24 / 80
Ⅳ 王都での生活(前編)
⑤
しおりを挟む
「ウルイ、元気がないね」
夕食後に帰宅したライに声をかけられて、ウルイの心臓がドキッと動く。
「そんなことは、無いよ」
昼間の事がライに知られたら、ササラにどんなに怒られるか分からない。使用人たちの怖い顔がウルイの脳裏に過る。
途端にウルイの身体に汗が流れた。心臓がバクバク動いて手が震えそうになった。
「色々と、ゆっくりでいいから。ササラから聞いたよ。思ったように学習が進んでいないって。でも、それでいいって言ってある。ウルイは俺の傍にいてくれれば良い」
ライの言葉が頭に入って来なかった。それよりも不安が大きくなる。
(どうしよう。ササラは学習が進まないって怒っているのかも。明日は朝一番で謝らなきゃ)
考えると気持ち悪くなった。手が震えた。
「明後日、休みをとるよ。一緒にのんびりしない? ウルイは何かしたいことはある?」
ウルイの手をライが包み込んだ。手を握られて気が付いた。ウルイは手の爪をガジガジ噛んでいた。
(いけない! 貴族は爪を噛むなんて汚いことはしないんだ!)
恐怖で頭から血が引くのが自分で分かった。
またササラに怒られてしまう。ライも呆れたかもしれない。
緊張で呼吸が速くなる。ライを見上げた。謝るべきか分からなくなり、口が震えた。
耳鳴りがして目の前がグラグラ揺れる。心配そうなライの顔が歪んで見えた。
「ぅわっ……」
身体の平衡感覚がおかしくなり、ウルイは小さな悲鳴を上げた。
気が付くとウルイはライに横抱きにされていた。
「大丈夫? ウルイ、倒れそうだったよ。このままベッドに運ぶから大人しくしていて」
ライの全身から優しさが伝わってくる。ウルイを心配してくれているのが分かる。ウルイは逞しい胸に頭を預けた。少しだけ甘えたかった。
ライの匂いに包まれて、緊張の糸がほどけた。それでも身体の芯が薄ら寒くて、必死にライにすり寄った。子供みたいだと思ったが、やめられなかった。
ライは動じることなく、全てを受け止めてくれた。
ベッドに到着すると優しく降ろされた。そのままライは布団の中まで潜り込んできた。
オアシスで早朝水浴びをした時を思い出して、ウルイの頬が緩んだ。
掛け布団に包み込まれると、世界にライとウルイだけになったような錯覚に陥る。
このまま世界が終わればいいのに、と考えてしまう。
「ウルイ、ごめん。慣れない生活を強いてごめんね。頑張ってくれて、ありがとう」
ウルイを抱き留めながら、ライが優しく言葉をかけてくる。
ウルイは目の奥が熱くなった。ジワジワ溢れる涙を止められず、ライの胸に顔を埋めた。
時々漏れてしまう嗚咽が、ライに聞こえていないように祈りながら眠った。
翌日も『教育』という地獄の時間は変わらなかった。それでもウルイは、マナーを習得できるように必死で頑張っている。
ササラから教えてもらえなくなったらウルイが困る。せめてライが恥ずかしい思いをしないようになりたい。
それがウルイにできる精一杯だから。
そんなある日。
夕刻に侍女たちがいなくなり一人の時間になると、こらえていた辛さが決壊して、ウルイの身体が動かなくなった。
椅子に座り窓を見ながら、死んだように過ごした。
息をするのもしんどかった。時間がとても長く感じた。
その日は、夕食がどうしても口に入らなかった。ササラに『残すなど行儀が悪い。これだから無教育は!』と責められても、どうにもならなかった。
不機嫌に下膳していく侍女たちに頭を下げ続けた。
部屋の空気でさえ重く感じた。全てが、苦しかった。
夕食後に帰宅したライに声をかけられて、ウルイの心臓がドキッと動く。
「そんなことは、無いよ」
昼間の事がライに知られたら、ササラにどんなに怒られるか分からない。使用人たちの怖い顔がウルイの脳裏に過る。
途端にウルイの身体に汗が流れた。心臓がバクバク動いて手が震えそうになった。
「色々と、ゆっくりでいいから。ササラから聞いたよ。思ったように学習が進んでいないって。でも、それでいいって言ってある。ウルイは俺の傍にいてくれれば良い」
ライの言葉が頭に入って来なかった。それよりも不安が大きくなる。
(どうしよう。ササラは学習が進まないって怒っているのかも。明日は朝一番で謝らなきゃ)
考えると気持ち悪くなった。手が震えた。
「明後日、休みをとるよ。一緒にのんびりしない? ウルイは何かしたいことはある?」
ウルイの手をライが包み込んだ。手を握られて気が付いた。ウルイは手の爪をガジガジ噛んでいた。
(いけない! 貴族は爪を噛むなんて汚いことはしないんだ!)
恐怖で頭から血が引くのが自分で分かった。
またササラに怒られてしまう。ライも呆れたかもしれない。
緊張で呼吸が速くなる。ライを見上げた。謝るべきか分からなくなり、口が震えた。
耳鳴りがして目の前がグラグラ揺れる。心配そうなライの顔が歪んで見えた。
「ぅわっ……」
身体の平衡感覚がおかしくなり、ウルイは小さな悲鳴を上げた。
気が付くとウルイはライに横抱きにされていた。
「大丈夫? ウルイ、倒れそうだったよ。このままベッドに運ぶから大人しくしていて」
ライの全身から優しさが伝わってくる。ウルイを心配してくれているのが分かる。ウルイは逞しい胸に頭を預けた。少しだけ甘えたかった。
ライの匂いに包まれて、緊張の糸がほどけた。それでも身体の芯が薄ら寒くて、必死にライにすり寄った。子供みたいだと思ったが、やめられなかった。
ライは動じることなく、全てを受け止めてくれた。
ベッドに到着すると優しく降ろされた。そのままライは布団の中まで潜り込んできた。
オアシスで早朝水浴びをした時を思い出して、ウルイの頬が緩んだ。
掛け布団に包み込まれると、世界にライとウルイだけになったような錯覚に陥る。
このまま世界が終わればいいのに、と考えてしまう。
「ウルイ、ごめん。慣れない生活を強いてごめんね。頑張ってくれて、ありがとう」
ウルイを抱き留めながら、ライが優しく言葉をかけてくる。
ウルイは目の奥が熱くなった。ジワジワ溢れる涙を止められず、ライの胸に顔を埋めた。
時々漏れてしまう嗚咽が、ライに聞こえていないように祈りながら眠った。
翌日も『教育』という地獄の時間は変わらなかった。それでもウルイは、マナーを習得できるように必死で頑張っている。
ササラから教えてもらえなくなったらウルイが困る。せめてライが恥ずかしい思いをしないようになりたい。
それがウルイにできる精一杯だから。
そんなある日。
夕刻に侍女たちがいなくなり一人の時間になると、こらえていた辛さが決壊して、ウルイの身体が動かなくなった。
椅子に座り窓を見ながら、死んだように過ごした。
息をするのもしんどかった。時間がとても長く感じた。
その日は、夕食がどうしても口に入らなかった。ササラに『残すなど行儀が悪い。これだから無教育は!』と責められても、どうにもならなかった。
不機嫌に下膳していく侍女たちに頭を下げ続けた。
部屋の空気でさえ重く感じた。全てが、苦しかった。
103
あなたにおすすめの小説
運命を知らないアルファ
riiko
BL
オメガ嫌いの西条司は女性アルファとしか付き合わない、そんな中やたらと気になるオメガを見つけた。
運命やフェロモンという不確かなモノではなく、初めて本気で惹かれた唯一のオメガにはとんでもない秘密があった!?
オメガ嫌い御曹司α×ベータとして育った平凡Ω
オメガ主人公がお好きな方は『運命を知っているオメガ』をお読みくださいませ。こちらはその物語のアルファ側のお話です。このお話だけでも物語は完結しますが、両方読まれると答え合わせが楽しめます。
性描写が入るシーンは
※マークをタイトルにつけます、ご注意くださいませ。
コメント欄はそのまま載せておりますので、ネタバレ大丈夫な方のみご覧くださいませ。
物語、お楽しみいただけたら幸いです。
大嫌いなアルファと結婚しまして
リミル
BL
面倒見のいい隠れSなα×アルファから転化したΩ
久世優生と神崎基城はアルファの幼馴染みで、互いのスペックを競い合うライバル同士でもあった。
パーティーの最中、基城は原因不明の体調不良に襲われ、第二性がアルファからオメガに転化したと告げられる。
オメガになったことで、優生に馬鹿にされるかと思えば、何故かプロポーズを申し込まれてしまい──!?
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
2025.4.28 ムーンライトノベルに投稿しました。
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
【完結済】「理想の恋人 〜タイムリープしたので、全財産貢いだダメ猫と別れます
かすがみずほ@理想の結婚二巻発売中
BL
30歳の警察官、オメガの貴弘(たかひろ
)は、猫獣人の不実な恋人・アルファの猫井司(ねこいつかさ)に裏切られたショックで家出をした矢先、埼玉山中の交通事故で事故死してしまう。
ところが、気付けば猫井と出会う前に時間が戻っていた。
今度の人生では猫井に振り回されるのをやめようと決心するが……。
本編「理想の結婚 俺、犬とお見合いします」のスピンオフです。
全く話が繋がっていないので、単体で問題なく読めます。
(本編のコミカライズにつきましては、日頃より有難うございます)
【完結】完璧アルファな推し本人に、推し語りするハメになったオレの顛末
竜也りく
BL
物腰柔らか、王子様のように麗しい顔、細身ながら鍛えられた身体、しかし誰にも靡かないアルファの中のアルファ。
巷のお嬢さん方を骨抜きにしているヴァッサレア公爵家の次男アルロード様にオレもまたメロメロだった。
時に男友達に、時にお嬢さん方に混ざって、アルロード様の素晴らしさを存分に語っていたら、なんとある日ご本人に聞かれてしまった。
しかも「私はそういう人の心の機微が分からなくて困っているんだ。これからも君の話を聞かせて欲しい」と頼まれる始末。
どうやら自分の事を言われているとはこれっぽっちも思っていないらしい。
そんなこんなで推し本人に熱い推し語りをする羽目になって半年、しかしオレも末端とはいえど貴族の一員。そろそろ結婚、という話もでるわけで見合いをするんだと話のついでに言ったところ……
★『小説家になろう』さんでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる