分身鳥の恋番

小池 月

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Ⅰ章「分身鳥の恋番」

side:小坂涼④

 退院の日。寮の前に車で横付けにされる。ドアを開けて降車しようとして、ぎくりとした。

寮の入り口に、藤原君が、いる。

怖くて、動けない。はっとして、すぐに僕の鳥を右手の中に隠す。手の中の温かい存在を、守らなくては。ドクドク鳴る心臓と、身体の震え。冷汗が流れる。

「歩ける?」
思ったより優しい声。低い、綺麗な声。

いつの間にか車の近くに藤原君が、来ている。どうして? 怖くて返事が出来ない。手の中の小鳥が、震えている。

そうだ、僕が守らなきゃ。

「ち、近寄らない、で」
顔を見ず背中を丸めて、必死で一言を言う。大型に意見することに、心が怖いと悲鳴を上げる。声が震えた。

「……わかった。ごめんね」
すっと離れて、寮に入っていく姿を目で追った。

後姿を見て、肩にオウギワシが居ないことに気が付いた。通常、一心同体で離れない分身鳥。アメリカで育つと少し感覚が違うのかな、と考えた。

それより「同じ寮なのか」と気持ちがぐっと落ち込んだ。手の中から出た僕の鳥が肩によじ登ろうとする。それを支える。大丈夫だよ。僕が守るからね。


 久しぶりの寮に入る。玄関の二重自動ドアを通り、足早に二階自室に急ぐ。

どこかに藤原君がいたら、怖い。

左腕は自由が利かず、ぶつけてケガするのを防ぐため三角巾か腕サポーターで首から吊っている。僕の鳥には右肩に乗るように声をかけている。とっさの時に左手の使えない怖さを何度か味わっているからだ。

二階自室につき、ほっと一息つく。しばらく離れていたから自分の部屋に安心する。
「窓、開けようか」
肩の小鳥に話しかけて空気を入れ替える。

僕の部屋は八畳一人部屋。部屋にユニットトイレバスがついている。勉強机・ベッド・衣類タンス。この特別寮は全室個室。四階建ての建物で、他の寮からしたらとても小さい。全二十室。全ての部屋が指紋認証のオートロック。ピアスの個体番号も登録されているらしい。

今は、多分僕と藤原君しか入寮していない。

各階にそれぞれ共有トイレや洗面・洗濯場・乾燥機・テレビやゲームのある談話室がある。テレビとゲームは二十時まで使用できる。

一階は食堂と大浴場・ミーティング室など共用スペース。二階から四階が居室。一階には警備室がある。今は二階と一階部分しか使用されていない。

これから、この建物で藤原君と一緒か。楽しみだった友達との寮生活。夢に終わった。この先卒業まで、恐怖の日々が始まる。

ため息をつく。

 夕食の時間。十八時から十九時の間に食べなければいけない。藤原君と重なりたくない。

いつ、行くのかな。きっと大型だから、お腹すくよね。食事は早めに食べたいはず。僕はギリギリの十八時四十五分に食堂に行こう。食べないと体調が悪いのか、と職員の人にチェックされる。パッと行って、さっと戻る。そう決めた。

十八時四十分。部屋のドアを開けて、そっと様子を見る。廊下は静か。足早に部屋を出る。

階段を慎重に降りたところに、藤原君が、いた。

目が合う。驚いて、数歩下がる。階段にぶつかり後ろにバランスを崩す。しまった! 転ぶのはマズイ。左手が防御に出てくれないためケガをする可能性が高い。せめて、僕の鳥は守らないと! 

驚いている分身鳥を胸に抱き留める。もうお前にケガは負わせたくない。衝撃に備えて身体を固くする。

けど、僕は転ばなかった。

大きな身体に抱き留められて、そっと地面に降ろされる。少し離れた距離にいたのに、一瞬で駆け寄ったのか。身体能力の高さに驚く。

そりゃそうか。教室でも、僕のとこまで一瞬だったよな。今、助けてもらったことよりも、憎しみがこみ上げる。

「……どいて」

どうしてもお礼を言う気になれず、僕の鳥を抱いたまま距離をとる。

今度は、肩にオウギワシが、いる。

僕の鳥を、シャツの首元から中に入れる。顔を見ずに、食堂に急ぐ。お腹に温かい存在を感じ、隠れていると良いよ、と小さく声をかける。モゾモゾくすぐったくなるけど、襲われるよりいい。

食堂で保温機・保冷機に保管されている自分の分の食事をとろうとする。けれど、片手で、服に鳥を入れていて、お膳を持ち上げることが出来ない。

配膳室に職員が一人いるから呼んだほうが良いかもしれない。
立ち止まっていると、すっと横から手が伸びる。無言で、僕の分のトレーを運ぶ藤原君。保冷機からも僕の分を出し、セットしてくれる。

それから、自分の分をセットしている。まだ食べていなかったのか。食堂の端と端の席。何のつもりだろう。僕に関わらないで欲しい。ムカムカする気持ちをどうしていいか分からず立ち尽くす。

「時間が、なくなるよ?」

端の席から、声がかかる。

優しい、低めの声。なぜか、悔しさが心を占める。下を向いて、席に座り、食事を食べる。

緊張して少ししか食べられなかった。お茶が減れば、すっと新しいものが出される。片付けようと席を立てば、すっとトレーを下げてくれる。

沸き上がる悔しさに、右手が震えた。服の中で、心配した僕の鳥がモゾモゾ動く。

お礼も言わずに、早足で立ち去る。自由の利かない自分の身体に腹が立った。こんな奴の世話になんかなりたくない! 心が叫びを上げていた。部屋に戻ると涙が溢れた。


 翌朝は、食事を摂らなかった。

もう、食堂に行きたくない。藤原君を、見たくない。

学校に行きたかった。宮下君に、皆に会いたい。あの、明るい空気に触れたい。息の詰まるような、今の状況の唯一の救いに思えた。
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