分身鳥の恋番

小池 月

文字の大きさ
37 / 57
Ⅱ章「幸せを運ぶコウノトリと小さな文鳥の幸せ番」

side:加藤幸一⑩

しおりを挟む
<これからの道>
 「あ、幸一。コーヒー買って行こう。スコーンも」
「いいね。徹、離れるなよ」
四月の大学は新入生で賑やか。懐かしく見つめる。

今日は徹と大学に来ている。

 徹は三年の一月から卒業論文の担当教授との面談もあり通学を始めた。基本の授業はリモート。大学に行く日は俺も一緒に通っている。

もうパニックを起こすこともなく、背筋の凛と伸びた以前の徹だ。だけど色気が追加されてしまい、際立つオーラに周りがハッと振り返って徹を見つめる。
その度、「俺の番だ!」と威嚇するようにコウノトリが胸を張って大型鳥をアピールする。分かる。牽制しないとな。こっそり心で笑いあう。

 時々しか大学に来ない徹は「幻の小鳥王子」と呼ばれてファンクラブが出来ている。隠し撮り写真が出回っていて心配したが、当の本人は「いいんじゃないか? 嫌われているよりいいだろ」と呑気なものだ。
ネット上に出回るのは徹父の会社秘書がチェック入れてくれているらしい。

 懐かしい大学のフリースペースのコーヒーショップ。徹を席に座らせてコーヒーを買う。ちょっと混んでいて時間がかかると、すぐに徹の周りに人だかり。穏やかに姿勢よく対応している徹と、憧れの目線で興奮気味の周囲の人たち。

「徹、お待たせ。ごめんね。俺たち話があるからまた今度にしてもらえるかな?」
角が立たないように人を遠ざける。

俺のニッコリ笑顔もそこそこ通用することが分かり上手く使うようにしている。学内一人である絶滅危惧種高位のオーラを存分に発揮する。これは徹を守るために必要な処世術として身に付いた。

「ははは。幸一、イケメンオーラ全開じゃないか」
「当然。徹のモテすぎ対策だ」
クスクス笑いあう。

「賑やかなこの雰囲気も、今年で見納めか」
「卒業後はお父さんの会社?」
「あぁ。俺は経営側で入社する。幸一は卒業後どうする?」

「国家試験は合格したい。一発合格狙うけど、数回受験になるかも。もともとは法律関係の行政に入りたかったんだ。俺は法律による保護に振り回されたから。今は、弁護士として徹の会社に入りたい。徹の傍に居たい。あと、一般の分身鳥差別や分身鳥人権問題に取り組む団体に所属していきたいと思っている」

正直な気持ちを伝える。

「へぇ。考えているね。良いんじゃないか? 俺は幸一が傍に居てくれたら嬉しいけど、そのために幸一が夢を諦めるのは辛い。今の幸一の考えなら、俺の傍に居ながら夢を追える。ちょっと安心した。幸一には幸一の人生があるから。俺と番鳥になって夢が消えたら困るからな」

コーヒーを飲む徹を見つめる。スコーンを一口かじり、懐かしい美味しさを噛みしめる。

「俺の最優先は徹だけど、徹だけの人生になったら重いだろ? 俺、自分のやりたいことも叶えるし、徹も守る。これまで必死で一つの夢にしがみついてきたけど、手を広げてみようと思えたんだ。大学に来て、徹に会って藤原君や小坂君に会って、人の生き方に触れることができた。人の人生に触れる事がなく生きて来た俺にとって、心を揺さぶられる出来事の連続だった。隔離されて幼少期を過ごした俺には欠けていたものだった。でも、辛かったことはきっと無駄じゃないんだ。そう思えたのは徹のおかげ。背筋を伸ばして徹と生きて行きたいと思うから、俺も頑張るよ」

「なんか、カッコいいな」
正面で頬を染めて俺に微笑む徹。カッコいいのは徹だよ。言いたい言葉は飲み込んだ。

「コーヒー飲んだら帰ろうか」
ココに居ると時々写真を撮られて落ち着かない。だけど徹と出会った大切な場所だから立ち寄る。


 二人で笑い合って大学を後にする。青空に桜が舞い散る中、俺たちの鳥が寄り添って飛ぶ。大きなコウノトリと黒い文鳥。花びらを舞い上げて楽しそうに空を駆ける。

 美しい。二鳥を見上げて、徹の手をそっと握った。優しく握り返してくれる温もりに心が満たされた。

     <Ⅱ章 完>
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

鳥籠の中の幸福

岩永みやび
BL
フィリは森の中で静かに暮らしていた。 戦争の最中である。外は危険で死がたくさん溢れている。十八歳になるフィリにそう教えてくれたのは、戦争孤児であったフィリを拾ってここまで育ててくれたジェイクであった。 騎士として戦場に赴くジェイクは、いつ死んでもおかしくはない。 平和とは程遠い世の中において、フィリの暮らす森だけは平穏だった。贅沢はできないが、フィリは日々の暮らしに満足していた。のんびり過ごして、たまに訪れるジェイクとの時間を楽しむ。 しかしそんなある日、ジェイクがフィリの前に両膝をついた。 「私は、この命をもってさえ償いきれないほどの罪を犯してしまった」 ジェイクによるこの告白を機に、フィリの人生は一変する。 ※全体的に暗い感じのお話です。無理と思ったら引き返してください。明るいハッピーエンドにはなりません。攻めの受けに対する愛がかなり歪んでいます。 年の差。攻め40歳×受け18歳。 不定期更新

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

僕と教授の秘密の遊び (終)

325号室の住人
BL
10年前、魔法学園の卒業式でやらかした元第二王子は、父親の魔法で二度と女遊びができない身体にされてしまった。 学生達が校内にいる時間帯には加齢魔法で老人姿の教授に、終業時間から翌朝の始業時間までは本来の容姿で居られるけれど陰茎は短く子種は出せない。 そんな教授の元に通うのは、教授がそんな魔法を掛けられる原因となった《過去のやらかし》である… 婚約破棄→王位継承権剥奪→新しい婚約発表と破局→王立学園(共学)に勤めて生徒の保護者である未亡人と致したのがバレて子種の出せない体にされる→美人局に引っかかって破産→加齢魔法で生徒を相手にしている時間帯のみ老人になり、貴族向けの魔法学院(全寮制男子校)に教授として勤める←今ここ を、全て見てきたと豪語する男爵子息。 卒業後も彼は自分が仕える伯爵家子息に付き添っては教授の元を訪れていた。 そんな彼と教授とのとある午後の話。

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

りんご成金のご令息

けい
BL
 ノアには前世の記憶はあったがあまり役には立っていなかった。そもそもあまりにもあいまい過ぎた。魔力も身体能力も平凡で何か才能があるわけでもない。幸いにも裕福な商家の末っ子に生まれた彼は、真面目に学んで身を立てようとコツコツと勉強する。おかげで王都の学園で教育を受けられるようになったが、在学中に両親と兄が死に、店も乗っ取られ、残された姉と彼女の息子を育てるために学園を出て冒険者として生きていくことになる。  それから二年がたち、冒険者としていろいろあった後、ノアは学園の寮で同室だった同級生、ロイと再会する。彼が手を貸してくれたおかげで、生活に余裕が出て、目標に向けて頑張る時間もとれて、このまま姉と甥っ子と静かに暮らしていければいいと思っていたところ、姉が再婚して家を出て、ノアは一人になってしまう。新しい住処を探そうとするノアに、ロイは同居を持ち掛ける。ロイ×ノア。ふんわりした異世界転生もの。 他サイトにも投稿しています。

処理中です...