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Ⅴ 王都での生活(後編)
⑦
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食べたかったステーキ串とチーズのせフランスパン、野菜スープを買って噴水のある公園に向かった。
ウルイは話の続きを聞きたかった。
「ほらウルイ、カップルばかりだね。俺たちも周りから見たら恋人だ」
空いているベンチに座り公園を眺める。ライの言う通り、芝生の上やベンチには恋人ばかりだ。
公園には水の流れが小川のように作られていて、植えられた木々が豊かな自然を思わる。アドレア国にはめずらしい森林や山をイメージしているようだ。砂漠に住んでいたウルイからしたら贅沢な場所だ。
「なぁ、話の続きは?」
「まず食べよう。ほら、ステーキ串」
ウルイの口に肉の塊が入ってくる。口に食べ物が入った条件反射で串に刺さった肉を一つ咀嚼する。ガーリックの味付けが最高だ。
「うっま! 憧れのステーキ串だ!」
思わず声が出ていた。そんなウルイの様子に「あはは」と声を出してライが笑う。
ライから串を受け取り、ベンチに食べ物を並べる。ウルイはモグモグ食べながらライの様子を見ていた。
ライは上品に食べ進めながら、時折川の流れに見入っている。
「チーズパンも焦げ具合が最高だね」と言いながら、半分以上食べた時にライが話し出した。
「さっきの続きだけどね、十六歳で発情期が来なくて、段々俺の周りが冷たい目を向けるようになった。『アルファだと期待したのに』『期待はずれだ』そんな声も露骨に聞こえるようになった。実際、アルファだと思われていても普通の人だったケースもあるらしくて、俺は一部の人からは『偽アルファ』と笑われるようになった」
大きなため息をつくライに、かける言葉が見つからなかった。
ライは二十二歳だ。それまでの数年間を苦しく過ごしていたと思うと、ウルイの心が悲しみに軋んだ。
「アルファなんて勝手に決めつけたのは周りのくせにね。一生懸命期待に応えようと頑張ったのにって思うと、なんだか心が荒れてしまって。苦しい胸の内をどうにもできずに、時々王都から抜け出した。近隣のオアシス都市に一人旅するのが楽しみになった。家族には小言を言われたし、注意も受けた。でも、全部どうでも良くなってしまっていた。俺の心を見せるものか、と頑なになった。周囲に心の壁を作るようになったのは、そんな経緯があったからだよ」
ライが一呼吸おいてウルイを見てくる。その顔は穏やかな顔だ。
「本心に踏み込ませないように、周囲と壁を作るために、俺は穏やかな仮面をつけるようにした。顔では笑っていても、心で怒っている事が多かったよ。けれど、その表情の事に気が付いたのはウルイだけだ」
話を止めて、ライの手がウルイの頬を撫でる。
「ステーキソースがついているよ。動かないで、拭くから」
「いや、自分でやるって」
真剣な話をしていたのに話を中断させてしまった。自分の間抜けさが恥ずかしい。
ウルイは顔を袖で拭こうとしたがライに止められる。もう一度顔に手が触れる。
ライの方に顔を向けられて、ハンカチでそっと頬を拭われた。自分の無作法さにウルイは肩を落とした。
「汚くて、ごめん」
「え? これって恋人のご褒美じゃないの?」
ライの言っている意味が分からず、ウルイは眉を顰める。ご褒美ってなんだろう。
「いや、こっちこそゴメン。何でもない。あはは」
急に笑い出したライに首を傾げるしか出来ない。
「ウルイと出会って、苦境に負けずに真っすぐ立つウルイの姿に感動した。閉ざしていた俺の心が芽吹いたような感覚がした。他の人々には仮面の顔を見せればいいが、ウルイには本当の心を見せたいと思う」
優しく笑うライが輝いて見える。ウルイの存在がライの助けになっているかのように聞こえた。
発情期以外でも役に立っているかもしれないと思うと嬉しくなった。
「そっか。僕ができる事なら何でもするよ。ライは僕の家族を救ってくれたし」
「ウルイは俺の傍に居てくれればいい。毎日ウルイの匂いを嗅ぎたいし、二人で笑い合いたい。それだけで癒される」
ライの顔が近づいてくる。炎を秘めた瞳から逃れることができず、重なる唇の感覚に身を委ねた。
ウルイは話の続きを聞きたかった。
「ほらウルイ、カップルばかりだね。俺たちも周りから見たら恋人だ」
空いているベンチに座り公園を眺める。ライの言う通り、芝生の上やベンチには恋人ばかりだ。
公園には水の流れが小川のように作られていて、植えられた木々が豊かな自然を思わる。アドレア国にはめずらしい森林や山をイメージしているようだ。砂漠に住んでいたウルイからしたら贅沢な場所だ。
「なぁ、話の続きは?」
「まず食べよう。ほら、ステーキ串」
ウルイの口に肉の塊が入ってくる。口に食べ物が入った条件反射で串に刺さった肉を一つ咀嚼する。ガーリックの味付けが最高だ。
「うっま! 憧れのステーキ串だ!」
思わず声が出ていた。そんなウルイの様子に「あはは」と声を出してライが笑う。
ライから串を受け取り、ベンチに食べ物を並べる。ウルイはモグモグ食べながらライの様子を見ていた。
ライは上品に食べ進めながら、時折川の流れに見入っている。
「チーズパンも焦げ具合が最高だね」と言いながら、半分以上食べた時にライが話し出した。
「さっきの続きだけどね、十六歳で発情期が来なくて、段々俺の周りが冷たい目を向けるようになった。『アルファだと期待したのに』『期待はずれだ』そんな声も露骨に聞こえるようになった。実際、アルファだと思われていても普通の人だったケースもあるらしくて、俺は一部の人からは『偽アルファ』と笑われるようになった」
大きなため息をつくライに、かける言葉が見つからなかった。
ライは二十二歳だ。それまでの数年間を苦しく過ごしていたと思うと、ウルイの心が悲しみに軋んだ。
「アルファなんて勝手に決めつけたのは周りのくせにね。一生懸命期待に応えようと頑張ったのにって思うと、なんだか心が荒れてしまって。苦しい胸の内をどうにもできずに、時々王都から抜け出した。近隣のオアシス都市に一人旅するのが楽しみになった。家族には小言を言われたし、注意も受けた。でも、全部どうでも良くなってしまっていた。俺の心を見せるものか、と頑なになった。周囲に心の壁を作るようになったのは、そんな経緯があったからだよ」
ライが一呼吸おいてウルイを見てくる。その顔は穏やかな顔だ。
「本心に踏み込ませないように、周囲と壁を作るために、俺は穏やかな仮面をつけるようにした。顔では笑っていても、心で怒っている事が多かったよ。けれど、その表情の事に気が付いたのはウルイだけだ」
話を止めて、ライの手がウルイの頬を撫でる。
「ステーキソースがついているよ。動かないで、拭くから」
「いや、自分でやるって」
真剣な話をしていたのに話を中断させてしまった。自分の間抜けさが恥ずかしい。
ウルイは顔を袖で拭こうとしたがライに止められる。もう一度顔に手が触れる。
ライの方に顔を向けられて、ハンカチでそっと頬を拭われた。自分の無作法さにウルイは肩を落とした。
「汚くて、ごめん」
「え? これって恋人のご褒美じゃないの?」
ライの言っている意味が分からず、ウルイは眉を顰める。ご褒美ってなんだろう。
「いや、こっちこそゴメン。何でもない。あはは」
急に笑い出したライに首を傾げるしか出来ない。
「ウルイと出会って、苦境に負けずに真っすぐ立つウルイの姿に感動した。閉ざしていた俺の心が芽吹いたような感覚がした。他の人々には仮面の顔を見せればいいが、ウルイには本当の心を見せたいと思う」
優しく笑うライが輝いて見える。ウルイの存在がライの助けになっているかのように聞こえた。
発情期以外でも役に立っているかもしれないと思うと嬉しくなった。
「そっか。僕ができる事なら何でもするよ。ライは僕の家族を救ってくれたし」
「ウルイは俺の傍に居てくれればいい。毎日ウルイの匂いを嗅ぎたいし、二人で笑い合いたい。それだけで癒される」
ライの顔が近づいてくる。炎を秘めた瞳から逃れることができず、重なる唇の感覚に身を委ねた。
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