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Ⅲ アルファの番は誰?
⑥
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「貴族、では、ないです」
ウルイは緊張に震えながら答えた。
「では、地方オアシスの有力者の血筋でしょうか?」
「いえ……ちがい、ます」
二人の視線が痛い。
「一般の方、ですか? オアシスの何番地ご出身でしょうか?」
心臓がドキッとする。オアシスは番地により裕福街出身か貧困街出身なのか分かってしまう。
「オアシスに、住んでいません。番地、なしです」
ウルイの言葉に目を見開く二人。
「まぁ! 信じられない! あの完璧なライ様の選んだ方が最下層の貧乏人だなんて! オメガ様候補は男爵家以上の貴族令嬢が名を連ねていたのに!」
悲鳴のような声を上げて、ササラが嫌悪の表情を浮かべた。
「まさか、そんな! ライ様のオメガ様なのに! 貧困層だなんて!」
トムも同じ反応を示す。
「トム侍従長、どうしましょう。私はこんな現実、受け入れられません! オメガ様は高貴な方だと思っていましたのに。お仕えするのを楽しみにしておりましたのに……」
ササラは泣いてしまっている。ウルイは恥ずかしくて申し訳なくて下を向いた。手の震えがおさまらなかった。
「オメガ様、なぜ、あなた様が選ばれたのでしょう?」
必死で平静を装っているのが伝わってくる。
「発情を誘発する薬の、せい、です」
ライがウルイを噛んだ夜を思い出して、ライが言っていたように伝えた。
「なんてこと! この野蛮な貧乏人! 卑怯な手を使いライ様をだましたのね! 許せないことですわ! トム侍従長、私、とてもこんな方は認められません!」
「オメガ様、現実はあなたがオメガ様ですが、ライ様の使用人一同はあなたを受け入れるかわかりません。そのおつもりで居てください」
二人から怒りのオーラが出ていて『水をください』と依頼することができなかった。
怖くてピリピリする空気に逃げ出したくなった。ライがいない小一時間がとてつもなく長く感じた。
布団に潜り込み、早くライが戻る事だけを願っていた。
「ただいま。トム、ササラ、ありがとう。ウルイ、大丈夫だった?」
穏やかに微笑むライが戻ってきた。
ライを見ただけでウルイの肩の力が抜けた。ほっとした。泣きそうになってしまった。
「え? どうかした? ウルイ?」
ライがすぐに側に来た。ライの後ろにはウルイを睨む二人が見えた。
二人の怖い顔を見て、先ほどまでの事を言うことが出来ず言葉を飲みこむ。
「なんでも、ない」
「そっか。簡易服に着替えてくるから、もう少し待ってね」
優しくウルイの髪をなでて、ライが部屋を出て行った。
部屋の扉が閉じると、すぐにササラが口を開く。
「汚いオメガ様、告げ口をなさりたいのならばどうぞ。ただし、その場合は邸宅の使用人すべてを敵にまわす覚悟を持ってくださいね」
冷たく言い放たれる。ウルイは肩を落として首を振る。
「告げ口なんて、僕は、しません」
「まぁ、かわい子ぶって。私どもにそのような態度が通じると思ったら大間違いですからね。今後その無教養な態度も直していただかなければいけません。番地外の者は、教育もまともに受けていないでしょうから」
大きくため息をつくササラに、何も言えずウルイは下を向いた。教養が無い、貧乏、汚い、すべてがウルイに当てはまる言葉だ。
本来ならばウルイは、ササラやトムのような貴族につく使用人にさえなれない存在だ。申し訳なさで苦しくなる。
冷たい目線が刺さるように痛かった。
「お待たせ」
着替えたライが戻ってくる。ウルイはすぐに顔を上げてライを見た。
ササラとトムに早く部屋から出て行ってほしかった。
「ウルイ、大丈夫?」
「……うん」
「まだ発情期が明けて二日目だ。それなのに一緒に居ない時間が出来てしまってごめんね。少し仕事で席を外すときにはササラとトムが付いてくれるから。二人とも伯爵家の優秀な人材だから何でも頼っていいからね。ゆっくり体調を整えればいいよ」
ササラとトムがライに向かって深く頭を下げる。ライが二人と笑顔で会話をする。
この二人を信用しているライには、先ほどの事は言わないほうが良いかもしれない。挨拶を交わして退出する二人を見送った。
心がぐっと沈み込んだ。
「ウルイ、どうかした? 元気がないけど」
部屋に二人きりになりライから声がかかる。
どうしようもなく悲しい気持ちになって、ウルイは泣いた。
「どうしたの? 傍に居なかったからだよね。 発情期後なのに、ごめんね」
何度も謝る優しいライの胸に隠れるようにしがみ付いた。涙が止まらなかった。
ウルイは緊張に震えながら答えた。
「では、地方オアシスの有力者の血筋でしょうか?」
「いえ……ちがい、ます」
二人の視線が痛い。
「一般の方、ですか? オアシスの何番地ご出身でしょうか?」
心臓がドキッとする。オアシスは番地により裕福街出身か貧困街出身なのか分かってしまう。
「オアシスに、住んでいません。番地、なしです」
ウルイの言葉に目を見開く二人。
「まぁ! 信じられない! あの完璧なライ様の選んだ方が最下層の貧乏人だなんて! オメガ様候補は男爵家以上の貴族令嬢が名を連ねていたのに!」
悲鳴のような声を上げて、ササラが嫌悪の表情を浮かべた。
「まさか、そんな! ライ様のオメガ様なのに! 貧困層だなんて!」
トムも同じ反応を示す。
「トム侍従長、どうしましょう。私はこんな現実、受け入れられません! オメガ様は高貴な方だと思っていましたのに。お仕えするのを楽しみにしておりましたのに……」
ササラは泣いてしまっている。ウルイは恥ずかしくて申し訳なくて下を向いた。手の震えがおさまらなかった。
「オメガ様、なぜ、あなた様が選ばれたのでしょう?」
必死で平静を装っているのが伝わってくる。
「発情を誘発する薬の、せい、です」
ライがウルイを噛んだ夜を思い出して、ライが言っていたように伝えた。
「なんてこと! この野蛮な貧乏人! 卑怯な手を使いライ様をだましたのね! 許せないことですわ! トム侍従長、私、とてもこんな方は認められません!」
「オメガ様、現実はあなたがオメガ様ですが、ライ様の使用人一同はあなたを受け入れるかわかりません。そのおつもりで居てください」
二人から怒りのオーラが出ていて『水をください』と依頼することができなかった。
怖くてピリピリする空気に逃げ出したくなった。ライがいない小一時間がとてつもなく長く感じた。
布団に潜り込み、早くライが戻る事だけを願っていた。
「ただいま。トム、ササラ、ありがとう。ウルイ、大丈夫だった?」
穏やかに微笑むライが戻ってきた。
ライを見ただけでウルイの肩の力が抜けた。ほっとした。泣きそうになってしまった。
「え? どうかした? ウルイ?」
ライがすぐに側に来た。ライの後ろにはウルイを睨む二人が見えた。
二人の怖い顔を見て、先ほどまでの事を言うことが出来ず言葉を飲みこむ。
「なんでも、ない」
「そっか。簡易服に着替えてくるから、もう少し待ってね」
優しくウルイの髪をなでて、ライが部屋を出て行った。
部屋の扉が閉じると、すぐにササラが口を開く。
「汚いオメガ様、告げ口をなさりたいのならばどうぞ。ただし、その場合は邸宅の使用人すべてを敵にまわす覚悟を持ってくださいね」
冷たく言い放たれる。ウルイは肩を落として首を振る。
「告げ口なんて、僕は、しません」
「まぁ、かわい子ぶって。私どもにそのような態度が通じると思ったら大間違いですからね。今後その無教養な態度も直していただかなければいけません。番地外の者は、教育もまともに受けていないでしょうから」
大きくため息をつくササラに、何も言えずウルイは下を向いた。教養が無い、貧乏、汚い、すべてがウルイに当てはまる言葉だ。
本来ならばウルイは、ササラやトムのような貴族につく使用人にさえなれない存在だ。申し訳なさで苦しくなる。
冷たい目線が刺さるように痛かった。
「お待たせ」
着替えたライが戻ってくる。ウルイはすぐに顔を上げてライを見た。
ササラとトムに早く部屋から出て行ってほしかった。
「ウルイ、大丈夫?」
「……うん」
「まだ発情期が明けて二日目だ。それなのに一緒に居ない時間が出来てしまってごめんね。少し仕事で席を外すときにはササラとトムが付いてくれるから。二人とも伯爵家の優秀な人材だから何でも頼っていいからね。ゆっくり体調を整えればいいよ」
ササラとトムがライに向かって深く頭を下げる。ライが二人と笑顔で会話をする。
この二人を信用しているライには、先ほどの事は言わないほうが良いかもしれない。挨拶を交わして退出する二人を見送った。
心がぐっと沈み込んだ。
「ウルイ、どうかした? 元気がないけど」
部屋に二人きりになりライから声がかかる。
どうしようもなく悲しい気持ちになって、ウルイは泣いた。
「どうしたの? 傍に居なかったからだよね。 発情期後なのに、ごめんね」
何度も謝る優しいライの胸に隠れるようにしがみ付いた。涙が止まらなかった。
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