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Ⅰ章「分身鳥の恋番」
side:藤原ルイ⑤
「結構早く来たけど、調子、どう?」
俺のベッドに寝かせる。
「うん。大丈夫。ちょっと話がしたかったんだ。レオが来ないうちに、早く話す」
青い顔のまま、自分の鳥を俺の鳥に託している。小坂君が俺の鳥を信頼している。その光景に見惚れた。喜びに心臓が鼓動を忘れそうだった。俺の机に二鳥が移動して語り合うような仕草。良かったね、心で語り掛ける。
「僕、おかしいんだ。これ、夏バテなんかじゃない。フランスに行ってから、変なんだ。だけど、レオや保護管理局の人は、疲れ、夏バテの一点張り。最近、レオの優しさが怖い。藤原君は、何か知っている?」
縋るような黒い瞳。俺は、この瞳に嘘をつきたくない。
「知らないで不安にいることと、真実を知って苦しむことと、どちらがいいと思う?」
小坂君に問う。俺の知っていることを伝えることは、負担になるかもしれない。
「教えて欲しい」
凛とした一言。望むなら話そう。そして守って行こう。
「俺の知っている事だけだよ」
黒い髪をゆっくり撫でた。伝えることに、心が痛む。
「絶滅危惧最高位の分身鳥を持つ者は、男性でも妊娠が出来るように、両性で生まれることが多いらしい」
俺を見ていた黒い瞳が、驚きを表す。
「男性なら身体の中に、小さな男子宮と言われる器官をもっている。妊娠を望まなければ男子宮は目覚めないまま、男性として生涯を終える。絶滅危惧種を保護したければ、男子宮と言われる器官を刺激して、両性として覚醒させるらしい。ただ、男性から妊娠できる両性に急激に変化させるから、ホルモンバランスの乱れで体調を崩すらしいんだ。かなり身体負担がかかるから、日本やアメリカでは成人後に意思確認をして行われる決まりがある」
驚きに染まっている瞳。
「え? なに? 両性? し、子宮? 男でも、妊娠? 僕が……?」
つぶやくように、声がこぼれている。
「混乱すると思うけど、落ち着いて聞いて。両性にするために、同性との性交で男子宮を刺激する必要がある。フランスで、その、性行為とか、覚えがないかな?」
「ええ? 性交? 僕が? 全然、してないよ! け、経験したこと、ないよ」
顔を赤らめて小さな声。ポロリと涙が流れている。混乱しているのだろう。そっと、黒髪の頭を撫でる。苦しいよね。
「意識があるときとは限らない」
はっとしたように、小坂君が俺を見る。
「フランスで、毎日、いつの間にか寝入っていたんだ。気が付くと着替えもレオがしてくれていて……。まさか、そんな……、そんな……」
溢れる涙をタオルで拭う。そのままタオルを渡すと顔を覆って泣き出す。机の上ではオウギワシがオレンジの小鳥を羽で抱き込んでいる。
「僕は、どうなるの? 両性って、どうなるの?」
うつむいたまま、顔を上げない小坂君。不安に揺れる声に、胸が苦しくなる。今伝えないと、小坂君は知る機会がないだろう。
「男性の男子宮は直腸の奥にある。後ろを使って同性との性交をすると妊娠する可能性がある。両性ホルモンが安定するまで数か月から数年かかるらしい。その間は、体調を崩す。体調が悪い間に性交すると、妊娠しにくい身体になる。慰めにならないけど、今はレオが無茶をしてくることは無いと思う」
下を向いたままの小坂君。こんな時だけど、俺はどうしても言わなければいけないことがある。
「それから、小坂君の鳥のこと。怪我の事、ごめん。俺の鳥が、愛の衝動が抑えられなくて大変な事をした。本当にごめん。転校した日、小坂君を見て俺の番だとはっきり分かった。番への愛の衝動がこんなに大きいとは思っていなくて。これまでは、どんな感情もうまくコントロールできて、衝動行為をしない自信があった。俺の鳥は、衝動行為は一度もしたことが無かった」
無言で聞いている小坂君に、ゆっくり話しかける。
「俺と俺の鳥は、一生をかけて償う。番として結ばれなくてもいい。小坂君を生涯支えていく。どうか、傍にいることを許してほしい」
黒い瞳が、俺を見る。
「結ばれなくても、いいの?」
「いい。傍にいて、俺が尽くすだけでいい」
「うん。それなら、大丈夫」
ほっとした顔。今は性的な事が怖いのだろう。
「大丈夫だよ。俺は今後一切、小坂君に苦痛は与えない。俺の鳥と誓い合っている。小坂君にも同じことを誓う。性的なことが嫌ならしない」
「僕、もう何を信じていいか分からない……」
小坂君が下を見てつぶやく。そうだろう。俺と会ってから、怒涛のような出来事の連続。
「俺のせいでもある。ごめん」
ひとつ溜息をついて外を見る小坂君。その横顔の美しさに心がドキリと震えた。
ピンコロン、と独特の機械音がした。俺の部屋のチャイム。コンコンとドアを叩く音。
「失礼。リョウが来ているかな?」
レオの声がする。ビクリと顔を上げた小坂君が、俺を見る。
「大丈夫だよ。小坂君はどうしたい? 自分の部屋に行く?」
「今、戻りたくない。部屋にはレオがいつも入ってくる。今は、ちょっと怖い」
「わかった。待っていて」
小坂君を部屋に残し廊下に出る。
廊下でレオと向き合う。
「リョウを返すんだ」
怖い顔で俺を睨んでいる。
「小坂君が自分で決めるのを待つべきだ」
「無理やり番の鳴声をあげさせた奴が言うなよ」
「それは、今関係ない」
「関係あるさ。リョウが追いつめられているのはお前のせいだろう? 責任逃れするなよ。偉そうに僕だけを悪者扱いするな」
だめだ。挑発に怒りがこみあげてくる。レオは俺を蹴落とそうと敵意を持っている。ならば、それに乗ってはいけない。レオの一歩上をいかなければ、小坂君は守れない。深呼吸して、気持ちを落ち着ける。肩の鳥が、ぐっと俺の肩を掴む。
「俺がしたことは、本当に申し訳なかったと思っています。小坂君が、落ち着いて過ごせるように、少し時間をください」
プライドの高そうなレオに、低姿勢で話す。本当はこんなことしたくもないけれど。
「へぇ。作戦変更か?」
俺は黙って頭を下げ続ける。
「ま、いいだろう。両性ホルモンの安定まではまだ時間がある。僕も慣れない日本で疲れてきていたから、一休みとしよう。いいか、リョウに手を出すな。それが守れなければリョウは縛り上げてでもフランスに連れていく」
「誓って性的な事はしない」
「いいだろう」
俺を正面から見ているレオは、満足そうな顔。
大型猛禽類が自分に頭を下げる現実がレオのプライドを満たしたのだろう。小坂君のためなら、レオを優位に立たせるくらい何てことない。
「リョウ、休んでいるかな? 気持ちが落ち着いたらゆっくり話そう。僕はいつでも君の味方だよ。待っているからね」
先ほどまでとは打って変わって、甘やかな声でドアの向こうの小坂君に話しかけている。
「僕は一週間、近くの高級ホテルにでも行くよ。本当は、こんな狭くて不便な寮生活は向いていないんだ」
去り際にレオが俺にささやく。フランス保護局の護衛を三名連れて、悠々と去っていく姿を見送った。
室内に戻ると、小坂君は寝ていた。明るい日の光の差す部屋に、綺麗な人形のような小坂君。一枚の静止画のよう。そっと近づいて、艶髪を撫でる。ゆっくり休むと良いよ。
俺のベッドに寝かせる。
「うん。大丈夫。ちょっと話がしたかったんだ。レオが来ないうちに、早く話す」
青い顔のまま、自分の鳥を俺の鳥に託している。小坂君が俺の鳥を信頼している。その光景に見惚れた。喜びに心臓が鼓動を忘れそうだった。俺の机に二鳥が移動して語り合うような仕草。良かったね、心で語り掛ける。
「僕、おかしいんだ。これ、夏バテなんかじゃない。フランスに行ってから、変なんだ。だけど、レオや保護管理局の人は、疲れ、夏バテの一点張り。最近、レオの優しさが怖い。藤原君は、何か知っている?」
縋るような黒い瞳。俺は、この瞳に嘘をつきたくない。
「知らないで不安にいることと、真実を知って苦しむことと、どちらがいいと思う?」
小坂君に問う。俺の知っていることを伝えることは、負担になるかもしれない。
「教えて欲しい」
凛とした一言。望むなら話そう。そして守って行こう。
「俺の知っている事だけだよ」
黒い髪をゆっくり撫でた。伝えることに、心が痛む。
「絶滅危惧最高位の分身鳥を持つ者は、男性でも妊娠が出来るように、両性で生まれることが多いらしい」
俺を見ていた黒い瞳が、驚きを表す。
「男性なら身体の中に、小さな男子宮と言われる器官をもっている。妊娠を望まなければ男子宮は目覚めないまま、男性として生涯を終える。絶滅危惧種を保護したければ、男子宮と言われる器官を刺激して、両性として覚醒させるらしい。ただ、男性から妊娠できる両性に急激に変化させるから、ホルモンバランスの乱れで体調を崩すらしいんだ。かなり身体負担がかかるから、日本やアメリカでは成人後に意思確認をして行われる決まりがある」
驚きに染まっている瞳。
「え? なに? 両性? し、子宮? 男でも、妊娠? 僕が……?」
つぶやくように、声がこぼれている。
「混乱すると思うけど、落ち着いて聞いて。両性にするために、同性との性交で男子宮を刺激する必要がある。フランスで、その、性行為とか、覚えがないかな?」
「ええ? 性交? 僕が? 全然、してないよ! け、経験したこと、ないよ」
顔を赤らめて小さな声。ポロリと涙が流れている。混乱しているのだろう。そっと、黒髪の頭を撫でる。苦しいよね。
「意識があるときとは限らない」
はっとしたように、小坂君が俺を見る。
「フランスで、毎日、いつの間にか寝入っていたんだ。気が付くと着替えもレオがしてくれていて……。まさか、そんな……、そんな……」
溢れる涙をタオルで拭う。そのままタオルを渡すと顔を覆って泣き出す。机の上ではオウギワシがオレンジの小鳥を羽で抱き込んでいる。
「僕は、どうなるの? 両性って、どうなるの?」
うつむいたまま、顔を上げない小坂君。不安に揺れる声に、胸が苦しくなる。今伝えないと、小坂君は知る機会がないだろう。
「男性の男子宮は直腸の奥にある。後ろを使って同性との性交をすると妊娠する可能性がある。両性ホルモンが安定するまで数か月から数年かかるらしい。その間は、体調を崩す。体調が悪い間に性交すると、妊娠しにくい身体になる。慰めにならないけど、今はレオが無茶をしてくることは無いと思う」
下を向いたままの小坂君。こんな時だけど、俺はどうしても言わなければいけないことがある。
「それから、小坂君の鳥のこと。怪我の事、ごめん。俺の鳥が、愛の衝動が抑えられなくて大変な事をした。本当にごめん。転校した日、小坂君を見て俺の番だとはっきり分かった。番への愛の衝動がこんなに大きいとは思っていなくて。これまでは、どんな感情もうまくコントロールできて、衝動行為をしない自信があった。俺の鳥は、衝動行為は一度もしたことが無かった」
無言で聞いている小坂君に、ゆっくり話しかける。
「俺と俺の鳥は、一生をかけて償う。番として結ばれなくてもいい。小坂君を生涯支えていく。どうか、傍にいることを許してほしい」
黒い瞳が、俺を見る。
「結ばれなくても、いいの?」
「いい。傍にいて、俺が尽くすだけでいい」
「うん。それなら、大丈夫」
ほっとした顔。今は性的な事が怖いのだろう。
「大丈夫だよ。俺は今後一切、小坂君に苦痛は与えない。俺の鳥と誓い合っている。小坂君にも同じことを誓う。性的なことが嫌ならしない」
「僕、もう何を信じていいか分からない……」
小坂君が下を見てつぶやく。そうだろう。俺と会ってから、怒涛のような出来事の連続。
「俺のせいでもある。ごめん」
ひとつ溜息をついて外を見る小坂君。その横顔の美しさに心がドキリと震えた。
ピンコロン、と独特の機械音がした。俺の部屋のチャイム。コンコンとドアを叩く音。
「失礼。リョウが来ているかな?」
レオの声がする。ビクリと顔を上げた小坂君が、俺を見る。
「大丈夫だよ。小坂君はどうしたい? 自分の部屋に行く?」
「今、戻りたくない。部屋にはレオがいつも入ってくる。今は、ちょっと怖い」
「わかった。待っていて」
小坂君を部屋に残し廊下に出る。
廊下でレオと向き合う。
「リョウを返すんだ」
怖い顔で俺を睨んでいる。
「小坂君が自分で決めるのを待つべきだ」
「無理やり番の鳴声をあげさせた奴が言うなよ」
「それは、今関係ない」
「関係あるさ。リョウが追いつめられているのはお前のせいだろう? 責任逃れするなよ。偉そうに僕だけを悪者扱いするな」
だめだ。挑発に怒りがこみあげてくる。レオは俺を蹴落とそうと敵意を持っている。ならば、それに乗ってはいけない。レオの一歩上をいかなければ、小坂君は守れない。深呼吸して、気持ちを落ち着ける。肩の鳥が、ぐっと俺の肩を掴む。
「俺がしたことは、本当に申し訳なかったと思っています。小坂君が、落ち着いて過ごせるように、少し時間をください」
プライドの高そうなレオに、低姿勢で話す。本当はこんなことしたくもないけれど。
「へぇ。作戦変更か?」
俺は黙って頭を下げ続ける。
「ま、いいだろう。両性ホルモンの安定まではまだ時間がある。僕も慣れない日本で疲れてきていたから、一休みとしよう。いいか、リョウに手を出すな。それが守れなければリョウは縛り上げてでもフランスに連れていく」
「誓って性的な事はしない」
「いいだろう」
俺を正面から見ているレオは、満足そうな顔。
大型猛禽類が自分に頭を下げる現実がレオのプライドを満たしたのだろう。小坂君のためなら、レオを優位に立たせるくらい何てことない。
「リョウ、休んでいるかな? 気持ちが落ち着いたらゆっくり話そう。僕はいつでも君の味方だよ。待っているからね」
先ほどまでとは打って変わって、甘やかな声でドアの向こうの小坂君に話しかけている。
「僕は一週間、近くの高級ホテルにでも行くよ。本当は、こんな狭くて不便な寮生活は向いていないんだ」
去り際にレオが俺にささやく。フランス保護局の護衛を三名連れて、悠々と去っていく姿を見送った。
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