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Ⅰ章「分身鳥の恋番」
side:小坂涼⑤
「あ! 小坂! 大丈夫? すごく心配したんだよ。お見舞いも禁止って言われて」
宮下君がすぐに駆け寄る。見たかった笑顔。嬉しくて、涙が滲む。
「おはよう」
張り裂けそうな心。やっと一言が出せた。
「大丈夫かよ。腕、きかない?」
森本君も声をかけてくれる。すぐに僕の荷物を持ってくれる。優しさが、染み入る。温かい、何かが沸いてくる。
「うん。左手は、無理。僕の鳥も左羽が上手く動かせなくて」
「そっか。手が必要なら、手伝うぞ」
嬉しい。こんな簡単なやりとりに、我慢できず涙が流れる。これまで誰も、僕と僕の鳥の心配をしてくれなかった。物のような扱いに、悔しさと苦しさばかりの日々だった。
「おい、ちょっと。小坂、どうした?」
慌てて僕に話しかける友人に、泣き笑いで答える。
「大丈夫。学校に戻れて、嬉しい」
そうか~と僕を撫でる森本君と宮下君。石井君も加わって頭を撫でまわされて、優しさで涙が止まらなかった。
「あ、フジ、おはよう」
宮下君の声にぎくりとした。
フジ? 後ろを見ると、優しい微笑みを浮かべた藤原君。
「え? 宮下君、仲いいの?」
驚いて小声で聞いてしまった。
「うん。フジ、めっちゃいい奴だったんだ。分身鳥の衝動が強く出ちゃったみたいだけど、本人も分身鳥も、あれから全然問題なく過ごしているよ。小坂、仲直りできた?」
急に、宮下君が遠い存在に思えた。
仲直りってなんだよ! あれ、ケンカじゃないよ。一方的な暴力じゃんか!
藤原くんが教室に来たら、急に皆が藤原君に話しかけて藤原君の周りに輪が出来ている。
森本君は、僕のカバンを持ったまま藤原君と話している。
さっきまでの嬉しい気持ちが、一気に冷える。憎らしい気持ちが、心に沸き上がる。唯一の僕の居場所まで、こいつは奪うのか。僕の友人まで。
唇を嚙みしめた。藤原君を睨む。藤原君が、森本君から僕のカバンを受け取って、こちらに来る。右手が、ブルブル震えた。
「席に行こう。中身、出そうか?」
なんだよ。紳士的な態度出して。そんな態度出せるなら、はじめから僕の鳥を襲うなよ。悔しくて、怒りが沸き上がって、腕の震えが抑えられない。
「……返して」
右手でカバンを奪い返す。踵を返し、教室を出る。
「小坂!」と呼んでいる声が聞こえた。もう学校も嫌だ。全部、全部嫌だ。あの、藤原という存在を消し去ってやりたい。
早足で寮に帰る。自分の部屋に閉じこもる。こらえきれずにベッドの上で声を上げて泣いた。悲しそうに僕に寄り添う分身鳥を抱き締めた。
泣き疲れて、鳥と一緒に眠っていた。ガチャリと言う音で目が覚めた。びっくりして、ドアを見る。
開いたドアの外に、管理スタッフと藤原君。なんで?
「小坂さん。朝食を食べていないことと、無断欠席のため、体調確認で入室させていただきます」
ドアの外から、声をかけられる。
僕の部屋じゃないか! 怒りが沸き上がる。
「いやだ! 入らないで!」
叫んでいた。一歩も入って欲しくない! 僕の鳥を抱き締め、ベッドを降りる。
「失礼します」
僕の意見は完全無視して、大人が入ってくる。
「ふざけるな! 僕の部屋だ!」
精一杯叫ぶ。声を上げながら、部屋の隅に追いつめられる。
涙が流れる。背の高い大人に、捕まりそうになり暴れた。泣きながら、嫌だと叫んだ。押さえられて、腕にチクリと注射をされた。叫ぶうちに、意識が落ちた。目の前の全てが苦しかった。
目が覚めたら、夜だった。僕のベッドの横に、藤原君が椅子に座っている。枕元には僕の小鳥が寝ている。それを確認して、ほっとした。
藤原君が、僕を見る。僕は目線を逸らして天井を見た。とてつもない悲しい気持ちが溢れて胸が苦しい。悲しくて、無力な自分が切なくて。
僕は、もうあきらめた。
好きにしたらいい。どうせ、僕の自由なんかないんだ。絶望、という言葉が頭をかすめる。
「大丈夫?」
「はい」
気持ちを込めずに答える。もう、分かった。もう、疲れた。大型猛禽類で最強で、ぼくなんか太刀打ちできない藤原君。服従します。
僕は、僕の心を殺すことにした。
次の日から全て藤原君に従った。優しく接する藤原君を冷めた目で眺めて過ごした。
優しい紳士的なフリした犯罪者め。お前なんか大嫌いだ。くそったれ。心の中で何度も繰り返した。
教室では、一言も話さない。話しかけられても返事をしないで無表情で過ごせば、友人も徐々に離れていく。教室の中心は藤原君。見たくもない。だから、一日、外を見て過ごす。藤原君の指示がなければ食べることもしない。自分で席を立つのはトイレだけ。そのトイレだって、席を立てば藤原君がついて回る。
僕は肩に分身鳥を乗せるのをやめた。藤原君のオウギワシがいつ狙ってくるか、わからないから。
誰一人として僕の味方はいない。僕が死んでも、僕の鳥が死んでも誰も悲しまないことが分かった。だから、僕が僕の鳥を守らなきゃ。左腕を吊っているから、その中に隠すようにした。一見分身鳥が居ないように見えて驚かれる。
人の視線なんかどうでも良かった。僕は、僕の鳥が守れればそれでいい。
夏の空を見上げて、これまで感じたことのない孤独を噛みしめた。
夏休みまであと三日。皆、自分の自宅に帰れる喜びで浮足立っている。僕には関係ない。どうせ寮から出られないし。
藤原君が来るまでは、学校楽しかったな。去年はこの時期、宮下君たちの夏の過ごし方を聞いた。夏祭り、花火大会と言った夏の行事を、寮に帰ってインターネットで調べまくった。自分が経験したかのような妄想をして過ごした。羨ましいな、と優しい気持ちで思った。今年のような友人との距離を感じることは無かった。ぼんやりと考える。
僕に保護管理局から連絡が入った。この夏、僕がフランスに行くことが告げられた。
タヒチヒタキの生息地はフランス領タヒチ島。もう一人のタヒチヒタキの分身鳥を持つフランスの人に会うことが告げられた。
ここから離れられる!
心が一気に弾んだ。夏休みに入って二日後に出国予定。二十日間の日程。初めての海外に、初めての外の世界。インターネットでフランスやタヒチ島を調べて、ワクワクした。
藤原君は絶滅危惧種高位のため、最高位の僕と違い家族から離されない。夏休みは家族のとこに帰るかと思ったのに、寮に留まると言っていた。夏休み中顔を合わせるかと考えて憂鬱な日々だった。
僕の方が離れられる! 嬉しくて僕の分身鳥を高い高いして、喜びを分かち合う。僕の鳥は最近、ベッドの上で高い位置から飛びおりる練習をしている。左翼を少し広げたまま、右翼を上手く操作し落下スピードを緩和させて着地する。初めて上手にできた時の喜びはすごかった。
今日も何回か飛び降りる練習をした後、ドヤ顔で右翼をバサバサする小鳥に笑ってしまった。本当に可愛いな。
「お前は偉いな。前向きだね」
僕の小鳥からは恨むとか憎しみの感情が伝わってこない。僕と違って、いい鳥だ。
夏休み、楽しみだな。
宮下君がすぐに駆け寄る。見たかった笑顔。嬉しくて、涙が滲む。
「おはよう」
張り裂けそうな心。やっと一言が出せた。
「大丈夫かよ。腕、きかない?」
森本君も声をかけてくれる。すぐに僕の荷物を持ってくれる。優しさが、染み入る。温かい、何かが沸いてくる。
「うん。左手は、無理。僕の鳥も左羽が上手く動かせなくて」
「そっか。手が必要なら、手伝うぞ」
嬉しい。こんな簡単なやりとりに、我慢できず涙が流れる。これまで誰も、僕と僕の鳥の心配をしてくれなかった。物のような扱いに、悔しさと苦しさばかりの日々だった。
「おい、ちょっと。小坂、どうした?」
慌てて僕に話しかける友人に、泣き笑いで答える。
「大丈夫。学校に戻れて、嬉しい」
そうか~と僕を撫でる森本君と宮下君。石井君も加わって頭を撫でまわされて、優しさで涙が止まらなかった。
「あ、フジ、おはよう」
宮下君の声にぎくりとした。
フジ? 後ろを見ると、優しい微笑みを浮かべた藤原君。
「え? 宮下君、仲いいの?」
驚いて小声で聞いてしまった。
「うん。フジ、めっちゃいい奴だったんだ。分身鳥の衝動が強く出ちゃったみたいだけど、本人も分身鳥も、あれから全然問題なく過ごしているよ。小坂、仲直りできた?」
急に、宮下君が遠い存在に思えた。
仲直りってなんだよ! あれ、ケンカじゃないよ。一方的な暴力じゃんか!
藤原くんが教室に来たら、急に皆が藤原君に話しかけて藤原君の周りに輪が出来ている。
森本君は、僕のカバンを持ったまま藤原君と話している。
さっきまでの嬉しい気持ちが、一気に冷える。憎らしい気持ちが、心に沸き上がる。唯一の僕の居場所まで、こいつは奪うのか。僕の友人まで。
唇を嚙みしめた。藤原君を睨む。藤原君が、森本君から僕のカバンを受け取って、こちらに来る。右手が、ブルブル震えた。
「席に行こう。中身、出そうか?」
なんだよ。紳士的な態度出して。そんな態度出せるなら、はじめから僕の鳥を襲うなよ。悔しくて、怒りが沸き上がって、腕の震えが抑えられない。
「……返して」
右手でカバンを奪い返す。踵を返し、教室を出る。
「小坂!」と呼んでいる声が聞こえた。もう学校も嫌だ。全部、全部嫌だ。あの、藤原という存在を消し去ってやりたい。
早足で寮に帰る。自分の部屋に閉じこもる。こらえきれずにベッドの上で声を上げて泣いた。悲しそうに僕に寄り添う分身鳥を抱き締めた。
泣き疲れて、鳥と一緒に眠っていた。ガチャリと言う音で目が覚めた。びっくりして、ドアを見る。
開いたドアの外に、管理スタッフと藤原君。なんで?
「小坂さん。朝食を食べていないことと、無断欠席のため、体調確認で入室させていただきます」
ドアの外から、声をかけられる。
僕の部屋じゃないか! 怒りが沸き上がる。
「いやだ! 入らないで!」
叫んでいた。一歩も入って欲しくない! 僕の鳥を抱き締め、ベッドを降りる。
「失礼します」
僕の意見は完全無視して、大人が入ってくる。
「ふざけるな! 僕の部屋だ!」
精一杯叫ぶ。声を上げながら、部屋の隅に追いつめられる。
涙が流れる。背の高い大人に、捕まりそうになり暴れた。泣きながら、嫌だと叫んだ。押さえられて、腕にチクリと注射をされた。叫ぶうちに、意識が落ちた。目の前の全てが苦しかった。
目が覚めたら、夜だった。僕のベッドの横に、藤原君が椅子に座っている。枕元には僕の小鳥が寝ている。それを確認して、ほっとした。
藤原君が、僕を見る。僕は目線を逸らして天井を見た。とてつもない悲しい気持ちが溢れて胸が苦しい。悲しくて、無力な自分が切なくて。
僕は、もうあきらめた。
好きにしたらいい。どうせ、僕の自由なんかないんだ。絶望、という言葉が頭をかすめる。
「大丈夫?」
「はい」
気持ちを込めずに答える。もう、分かった。もう、疲れた。大型猛禽類で最強で、ぼくなんか太刀打ちできない藤原君。服従します。
僕は、僕の心を殺すことにした。
次の日から全て藤原君に従った。優しく接する藤原君を冷めた目で眺めて過ごした。
優しい紳士的なフリした犯罪者め。お前なんか大嫌いだ。くそったれ。心の中で何度も繰り返した。
教室では、一言も話さない。話しかけられても返事をしないで無表情で過ごせば、友人も徐々に離れていく。教室の中心は藤原君。見たくもない。だから、一日、外を見て過ごす。藤原君の指示がなければ食べることもしない。自分で席を立つのはトイレだけ。そのトイレだって、席を立てば藤原君がついて回る。
僕は肩に分身鳥を乗せるのをやめた。藤原君のオウギワシがいつ狙ってくるか、わからないから。
誰一人として僕の味方はいない。僕が死んでも、僕の鳥が死んでも誰も悲しまないことが分かった。だから、僕が僕の鳥を守らなきゃ。左腕を吊っているから、その中に隠すようにした。一見分身鳥が居ないように見えて驚かれる。
人の視線なんかどうでも良かった。僕は、僕の鳥が守れればそれでいい。
夏の空を見上げて、これまで感じたことのない孤独を噛みしめた。
夏休みまであと三日。皆、自分の自宅に帰れる喜びで浮足立っている。僕には関係ない。どうせ寮から出られないし。
藤原君が来るまでは、学校楽しかったな。去年はこの時期、宮下君たちの夏の過ごし方を聞いた。夏祭り、花火大会と言った夏の行事を、寮に帰ってインターネットで調べまくった。自分が経験したかのような妄想をして過ごした。羨ましいな、と優しい気持ちで思った。今年のような友人との距離を感じることは無かった。ぼんやりと考える。
僕に保護管理局から連絡が入った。この夏、僕がフランスに行くことが告げられた。
タヒチヒタキの生息地はフランス領タヒチ島。もう一人のタヒチヒタキの分身鳥を持つフランスの人に会うことが告げられた。
ここから離れられる!
心が一気に弾んだ。夏休みに入って二日後に出国予定。二十日間の日程。初めての海外に、初めての外の世界。インターネットでフランスやタヒチ島を調べて、ワクワクした。
藤原君は絶滅危惧種高位のため、最高位の僕と違い家族から離されない。夏休みは家族のとこに帰るかと思ったのに、寮に留まると言っていた。夏休み中顔を合わせるかと考えて憂鬱な日々だった。
僕の方が離れられる! 嬉しくて僕の分身鳥を高い高いして、喜びを分かち合う。僕の鳥は最近、ベッドの上で高い位置から飛びおりる練習をしている。左翼を少し広げたまま、右翼を上手く操作し落下スピードを緩和させて着地する。初めて上手にできた時の喜びはすごかった。
今日も何回か飛び降りる練習をした後、ドヤ顔で右翼をバサバサする小鳥に笑ってしまった。本当に可愛いな。
「お前は偉いな。前向きだね」
僕の小鳥からは恨むとか憎しみの感情が伝わってこない。僕と違って、いい鳥だ。
夏休み、楽しみだな。
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