発情期アルファ貴族にオメガの導きをどうぞ

小池 月

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Ⅳ 王都での生活(前編)

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「ウルイ、元気がないね」
 夕食後に帰宅したライに声をかけられて、ウルイの心臓がドキッと動く。

「そんなことは、無いよ」

 昼間の事がライに知られたら、ササラにどんなに怒られるか分からない。使用人たちの怖い顔がウルイの脳裏に過る。
 途端にウルイの身体に汗が流れた。心臓がバクバク動いて手が震えそうになった。

「色々と、ゆっくりでいいから。ササラから聞いたよ。思ったように学習が進んでいないって。でも、それでいいって言ってある。ウルイは俺の傍にいてくれれば良い」

 ライの言葉が頭に入って来なかった。それよりも不安が大きくなる。

(どうしよう。ササラは学習が進まないって怒っているのかも。明日は朝一番で謝らなきゃ)

 考えると気持ち悪くなった。手が震えた。

「明後日、休みをとるよ。一緒にのんびりしない? ウルイは何かしたいことはある?」

 ウルイの手をライが包み込んだ。手を握られて気が付いた。ウルイは手の爪をガジガジ噛んでいた。

(いけない! 貴族は爪を噛むなんて汚いことはしないんだ!)

 恐怖で頭から血が引くのが自分で分かった。

 またササラに怒られてしまう。ライも呆れたかもしれない。

 緊張で呼吸が速くなる。ライを見上げた。謝るべきか分からなくなり、口が震えた。
 耳鳴りがして目の前がグラグラ揺れる。心配そうなライの顔が歪んで見えた。

「ぅわっ……」
 身体の平衡感覚がおかしくなり、ウルイは小さな悲鳴を上げた。

 気が付くとウルイはライに横抱きにされていた。

「大丈夫? ウルイ、倒れそうだったよ。このままベッドに運ぶから大人しくしていて」

 ライの全身から優しさが伝わってくる。ウルイを心配してくれているのが分かる。ウルイは逞しい胸に頭を預けた。少しだけ甘えたかった。

 ライの匂いに包まれて、緊張の糸がほどけた。それでも身体の芯が薄ら寒くて、必死にライにすり寄った。子供みたいだと思ったが、やめられなかった。

 ライは動じることなく、全てを受け止めてくれた。

 ベッドに到着すると優しく降ろされた。そのままライは布団の中まで潜り込んできた。

 オアシスで早朝水浴びをした時を思い出して、ウルイの頬が緩んだ。
 掛け布団に包み込まれると、世界にライとウルイだけになったような錯覚に陥る。

 このまま世界が終わればいいのに、と考えてしまう。

「ウルイ、ごめん。慣れない生活を強いてごめんね。頑張ってくれて、ありがとう」

 ウルイを抱き留めながら、ライが優しく言葉をかけてくる。

 ウルイは目の奥が熱くなった。ジワジワ溢れる涙を止められず、ライの胸に顔を埋めた。

 時々漏れてしまう嗚咽が、ライに聞こえていないように祈りながら眠った。


 翌日も『教育』という地獄の時間は変わらなかった。それでもウルイは、マナーを習得できるように必死で頑張っている。

 ササラから教えてもらえなくなったらウルイが困る。せめてライが恥ずかしい思いをしないようになりたい。

 それがウルイにできる精一杯だから。

 そんなある日。
 夕刻に侍女たちがいなくなり一人の時間になると、こらえていた辛さが決壊して、ウルイの身体が動かなくなった。

 椅子に座り窓を見ながら、死んだように過ごした。

 息をするのもしんどかった。時間がとても長く感じた。

 その日は、夕食がどうしても口に入らなかった。ササラに『残すなど行儀が悪い。これだから無教育は!』と責められても、どうにもならなかった。

 不機嫌に下膳していく侍女たちに頭を下げ続けた。

 部屋の空気でさえ重く感じた。全てが、苦しかった。
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