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Ⅵ オアシスの変化
⑥
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「伯爵様、本当にありがとうございます。あなた様のおかげで、我々は今やこのオアシスの長になり、全ての力を得ています。ほら、このように副長を執事として傍に置く事さえできるのです。我々一族がオアシスの全てを支配しているのです!」
嬉しそうに自慢話を繰り広げる父に嫌悪感が沸き上がった。
無表情に料理を運ぶ使用人と、怪訝な顔の副長が目に映る。父にはこの人たちの様子が見えていないのだろうか。
ウルイは目の前に並ぶ料理を睨んで、堪えきれずに口を開いた。
「父さんは何にも思わないのかよ! こんな偉そうにふるまって、オアシスの人を苦しめて平気なの? 今日、水色キッチンに行ったよ。店が無くなっていた! 貧しい僕たちに優しくしてくれていた店だったんだ! 父さんたちのせいだ。こんなことして心が痛くないのかよ!」
興奮で一気に話し切った。怒りと緊張で息が上がっていた。興奮で腕が震えた。隣の心配そうなライの顔が視界に入った。
「なんだ、ウルイ。あんな店より良い腕の料理人を呼ぶからいいじゃないか。父さんはこの数か月で旨い料理を沢山知ったぞ。そうだ、この前は……」
「そういう事じゃない! 周りを見ろって言ってるんだ! 何の努力もせずに立場だけ得て、権力かざして、恥ずかしいことするなよ!」
父の言葉を遮るようにウルイは声を張り上げた。ウルイはこんなに怒ったことは、これまで無かった。
目の前がグラグラ揺れて、頭の血管が一本切れてしまったかと思うほどの興奮だった。心臓の音が耳元で聞こえた。
「何だと! ウルイ! お前は親を侮辱するのか!」
顔を真っ赤にした父が勢いよく椅子から立ち上がった。その勢いのままにウルイの方に足を向けた。
その瞬間、バンっとライがテーブルを叩いた。大きな音が室内に響き、テーブルの上の食器はガチャンと音を立てた。
父が驚いて静止した。座っているライから怒りのオーラが溢れている。その圧に全員が動きを止めて、ライに注目した。
「俺は、あなた方の集落を一度見ている。小さな畑に、手作りの鉄柵。助け合い、生き抜くための懸命さが美しいと思った。その中で育ったからウルイが真っすぐで我慢強い子になったのだと思えた。だが、今のあなた方には、ウルイの家族を名乗って欲しくないと思ってしまう。王都で懸命にマナー教育を受けるウルイは、一言も辞めたいと言わず、愚痴をこぼさず努力してくれた。そのウルイのためにもあなた方に惜しみない支援をしたつもりだ。今一度、あなた方の生き方を考えるべきだ」
これまでに聞いたことのない凛としたライの声だった。いつもの穏やかなライの顔が厳しい顔になっている。
ウルイでさえ怖いと感じた。ウルイ以外の人はきっと畏怖の感情を抱いているだろう。
「は、はいぃ~~」
父が変な返事をして、ヘタリとその場に座り込んだ。
「お父さん!」
心配して妹と母が駆け寄った。ウルイも行こうとしたが、ライに腕を掴まれた。
「今日は、宿まで帰ろう」
先ほどまでの厳しい雰囲気は消え去り、ライが優しい顔をウルイに向けた。
父を見れば皆が駆け寄って心配をしている。今は皆に任せた方がいいと思った。ウルイはライに向けてコクリと頷いた。
視線を感じてウルイが振り向けば、父の傍に控えていた副長がウルイとライを見つめていた。
その視線に温かみが感じられて、ウルイの心が少しだけホワッとした。
玄関まで見送りをしてくれた副長に何と声をかけて良いのか分からず、ウルイは下を向いて歩いた。
「また伺う。あなたは望んでここに居るのか?」
ライが副長に質問した。
「よく、気付かれました。この家の人は、使用人を次々クビにしては雇い、無理難題を言いつけて苦しめます。皆が疲弊しています。それならば私が引き受けようと決意した次第です」
頭を下げて副長が応えた。この人は優しさと正義感のある人だ。ウルイの家族にはウルイでさえ嫌気がさしたのに、それを一手に引き受けてくれている。
「そうか。苦労をかける。感謝する」
ライが手短に感謝の意を伝えた。
「もったいないお言葉です」
ニコリと笑った初老の副長の顔は、本来そんな顔なのだろうと思えるような優しい顔だった。
ウルイは悲しくなった。この人を苦しめているのはウルイ達だ。
「ごめん、なさい」
小さく謝った。何に対して謝っているのか分からないけれど、謝るべきだと思えた。
謝罪の言葉を口にすると、胸のつかえが取れたように涙が溢れた。
副長は困ったようにニコリと微笑んでくれた。
嬉しそうに自慢話を繰り広げる父に嫌悪感が沸き上がった。
無表情に料理を運ぶ使用人と、怪訝な顔の副長が目に映る。父にはこの人たちの様子が見えていないのだろうか。
ウルイは目の前に並ぶ料理を睨んで、堪えきれずに口を開いた。
「父さんは何にも思わないのかよ! こんな偉そうにふるまって、オアシスの人を苦しめて平気なの? 今日、水色キッチンに行ったよ。店が無くなっていた! 貧しい僕たちに優しくしてくれていた店だったんだ! 父さんたちのせいだ。こんなことして心が痛くないのかよ!」
興奮で一気に話し切った。怒りと緊張で息が上がっていた。興奮で腕が震えた。隣の心配そうなライの顔が視界に入った。
「なんだ、ウルイ。あんな店より良い腕の料理人を呼ぶからいいじゃないか。父さんはこの数か月で旨い料理を沢山知ったぞ。そうだ、この前は……」
「そういう事じゃない! 周りを見ろって言ってるんだ! 何の努力もせずに立場だけ得て、権力かざして、恥ずかしいことするなよ!」
父の言葉を遮るようにウルイは声を張り上げた。ウルイはこんなに怒ったことは、これまで無かった。
目の前がグラグラ揺れて、頭の血管が一本切れてしまったかと思うほどの興奮だった。心臓の音が耳元で聞こえた。
「何だと! ウルイ! お前は親を侮辱するのか!」
顔を真っ赤にした父が勢いよく椅子から立ち上がった。その勢いのままにウルイの方に足を向けた。
その瞬間、バンっとライがテーブルを叩いた。大きな音が室内に響き、テーブルの上の食器はガチャンと音を立てた。
父が驚いて静止した。座っているライから怒りのオーラが溢れている。その圧に全員が動きを止めて、ライに注目した。
「俺は、あなた方の集落を一度見ている。小さな畑に、手作りの鉄柵。助け合い、生き抜くための懸命さが美しいと思った。その中で育ったからウルイが真っすぐで我慢強い子になったのだと思えた。だが、今のあなた方には、ウルイの家族を名乗って欲しくないと思ってしまう。王都で懸命にマナー教育を受けるウルイは、一言も辞めたいと言わず、愚痴をこぼさず努力してくれた。そのウルイのためにもあなた方に惜しみない支援をしたつもりだ。今一度、あなた方の生き方を考えるべきだ」
これまでに聞いたことのない凛としたライの声だった。いつもの穏やかなライの顔が厳しい顔になっている。
ウルイでさえ怖いと感じた。ウルイ以外の人はきっと畏怖の感情を抱いているだろう。
「は、はいぃ~~」
父が変な返事をして、ヘタリとその場に座り込んだ。
「お父さん!」
心配して妹と母が駆け寄った。ウルイも行こうとしたが、ライに腕を掴まれた。
「今日は、宿まで帰ろう」
先ほどまでの厳しい雰囲気は消え去り、ライが優しい顔をウルイに向けた。
父を見れば皆が駆け寄って心配をしている。今は皆に任せた方がいいと思った。ウルイはライに向けてコクリと頷いた。
視線を感じてウルイが振り向けば、父の傍に控えていた副長がウルイとライを見つめていた。
その視線に温かみが感じられて、ウルイの心が少しだけホワッとした。
玄関まで見送りをしてくれた副長に何と声をかけて良いのか分からず、ウルイは下を向いて歩いた。
「また伺う。あなたは望んでここに居るのか?」
ライが副長に質問した。
「よく、気付かれました。この家の人は、使用人を次々クビにしては雇い、無理難題を言いつけて苦しめます。皆が疲弊しています。それならば私が引き受けようと決意した次第です」
頭を下げて副長が応えた。この人は優しさと正義感のある人だ。ウルイの家族にはウルイでさえ嫌気がさしたのに、それを一手に引き受けてくれている。
「そうか。苦労をかける。感謝する」
ライが手短に感謝の意を伝えた。
「もったいないお言葉です」
ニコリと笑った初老の副長の顔は、本来そんな顔なのだろうと思えるような優しい顔だった。
ウルイは悲しくなった。この人を苦しめているのはウルイ達だ。
「ごめん、なさい」
小さく謝った。何に対して謝っているのか分からないけれど、謝るべきだと思えた。
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副長は困ったようにニコリと微笑んでくれた。
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