拳の剣聖

シンカイ

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27 俺の中の俺

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 「………うっ…くぅ………、こ、ここは…?」

 目を開くと見知らぬ景色が映った。いや、この場合は映った、と言うべきではないのかもしれない。
 辺りはひたすら闇。黒い空間以外には何もなかった。
 そして気にも留めていなかったが、いつの間にかあれだけクリムゾンに痛みつけられていた身体に痛みが消えていた。
 俺は身を起こすとその場に立ち上がろうとした。
 だがその時。

 「ハッ、ようやっと起きたか!」

 頭上から声が降ってきた。思わず反射的にそちらを向く。すると——

 「よう」

 頭に二本、人にはあるはずの無い角を生やし、牙を剥き出し不敵に笑う何をどうしたらそんな体になるのかと問いたくなる程の完璧に引き締まった肉体を持つ生物が、腕を組みこちらを見下ろしていた。

 「うっうおわあぁぁぁぁっ!?」

 その場から弾かれるようにして離れる。その生物—見た目が完全に鬼—はその場から動かず、ただ目線だけがこちらを追いかけてきていた。
 なけなしの勇気を出して話しかける。

 「お、お前は、い、一体何者だ!?」

 震える声で問いかけた俺に鬼は、

 「何者だァ? 俺は、俺だ。お前もよく知ってるだろうが」
 「えっ? 俺がお前を知ってる? どう言う意味だ?」

 俺がそう言うと鬼は途端に慌て出す。

 「ハァ!? えっ、お前俺を知らんの!? なんで!? おかしいだろ!」

 鬼は激しく激昂しだした。

 「いや、だって俺鬼なんて初めて見たし、会ったことなんてないし」
 「いやいやいや、お前が俺を知らないのは絶対おかしいからな!? 何せじゃねぇか!」

 (………は?)

 気になり過ぎる鬼の発言に俺はその言葉を理解しようと反芻する。

 「お前は俺……ってどう言う意味だ?」
 「いや意味も何もそのまんまの意味だが」
 「それじゃ分かんないから聞いてるんだろ!?」
 「お~いおい落ち着けって、話してやるから離れろって」

 思わず掴みかかろうとする俺の手を躱し、かわりに俺の身体をヒョイと仔猫の首根っこをつかむようにして軽々と持ち上げ床に下ろす。
 そして鬼はそのまま話を始めた。

 「ん~まぁ先ずは自己紹介と行こうか。俺はもうお前…いや、リンのことは知っているからな、俺だけでいいか」
 「はやく!」
 「おぉう急かすなって。…ゴホン、俺の名前はグラヴィス。お前の——
 「俺の…転生前…だって?」
 「そうだ。俺はこの世界セリガルドに生まれただ」
 「兇神ってなんだ?」
 「ん~そうだな…一言で言うならだな」
 「余計分からんぞ…」
 「噛み砕いて言うとだな…、その世界で生きている生物が種の格を昇格してなれる最高の位……てとこか?」
 「ん? 分かったような分からないような……」
 「ん~要するに最強ってことだ! これ以外説明できん!」

 グラヴィスは半ば投げやりに説明を終えた。

 「ってちげぇ! こんな話してる場合じゃねぇな、時間がない!」

 (なんだこいつおもしれぇ…)

 一人ツッコミをする鬼を俺は新鮮な気持ちで見ていた。

 「……あっ、そうだこんなことしてる場合じゃない! アイツをなんとかしないと!」

 俺の脳裏に唐突に浮かんできたのはあの血のように赤黒い肌をした怪物、クリムゾンの姿だった。

 「お、おいちょっとグラヴィス…さん!?  一つ聞くけどここから出るにはどうすればいい…んですか!?」
 「オイオイオイ俺をそんな他人行儀に扱うなって。言ったろ?俺はお前だってよ」
 「う、うん分かっ…た。じゃあグラヴィス、ここから出る方法を教えてくれ!」
 「それはいいんだが、リンよぅ、このまま行っても今度こそ無駄死にするだけだぜ?」
 「じゃ、じゃあどうすればいい!?」

 そう問いかけた俺にグラヴィスは答える。

 「俺の力を使えばいい」
 「グラヴィスの力を? どうやって…?」
 「そうだな、やって見せるのが早いか。見ていろよ?」

 そう言うとグラヴィスは何もないはずの空間から小ぶりのナイフを取り出した。
 そしてそのナイフはどこかで見たことあるような形だった。

 (というか…)

 「グラヴィス、そのナイフすごく見覚えあるんだけど…」

 訝しげに質問んする俺に対してグラヴィスはこともなげに言う。

 「そらそうだろう。これはお前の持ってたものなんだからよ?」

 そう言ってグラヴィスは手に持つのナイフを軽く振り回す。

 「まぁ、それはさておき見ておけよ?」
 「え? ああ、うん」

 そう言うとグラヴィスはナイフを逆手に持った。

 (…………)

 「あのぅ、グラヴィス?」
 「なんだ」
 「ナイフを逆手に持ってどうするつもり?」
 「うん、ああ、いやそれはだな…」
 「どうしたの?」

 グラヴィスはその厳しい面を面白く歪めて弁解を始めた。

 「いや、あれだ、今お前に技を見せようとしたんだが、その、な?」

 バツが悪そうにはにかむグラヴィスに対して俺は言った。

 「技がでない、と」
 「いや本当に出来るんだぜ? ただこの空間じゃ技だけはどうやっても出ないらしい」
 「つまり見せられないと」
 「うっ」
 「あれだけ自信ありげに披露すると言って見せられないと。そう言うことなんですね?」
 「う、うう…」

 あれだけ威圧感を醸し出していた風体は一体何処へやら。最早グラヴィスという存在は俺の中で近寄りがたい存在ではなくなっていた。

 「あのさグラヴィス。その見せてくれるはずの技があれば、俺はあの巨人を倒せるのか?」

 イジイジと丸くなっていたグラヴィスにそう問いかけると、グラヴィスは瞬時に胸を張って、

 「勿論だ!」

 と言い放った。

 「じゃあグラヴィスさ、この空間で出来ないならあっちに戻ったら使えるの?」
 「ああ、おそらく使えるはずだ。」
 「じゃあさ、グラヴィスはさっき『お前は俺だ』って言ったよね?」
 「ああ、言ったな」
 「ならを使えば出来るんじゃないか?」

 そう言った途端グラヴィスは、ハッと得心の言った顔をした。

 「確かに、それならいけるかもしれねぇ! しかもお前の身体で使えばリンも何となくでも感覚で覚えられるかもな!」

 そういうなりグラヴィスの足元から段々と白い光が溢れ出す。その光は瞬く間に空間一杯に広がって行き、それと同じくして俺の意識が薄れ始める。

 「やるべきことが決まったのなら、行動あるのみ! とっとと戻るぜリン!」
 「あ、ああ…!」

 やっとの思いで搾り出した言葉を最後に俺は意識と共にその空間を後にした。
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