発情期アルファ貴族にオメガの導きをどうぞ

小池 月

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Ⅴ 王都での生活(後編)

⑨※

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 翌日もササラたちの態度は変化無かった。
 けれど、気持ちが落ち込んだときに黒真珠を触ると、ウルイの心が沈み込まずにすむような、不思議な感覚がした。

 時々ライが休みをとってくれて王都に出かける。ウルイにとっては、唯一の安息の時間になった。

 ササラたちのことを、ライに相談したほうがいいのか分からずに時間が経過した。


 そんな日々の中で急にそれがきた。アルファの発情期だ。初めての発情から三ヶ月だった。

 朝起きたときにライから良い匂いがする、と思っていた。その匂いを嗅いでから、ウルイはソワソワして身体が熱っぽくなった。

 風邪でもひいたかな、と思ったが、体調についてササラたちには言えなかった。

 その日の日中。ライが屈強な人にかかえられるように帰宅した。

 何事かと驚いてライを見た。その瞬間にウルイの全身を痺れが駆け抜けた。

 呼吸が荒く苦しそうなライから芳醇な匂いがして、ウルイの心臓が異常な音を立てた。ライに視線が釘付けになった。

(ライが欲しい)

 そんな欲望がウルイの全身を駆け抜けた。

 うなだれていたライが、目を見開いてウルイを見た。

 目が合った瞬間に、はじけるように抱きしめられた。触れあった瞬間に、ウルイから甘い匂いが溢れた。

 ウルイは自分が熟した果実にでもなったような気がした。

(あぁ、僕はライに食べられたい。僕の全てをライにあげたい)

 そんな思いがウルイの全身を駆け巡った。

 ウルイに襲いかかる勢いで食らいついてくるライを、優しく抱き返した。まるで猛獣のようなライの瞳をのぞき込む。

 ウルイと目が合うとライの動きが止まり、一瞬の静寂が訪れる。

「大丈夫だよ。ライ。僕の全てをあげるから。全部、あげる」

 そう伝えてライの口に優しくキスをした。初めてウルイからしたキスだった。

 静止したままのライの瞳から、ボロボロと涙が落ちた。

「あ、あぁ、ゴメン。俺はまたウルイに酷いことを……」

「いいよ。僕は、このためにいるオメガだろ? 全部、僕が受け止めるから」

 荒い息を吐きながら全身を震わせるライに、もう一度口づけをした。泣きながらライがキスに反応する。

 徐々にキスが深くなり、ウルイが押し倒された。皮膚から、口からライの熱い何かが流れ込んでくる。

(まだ、ライがこらえている。まだ、我慢している)

 何故か分からないけれど、ウルイにはそう思えた。

「ライ、我慢しなくて良い。全部、手放して良いから」

 ウルイの言葉にライが横に首を振る。

「ダメだ。こんなに荒れ狂うものをウルイにぶつけたら、ウルイが死んでしまう。ウルイが、苦しむ。もう、辛い思いをさせたく無いんだ」

 苦しんでいるのはライなのに、ウルイを気遣う優しさに涙が滲みそうになる。

「僕を信じて良いよ」
 ライの耳にそっと声を流し込んだ。ライの心に届くように願った。

 ウルイはオメガなのだ。ライの役に立たなければいけない。ライが抱えている苦しみを解放できるように願った。

(ライは幸せに笑っているほうが、いい。ライこそ、幸せであればいい)

 そう思いながら熱い嵐に飲み込まれた。
 
 そこから先の、限界を超えた快感をウルイは覚えていられなかった。



「ウルイ、大丈夫?」
 優しくウルイの頭を撫でる手に「ん~~」と声を上げて返事をする。

「生きている?」
 変な聞き方をされて、目を開けないままでウルイは軽く笑う。

「生きているって」
 そう答えるが、声が枯れているし、全身が軋んでいる。手足を動かすことも難しい。

「何だろう。初めての時より、辛い」
 ウルイの口から正直な感想が漏れ出てしまった。すぐにライの雰囲気が張り詰めたものに変わった。

 しまった、と思いウルイが目を開けると、悲しげな顔が目に入る。

「いや、別に大丈夫だって。僕はオメガなんだから」

 そう伝えると、ライが愛おしそうにウルイの頭を撫でた。ライの瞳はいつもの優しい目だ。その瞳を見て発情期は終わったのだと分かった。

「そっか。ありがとう。起きられるなら果実水でも飲む? 蜂蜜入りにしてもらおう」

「飲みたい。ライ、起こしてもらえる? ちょっと、起きられない」
「もちろん。ウルイは息だけしていればいい。あとは俺が全部する」

 ライの言葉に、初めての発情期後の甘やかしぶりを思い出して、ウルイは軽く微笑んだ。

「じゃ、お願いするよ」

 発情期明けの今はササラたちと過ごすのは気が重い。せめて数日、体力が回復するまでライと居たいと思った。

 ライにベッドから起こしてもらい、膝に抱きかかえられて、優しい甘さの果実水を飲ませてもらった。

 身体の中を甘い水が流れる感覚が心地よかった。こんな幸福感に、いつまでも酔っていたいと思える時間だった。
 
 ライの発情期期間が五日、その後の甘やかし期間が二日あり、計七日で通常の生活に戻った。

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