美少女が刀とかで戦うやつ

河野マサ

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私事

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 正義感や使命感に駆られてこの刃を振るえるのであれば、ずいぶんと心持ちも楽であろうに。とことんまで損な性分の持ち主なのだろうか、私は。
 横一線に振るった刀の切先は、敵の赤黒い皮膚を裂きながらその内で這うどす黒い鮮血を伴せ、次いで空を裂く。慣性の働きに抗って刃を止めると、切先で停滞していた血の幾らかがそのまま宙へと舞って行く感触が伝ってくる。
 紛いなりにも生物であるらしい敵の躰を斬るのに伴う不快感が久しく思えた。慣れてしまえば、と誰かが口にした言葉が唐突に脳裏に浮かんですぐに霧散した。

 羽渇うかつで最初に確認された異形、私似マイコロニドは今や世界中でその存在を確認されている。
 当初こそ私似の駆逐を掲げていた世界各国の政府組織も、連中の研究が進められた今ではその最終的な目標を『全人口の三分の一に留める』と改めている。無理もない決定だった。

 暴走状態に陥ってしまった私似の核である頭と胴体とを結ぶ首を両断した所で今回の私の任務は終了した。
 どこに潜んでいたのか、白い防護服を纏った集団が私の元へぞろぞろと駆け寄ってくる。手にした洗浄器具の先をこちらへ定めると、間髪入れずに洗浄剤を噴出してくる。咄嗟に目と鼻と口とを紡いで洗浄剤の侵入を拒んだ。
 任務後の洗浄作業にも慣れて来たのは良いが、私似との交戦よりもこの洗浄作業の後処理の方が面倒でかなわない。

「洗浄作業終了。レイバーはそのまま検査作業へ移行してくれ」

 マスク越しのくぐもった声が背を押してくる。促されるまま踵を返して歩き出す。
 現場である森林公園の入り口に待機している検査作業車の元へ向かっていると、慌ただしくする何人かの防護服とすれ違った。わらわらと湧いて出てくるのは珍しくもないが、あそこまで焦燥した様子でいるのには違和感を覚える。
 次いで駆けて来た防護服の一人を手で制した。

「何かトラブルでも?」
「いや、詳しいことは……ともかく、レイバーは検査作業の方を優先してくれって話だ」

 そう。これ以上の引き留めは要らぬ問題を生じさせてしまいそうに思い、言葉と目線を切って歩みを再開させた。
 私たちは刀であり、それ以上でも以下でもない。余計な思考などは持たない方が賢明である。詰まる話、この違和感でさえも捨て置くのが正解であり、私が今なによりも優先させるべきは検査作業を終え、一秒でも早くこの身の潔白を証明し、代替不要である事を使用者に知らしめることである。
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