発情期アルファ貴族にオメガの導きをどうぞ

小池 月

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Ⅵ オアシスの変化

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「はい、宿まで来たよ」
 ライがスピードを緩めた。けれどウルイは何が起きたのか理解できず、ポカンとライを見つめた。それ以外の反応が出来なかった。

「とりあえず部屋まで戻ろう」
 放心状態のウルイは横抱きのまま部屋まで運ばれた。足が震えてしまい自分で歩くとは言えなくてライに全てを任せた。

「ウルイ、大丈夫?」
 部屋のソファーに降ろされた。数回呼吸をして、水色キッチンの前で感じた苦しさが無くなっている事に安堵した。

「うん。大丈夫。だけど、びっくりした。あんなに速く走れるんだな」
「まぁね。身体的にもアルファって特殊だと思うよ」

「僕を抱えていたのにあの速さかぁ。アルファのスゴさを実感した気がする」

 思い出すと笑いが込み上げた。笑っているような状況ではないのに、色々な事に疲れてしまって沸々と笑いが込み上げた。

「あは、あはは。もう、受け入れられない事ばかりだぁ。ライはすっごい速いし、父さんも母さんも、おかしくなっているし、み、水色キッチンだって……」

 話すうちに悲しさが決壊した。

「う、うわ~~ん」
 ボロボロ流れる涙とともに大声を上げて泣いた。

「何でだよ! 父さんも母さんもバカだ! 僕は皆が穏やかに暮らしてくれていると思っていたんだ! こんなの望んでいない!」

 込み上げる激情のまま、わんわん泣くウルイをライが包み込んだ。

「ウルイ、大丈夫。大丈夫だから。ウルイは何も悪くない」

 そう言うライの胸をドンドン叩いて悲鳴を上げるように泣いた。こんな風に泣き叫ぶのは久しぶりだった。

 ライは「ウルイのせいじゃない」「ごめんね」と優しい言葉をかけ続けてくれた。


 陽が落ちてからウルイ一家の住む邸宅に訪問した。
 泣いてしまったし、日程を変えようかとライに相談されたが今日にした。どうしても父と母に現状のことを聞きたかった。

 こんなことをして、どう思っているのか確かめたかった。
 父や集落の皆は助け合う心を持っている。貧しくても手を取り合って生きていたのだ。人に嫌悪されるような生き方は、本当はしたくないはずだ。

 何が起きたのか、直接聞かなくてはいけない。だってウルイは諸悪の源のような扱いを受けているのだから。

 一番街の中心にある三階建ての新しい邸に到着した。高い鉄柵で周囲を囲ってあり、まるでそこだけ周囲と切り離されているようだ。ここがウルイの家族が住んでいる邸だ。

「ウルイ、行こう」
 門の手前で足を止めたウルイにライから声が掛けられた。コクリと頷くとライにエスコートされる。肩に添えられた手が労わるようにウルイを支えてくれる。

 邸宅の玄関には使用人と思われる男性が出迎えてくれた。

「いらっしゃいませ」
 淡々として歓迎しているとは思えない態度だった。他にも使用人が数名いた。お辞儀はしてくれるがイヤイヤ仕事をしている感が滲み出ている。

 そのまま案内されてディナーの部屋に着いた。部屋を開けるとテーブルにはすでにウルイの家族と集落の皆がそろっていた。

 ウルイの父の後ろにはオアシスの副長が立っていた。

「あぁ、ウルイ! アルファ様! ようこそ我が家へ。どうぞ、どうぞお掛けください」
 大げさな歓迎の態度を示して父が着座をすすめる。だけどウルイには分かってしまう。
 ウルイの家族は恥ずかしいほどの無礼行為をしている。

 この中で身分が一番高いのはライだ。そのライより先に着座していては失礼だ。歓迎をするなら挨拶でライより頭を低くして敬意を示さなければいけない。

 すると父の後ろに居る副長がひざを折りライより頭を低くして礼をした。

 着座している父たちには見えない場所でライに敬意を示した。
 ライが目配せと手の仕草で副長に返事をして席に着いた。
 その流れに全く気が付いていないウルイの家族が恥ずかしくてウルイは下を向いた。

(何やっているんだよ! 父さんたちは踏ん反り返っているだけか!)
 伯爵家であれだけ苦労して教育を学んだ自分の半年を思うと怒りが込み上げてきた。
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