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Ⅲ章「飛べない鳥と猛禽鳥の愛番」
side:羽田 咲人⑩
<広がる世界>
二人で住む予定だったマンションに移った。大学時代から住み続けている部屋。脩が居るだけで真新しいマンションに居るように明るい。
電車体験も温泉旅行もした。アルコールデビューはやめた。脩には薬剤が多用されていたから、肝臓の負担が大きかったようだ。肝機能が弱り気味と伝えられて、酒類はやめようと二人で決めた。
「全部、もう終わったことだと考えるようにする」そう言って微笑む脩。脩は強い。肩に乗る俺の鳥が『ヤンバルクイナも強い。可愛くてカッコいいんだ』と呟くような声を届けてくる。愛おしい気持ちを共有できる幸せに頬が緩む。
月に一回は家に石井医師と森本医師が遊びに来る。遊びに来るというか診察に来る。私服の先生を脩が怖がることは無かった。先生たちと初めて会話したとき申し訳なさそうに脩が話した。
「アメリカに連れていかれた時、診察をするって騙されて連れていかれました。だから病院とか診察とか、どうしても怖いです。先生が嫌いなわけじゃないんだけど」
「じゃ、遊びに行くよ。ついでに診察。それならどう?」
「そんな特別扱い、いいんですか?」
「良いのだよ。君は国が特別扱いを許可している存在だからね」
軽く笑う二人の先生。その様子に安堵した顔の脩。
それから毎月最終土曜日午後が約束の時間。脩は少しずつ先生たちと会話することに慣れた。外出先で店員との会話も平気になった。確実に回復している。それが幸せだった。
優しく穏やかに時間が過ぎた。
マンションに引っ越して半年。家にいる時間が長くて、働いてみようと話が進んだ。石井医師と森本医師の許可も出た。
俺は休職していたから久しぶりの職場復帰となる。そこに脩がバイトとして手伝いに入る。所長も弁護士の先生方も快諾してくれた。特に弁護士の加藤先生は心配して「数日様子見て場合によっては番鳥の会社を紹介する」と言ってくれている。加藤先生の番鳥は国内最大手の総合商社「宮下コーポレーション」の副社長だと知り驚いた。
出勤初日。家を出る前に何度も深呼吸する脩。大丈夫だよ、と気持ちを込めて頭をナデナデする。固い表情で俺を見上げる脩。
「咲人、緊張する。どうしよう」
「大丈夫だよ。脩の救出に尽力してくれた人たちだから」
「なんだか、事情を知られているのも恥ずかしいな」
「全く知らない場所よりいいよ。何かあってもすぐに対応できるし」
本来、絶滅危惧種最高位は勤務先が保護鳥局になる。その方が管理として楽だから。でも俺たちは絶対に保護鳥局では働きたくない。関わりたくない。
だからこの弁護士事務所に出会えたことに心から感謝している。本来なら抵抗する力もない俺と脩を常に助けてくれる周囲の人。この恵まれた環境が本当にありがたい。
脩はとても緊張していたけれど、担当の女性事務員さんに書類の整理と掃除を教えてもらって無事に初日が過ぎた。周りが温かい目で見てくれて嬉しかった。
まずは事務所で一日アルバイト出来たことに帰宅して大喜びだった。脩の疲れも考慮して、週に三日のアルバイト。俺はフルタイム勤務に戻った。
脩は働くことで社会の一員として認められたような満足感を得ていた。表情や雰囲気が生き生きして微笑ましい。全て順調に進んでいる。これでいい。苦しみを乗り越えて笑顔を見せる脩が愛おしくて、撫でまわしたくて、誇らしくて。ますます好きになっていく。
時々事務所の隅でヤンバルクイナとシマフクロウが肩から離れて毛づくろいをする。密着する二鳥を誰も咎めない。
人間カップルのイチャイチャはTPOを考慮しなくてはいけないが、分身鳥同士は別だ。特に番鳥の場合どこだろうと自由にやりたい放題。社会的に認められている事なのが羨ましい。
俺だって本当は脩を撫でまわしたいのになぁ。稟議書を作成する手を止めて、会議資料のコピーをとる脩を見つめる。一生懸命な姿。油断すると頬が緩みっぱなしになってしまう。脩が一緒に生きている。そう実感するたび心が温かいもので満たされる。本当に幸せだ!
二人で住む予定だったマンションに移った。大学時代から住み続けている部屋。脩が居るだけで真新しいマンションに居るように明るい。
電車体験も温泉旅行もした。アルコールデビューはやめた。脩には薬剤が多用されていたから、肝臓の負担が大きかったようだ。肝機能が弱り気味と伝えられて、酒類はやめようと二人で決めた。
「全部、もう終わったことだと考えるようにする」そう言って微笑む脩。脩は強い。肩に乗る俺の鳥が『ヤンバルクイナも強い。可愛くてカッコいいんだ』と呟くような声を届けてくる。愛おしい気持ちを共有できる幸せに頬が緩む。
月に一回は家に石井医師と森本医師が遊びに来る。遊びに来るというか診察に来る。私服の先生を脩が怖がることは無かった。先生たちと初めて会話したとき申し訳なさそうに脩が話した。
「アメリカに連れていかれた時、診察をするって騙されて連れていかれました。だから病院とか診察とか、どうしても怖いです。先生が嫌いなわけじゃないんだけど」
「じゃ、遊びに行くよ。ついでに診察。それならどう?」
「そんな特別扱い、いいんですか?」
「良いのだよ。君は国が特別扱いを許可している存在だからね」
軽く笑う二人の先生。その様子に安堵した顔の脩。
それから毎月最終土曜日午後が約束の時間。脩は少しずつ先生たちと会話することに慣れた。外出先で店員との会話も平気になった。確実に回復している。それが幸せだった。
優しく穏やかに時間が過ぎた。
マンションに引っ越して半年。家にいる時間が長くて、働いてみようと話が進んだ。石井医師と森本医師の許可も出た。
俺は休職していたから久しぶりの職場復帰となる。そこに脩がバイトとして手伝いに入る。所長も弁護士の先生方も快諾してくれた。特に弁護士の加藤先生は心配して「数日様子見て場合によっては番鳥の会社を紹介する」と言ってくれている。加藤先生の番鳥は国内最大手の総合商社「宮下コーポレーション」の副社長だと知り驚いた。
出勤初日。家を出る前に何度も深呼吸する脩。大丈夫だよ、と気持ちを込めて頭をナデナデする。固い表情で俺を見上げる脩。
「咲人、緊張する。どうしよう」
「大丈夫だよ。脩の救出に尽力してくれた人たちだから」
「なんだか、事情を知られているのも恥ずかしいな」
「全く知らない場所よりいいよ。何かあってもすぐに対応できるし」
本来、絶滅危惧種最高位は勤務先が保護鳥局になる。その方が管理として楽だから。でも俺たちは絶対に保護鳥局では働きたくない。関わりたくない。
だからこの弁護士事務所に出会えたことに心から感謝している。本来なら抵抗する力もない俺と脩を常に助けてくれる周囲の人。この恵まれた環境が本当にありがたい。
脩はとても緊張していたけれど、担当の女性事務員さんに書類の整理と掃除を教えてもらって無事に初日が過ぎた。周りが温かい目で見てくれて嬉しかった。
まずは事務所で一日アルバイト出来たことに帰宅して大喜びだった。脩の疲れも考慮して、週に三日のアルバイト。俺はフルタイム勤務に戻った。
脩は働くことで社会の一員として認められたような満足感を得ていた。表情や雰囲気が生き生きして微笑ましい。全て順調に進んでいる。これでいい。苦しみを乗り越えて笑顔を見せる脩が愛おしくて、撫でまわしたくて、誇らしくて。ますます好きになっていく。
時々事務所の隅でヤンバルクイナとシマフクロウが肩から離れて毛づくろいをする。密着する二鳥を誰も咎めない。
人間カップルのイチャイチャはTPOを考慮しなくてはいけないが、分身鳥同士は別だ。特に番鳥の場合どこだろうと自由にやりたい放題。社会的に認められている事なのが羨ましい。
俺だって本当は脩を撫でまわしたいのになぁ。稟議書を作成する手を止めて、会議資料のコピーをとる脩を見つめる。一生懸命な姿。油断すると頬が緩みっぱなしになってしまう。脩が一緒に生きている。そう実感するたび心が温かいもので満たされる。本当に幸せだ!
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