 そういうとその人は何事かを呟き始めた。それはお姉ちゃんが魔法を使うときの詠唱のようでした。

 「~~~~~~、」

 その人が詠唱するにつれて、その人の手がボンヤリと薄く儚げに輝きだしました。ですが。

 「まっくろ……」

 そう、その光は決して眩しいものではありませんでした。
 ですがその人は詠唱を終えると、満足げな表情で頷いていました。

 「うぉし、リン見てろよ? これがの力だ!」

 正面を見据え、誰も見当たらない場所に向かってその人は、そう言います。そしてその人は徐に光る拳を自身の傷に当て叫びました。

 「『転撃・癒』!」

 そう言った直後、その人は自身の傷を光る拳で殴りつけたのです。

 「な、何してるんですか!?」

 私は思わず声を荒げてしまいました。そんな光景を見ていたら誰だって怒鳴るに決まっています!
 しかもそれが自分の好きな人が目の前で自分で自分を傷つけているのだからなおさらです!

 しかし、そこからの異常に私は唖然としました。私は確かにこの人が自分の傷を殴りつけたのを見ました。であればその傷は一層酷くなっているはずです。なのに。

 「あ、あれ……? き、傷が……ない?」

 その人が殴った場所。そこには切り傷や打撲痕はおろか、かすり傷ひとつ残っていませんでした。
 そんな私を知ってかしらずか、その人は自身の身体の傷をどんどん殴りつけていきます。そしてその度に傷跡が無くなり遂にその人は無傷の姿になっていました。

 「んん、まぁこんなもんだな!」

 グリグリと肩や腕を回し、その人はそんなことを言っていました。

 「ニ、ニンゲン……、コロスッ!」
 「おっと、そういえばまだいたなお前」

 本気でうっかりしていたような表情を浮かべ、足音のする方へと顔を向けたその人はこちらを見て、

 「んじゃあ、リラちゃん、だっけか? 危ないからちょっと離れてな」

 リンさんの声で優しい声音でそんなことを言われてしまったので素直にその場を離れました。

 「よし、じゃあかかってこいよ、ほら」

 不敵な笑みを浮かべその人は怪物を挑発します。

 「ナメルナァッ!!」

 その体格からは想像もつかない俊敏さを見せ、一気にその人の目の前まで来ると持っていた木の武器をその人目掛けて振り下ろしました。

 「り、リンさぁん!!」
 「いや、リンじゃないよって」

 思わず出た悲鳴に近い私の叫びにそんな風に返しながらその人は未だ光る拳を迫り来る凶器に向かって叩きつけました。

 「『転撃・衝』! オラァッ!!」

 気合いを入れてその人が凶器を殴りつけると。

 「ガァッ! バ、バカナ……!」
 「なんだよ何かおかしかったか?」

 こともなげにそう言い放つその人に対して怪物は驚愕の表情で自身の握っている武器の柄を見ていました。もちろん私もそんな表情で見ています。

 「まぁ、これで正当防衛ってことでいいかな。というわけで」

 言葉を切ってその人は怪物にとびかかり、

 「はいッ、おわりッ! 『転撃・斬』!」

 光る拳を手刀の形にして怪物の首目掛けて横薙ぎに振るいました。
 そこからの光景に私はさらに驚くことになりました。私は素手で魔物を倒す人は見たことありますが、素手で魔物を、それもこんなに大きな怪物を人なんて見たことがありません。

 ズルズルと横にずれていく怪物の首を見て私はそんなことを思いながらゆっくりと意識を落としました。

 「ああ、っちゃ~、流石にショッキングすぎたかな……」

 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。 父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。 無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。 純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

神様を育てることになりました

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
死後の世界で転生待ちをしていた。誘導にしたがって進んでいたが、俺だけ神使に別の場所に案内された。そこには5人の男女がいた。俺が5人の側に行くと、俺達の前にいた神様から「これから君達にはこの神の卵を渡す。この卵を孵し立派な神に育てよ」と言われた。こうしてオレは神様を育てることになった。

処理中です...