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Ⅳ 王都での生活(前編)
⑥
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ウルイは暗くなった部屋でぼんやりしていた。その内に、ガチャリと音がして、ライが帰宅した。
今日も遅くまで大変だったんだなぁと思った。帰宅したライに声をかけたかったが、そんな気力はなく、ただライを目で追った。
「ただいま。え? ウルイ、どうかした?」
部屋がパッと明るくなり、ライの心配そうな顔がウルイを覗き込んだ。
近い目線にウルイの心臓がドキッとする。
途端に夢うつつだったウルイの脳が覚醒した。慌てて笑顔を作り、席を立った。
「あ、おかえり、なさい。本日もお勤めお疲れ様でございました」
ササラから習った言葉を出して頭を下げた。間違えていないはず。
だけどライは何の返事もなく、静止したままだ。ウルイの目を覗き込むようにして止まっている。
ウルイは何か失敗したのだろうか。徐々に不安になり、顔がヒクッと強張った。
「ウルイ、無理しなくていい。そんなに固い挨拶はいらないって。ちょっと頑張りすぎているのかな。だいぶ疲れているよね」
困ったように優しく笑うライを見て、母の困った笑顔がウルイの頭をかすめた。
大きな手がウルイの頭を撫でる。その優しい接触に涙が滲みそうになり、慌てて窓の外を見た。
(僕の挨拶、ダメだったんだ。頑張ったところで挨拶もちゃんとできなかったんだ。やっぱりライには、僕なんかがオメガじゃダメなんだ)
そんな思いがウルイに沸き上がった。
「明日は休むから、一緒に過ごそうよ」
「分かった。発情期ってこと?」
オメガとして相手をすれば役に立てると思ったのに、ライがブハっとむせた。急いでライの背中をさすり様子をみた。
「発情期じゃないよ。ウルイとゆっくり過ごしたいから。調子が悪いなら家の中でのんびりしよう」
「え? そのために仕事を休んだのか? ダメだ! そんなことをしたらササラたちに怒られるって!」
「あはは。俺がササラたちに怒られるのか。それは面白いけれど、大丈夫だよ。俺が怒られることなど無いよ。この屋敷の主人だしね。ウルイだってそうだ。俺のオメガなのだから」
ライの言葉がウルイには理解できなかった。
ササラたちは怖い存在だ。怒ると言うより、恨みの様な恐ろしい感情を向けられる。考えだけでウルイの心が沈み込む。
下を向いてため息をつくと、ライが大きな手でウルイの頭を撫でてくる。
「王都に来て毎日学習ばかりで疲れただろ? 俺がなかなか傍にいられなくて悪かったと思っている」
優しいライの手にウルイは身を委ねた。こうして優しい接触をしてきても、ライは発情期以降、性的な接触をしてこない。抱擁止まりだ。
その様子からウルイの存在価値が分かった。
きっと発情期さえ相手をすればいい存在なのだ。
オアシスの働いていた店で男性客たちが言っていた「セフレ」という言葉がウルイの頭に浮かんだ。
セックスをする性欲発散相手がセフレで、恋人や結婚相手には出来ない相手のこと。繋ぎとめるために優しくしておく、と男性たちは言っていた。
今のウルイそのものだと思う。もともと偶然オメガになったのだから、それでいいはずだ。
ただ、そう考えても、優しいライの手がウソだと思いたくなくて悲しくなる。ライだけは信じて良いと思いたい。
目の奥が熱くなり、こみ上げる涙をグッと堪えた。
窓の外を見て心が落ち着くのを待つ。伯爵邸の庭がライトアップされていて美しい。ウルイは歯を食いしばって庭を眺めた。
そんなウルイの頭を、ライが優しく撫でてくれた。
(きっと僕がオメガになったから、その恩恵で、集落のみんなは生活に困らず、幸せに暮らしているはずだ。僕がみんなを救ったんだ。きっと僕が我慢する価値は、あるんだ)
遠いオアシスに思いを馳せてウルイは眠りについた。
今日も遅くまで大変だったんだなぁと思った。帰宅したライに声をかけたかったが、そんな気力はなく、ただライを目で追った。
「ただいま。え? ウルイ、どうかした?」
部屋がパッと明るくなり、ライの心配そうな顔がウルイを覗き込んだ。
近い目線にウルイの心臓がドキッとする。
途端に夢うつつだったウルイの脳が覚醒した。慌てて笑顔を作り、席を立った。
「あ、おかえり、なさい。本日もお勤めお疲れ様でございました」
ササラから習った言葉を出して頭を下げた。間違えていないはず。
だけどライは何の返事もなく、静止したままだ。ウルイの目を覗き込むようにして止まっている。
ウルイは何か失敗したのだろうか。徐々に不安になり、顔がヒクッと強張った。
「ウルイ、無理しなくていい。そんなに固い挨拶はいらないって。ちょっと頑張りすぎているのかな。だいぶ疲れているよね」
困ったように優しく笑うライを見て、母の困った笑顔がウルイの頭をかすめた。
大きな手がウルイの頭を撫でる。その優しい接触に涙が滲みそうになり、慌てて窓の外を見た。
(僕の挨拶、ダメだったんだ。頑張ったところで挨拶もちゃんとできなかったんだ。やっぱりライには、僕なんかがオメガじゃダメなんだ)
そんな思いがウルイに沸き上がった。
「明日は休むから、一緒に過ごそうよ」
「分かった。発情期ってこと?」
オメガとして相手をすれば役に立てると思ったのに、ライがブハっとむせた。急いでライの背中をさすり様子をみた。
「発情期じゃないよ。ウルイとゆっくり過ごしたいから。調子が悪いなら家の中でのんびりしよう」
「え? そのために仕事を休んだのか? ダメだ! そんなことをしたらササラたちに怒られるって!」
「あはは。俺がササラたちに怒られるのか。それは面白いけれど、大丈夫だよ。俺が怒られることなど無いよ。この屋敷の主人だしね。ウルイだってそうだ。俺のオメガなのだから」
ライの言葉がウルイには理解できなかった。
ササラたちは怖い存在だ。怒ると言うより、恨みの様な恐ろしい感情を向けられる。考えだけでウルイの心が沈み込む。
下を向いてため息をつくと、ライが大きな手でウルイの頭を撫でてくる。
「王都に来て毎日学習ばかりで疲れただろ? 俺がなかなか傍にいられなくて悪かったと思っている」
優しいライの手にウルイは身を委ねた。こうして優しい接触をしてきても、ライは発情期以降、性的な接触をしてこない。抱擁止まりだ。
その様子からウルイの存在価値が分かった。
きっと発情期さえ相手をすればいい存在なのだ。
オアシスの働いていた店で男性客たちが言っていた「セフレ」という言葉がウルイの頭に浮かんだ。
セックスをする性欲発散相手がセフレで、恋人や結婚相手には出来ない相手のこと。繋ぎとめるために優しくしておく、と男性たちは言っていた。
今のウルイそのものだと思う。もともと偶然オメガになったのだから、それでいいはずだ。
ただ、そう考えても、優しいライの手がウソだと思いたくなくて悲しくなる。ライだけは信じて良いと思いたい。
目の奥が熱くなり、こみ上げる涙をグッと堪えた。
窓の外を見て心が落ち着くのを待つ。伯爵邸の庭がライトアップされていて美しい。ウルイは歯を食いしばって庭を眺めた。
そんなウルイの頭を、ライが優しく撫でてくれた。
(きっと僕がオメガになったから、その恩恵で、集落のみんなは生活に困らず、幸せに暮らしているはずだ。僕がみんなを救ったんだ。きっと僕が我慢する価値は、あるんだ)
遠いオアシスに思いを馳せてウルイは眠りについた。
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