アルファ王子に嫌われるための十の方法

小池 月

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Ⅱ 嫌われ作戦を練る

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ゆっくり食事をしてセレスと過ごしているとリンの心も落ち着いた。食後のお茶をしながらセレスに声を掛ける。

「ねえ、なんで僕なのかな? 王子殿下とは顔も合わせたことがないよ。僕は伯爵家の者だけど王都のパーティーは行かないし、この領地から出ていない。セレスのとこしか行ったことがないよ。もちろんほかの貴族にも会っていない。僕の写真とか個人情報は父が外に出していないはずだ。なのに、どうして僕なのかな?」

「リン、僕にも分からないよ。どうしてだろうね。僕たちは世間から隠されてきたと思う。ほら、男性オメガって辛い話も良く聞くから。一般家庭に男性オメガが生まれると、表向き養子と言う形で売られることが多いらしい。貴族に男性オメガが生まれるとアルファが伴侶に熱望して権力争いに使われることも多い。だから田舎を盾に僕たちは親に守られてきたんだ。だけど、この広いアローラ国で未婚の貴族男性オメガって片手に数えるくらいしか居ないらしいんだ」

「え? そんなに少ないの?」
「うん。女性オメガは女性十人に一人の割合でいるらしいけれど」

「う~~ん、そんな少数なのに僕たちが一緒に居ることは奇跡だ」
「だね。今まで守ってもらって幸せに過ごせていたのだと思う。ただ今回、顔合わせもなしに書状だけの婚約って強引な王家のやり方に疑問が生じる」

「そうなの? 普通は顔合わせがあるの?」

「僕のところにも『男性オメガで貴族』っていうだけで縁談話がたくさん来ているよ。うちは子爵家で爵位が低いから、断るのに『ジャルル伯爵家と婚約中です』を使っていたけれどね。まずは顔合わせをしましょうって誘いから来る。突然婚約と言ってくる相手はいないよ。ま、でも王家って貴族のルールとは違うのかな」

「でもさ、でも。ちょっと横暴だと思える。いくら王家でも急すぎるよな。拒否を許さない書状一個で婚約成立。こっちの意志は関係なし、みたいな。一か月後には王城に来いってさ。権力使いたい放題じゃないか。段々腹が立ってきた!」

「ココだけの話、僕だって急にリンを横取りされて腹が立っている」
リンとセレスは顔を見合わせて小さく頷き合う。

「一泡吹かせること、出来ないかな?」
「ブハッ! さすがリン。王太子様を一泡吹かせる、かぁ」

「ばか、セレス。声がデカい。これから作戦、考えるか?」
「え? マジで? 痛い目に会わせましょう作戦? でも下手したら伯爵家も子爵家も処罰される。ん~~、それなら、『リンが王太子に嫌われる作戦』ならどうだ?」

「僕が王子に嫌われる?」

「だから、むこうから求婚は無かったことに、って言わせるんだ。で、伯爵家に戻ったリンは僕と結婚する」

セレスの言葉にリンは自分の未来が開けたように思えた。

「それだ! 僕が嫌われて追い出されれば万事解決じゃないか! セレスとの未来も可能性がある!」

「バカバカ、声が大きいって言ったばかりじゃないか。こんなの反逆罪になるかもしれない話だ。僕たち二人で極秘に作戦を練らないといけない」
セレスの言葉にリンはしっかり頷く。

「いいか、リン。まずは、どんなオメガが嫌われるのかを知らなくちゃいけない」
「わかった。すごい。なんだかワクワクしてきた! セレスがいてくれてよかった。僕だけじゃ王城に行くまでの一か月耐えられない時間になるところだった」

リンの言葉に少し困った笑みを返すセレス。

「リン、僕はリンが苦しまなければそれでいい。リンが幸せに笑ってくれているなら、それだけでいい。男オメガ同士で出会えただけで奇跡だ。僕はこれまで十分幸せをもらえた。リン、ありがとう」

そんなセレスの言葉にリンは泣いた。


 翌日から『カロール王子に嫌われるオメガになる戦略』を考えるためにセレスと動き始めた。目標があると活動的になれる。昨日までクヨクヨ泣いていたのが嘘のようだ。

「リン、今日は教会図書館でいい? 他には?」
「うん。あと娯楽図書が多いところに寄ろうと思う。教会図書館は大衆図書が少ないから。ついでに昼食は外で食べよう。店は詳しくないから兄さんに予約お願いしとく」
「オッケ」

セレスと早起きして早朝作戦会議だ。昨日のうちにリンの部屋にベッドをひとつ運んでもらい、セレスがリンの部屋で寝泊まり出来るようにした。オメガ同士だし性的行為は一切しないことをリンの父に誓った。最後の時間として許しを得られて飛び上がって喜んだ。

昨晩のうちに『嫌われるオメガ』について情報収集に行こうと決めた。オメガについての一般的認識を知るためにまずは図書館に出向くことにした。

「セレス、支度して待っていて。兄さんに昼食の手配頼んでくる!」
「了解」

リンは自室を飛び出してダイニングルームに急ぐ。きっと朝の時間なら兄と父が居るはず。

「おはよう! 兄さん居る?」
ダイニングルームに飛び込むと予想通りに父と兄が居た。リンの登場に口をあんぐり開けたままの二人。構わずにリンは話しかける。

「兄さん、今日はセレスと出かけたいから、昼食を素敵な美味しい店予約してほしいんだ。ほら、僕じゃ分からないし。セレスにルーラ教会案内するからさ、その近くの市街地で! って、聞いている?」

懸命に伝えているのに鳩が豆鉄砲食らったかのように固まっている兄さん。

「リン、お前、体調、は?」
兄がボソボソと返事をするが、リンの欲しい答えではない。

「体調オッケ。問題なし。じゃ、ランチは予約しといてよ。出かけたのに食べ損ねるのは嫌だよ。あ、マリー。朝食は僕の部屋に運んで。セレスと食べる。キッシュはつけてよ。あと外出するから馬車と従者お願い。ルーラ教会と市街地にも立ち寄る。連絡しといてほしいな。夕食には戻るから」

捲し立てるようにリンが話すと兄と父が静止したままコクコクと頷いている。傍に居たマリーも同じ反応。

「じゃ、部屋に戻るね」
リンがニッコリ笑って手を振ると、父と兄とマリーがポカンとしたまま手を振り返した。

「は? どうなっているのだ?」そんな父と兄の言葉を後ろに聞いた。


「リン、伯爵領地は広いね。やっぱりすごいや」
領地内では最大の公立図書館を持つルーラ教会にセレスと来ている。

ルーラ教会はステンドグラスと装飾が美しい大きな教会。セレスを連れてくるのは初めて。急な連絡を入れたけれど嫌な顔せず司教が案内をしてくれる。図書館で本を読みたいと伝えると貸し切りにしてくれた。

そこまでしなくていい、と伝えたのに「未来の王太子妃様にお怪我の一つでもあってはなりません」と司教に押し切られた。金の首保護帯の効力の凄さを実感した。

 ちなみに外出時の護衛も増員されている。これまでリンとセレスの外出には従者二名から一名がついていたが、なんと本日は警備が四名付き。リンとセレスの乗る馬車の前後に二名ずつ騎馬兵が付いた。

護衛兵は一定の距離を保ちリンたちについている。リンに何かあったら伯爵家の問題になってしまうから護られることをリンは受け入れている。リンに護衛など申し訳ないなぁと思うけれど。

 教会図書館はさすが教会と言うべきか、真面目な宗教の教え、倫理的なもの、歴史などお堅そうな分厚い本が並んでいて気が滅入りそうになる。

「リン、この広い図書内を当てずっぽうに探すのは無理だろう。司教様に『どんなオメガがいいオメガですか?』って聞いてみるか? 一般的な『いいオメガ』の逆をすればいいのかも」

「セレス頭良い! 聞いて来よう」
二人で図書館を出ようとしたとき、タイミングよく司教様がお茶とお菓子を準備して入ってきてくれた。

「リン様、お調べ物は進んでいますか? もしよろしければ教会の慈善事業で作っております紅茶と焼き菓子をお召し上がりになりませんか?」

「司教様、ありがとうございます。いただきます。あの、もしよければ司教様も御一緒に召し上がって行かれませんか? 調べものに行き詰まってしまって、話をしたい気持ちなのです」

リンが精一杯お願いすると、隣でセレスが上目遣いにコクコクと同意の頷きをしている。オメガ二人のお願いで効かないワケがないだろう? とリンも上目遣いを頑張ってみる。

途端に顔を真っ赤にして鼻の下が伸びた顔をする中年男性司教。
「いやはや、まいりました。貴族オメガ様は特別な存在と聞いていましたが、これほど愛らしい存在とは……。いや、何でもありません。私で良ければ喜んで同席いたします」

ご機嫌で席についてくれる司教。リンとセレスは机の下でガッツポーズを決めた。教会の紅茶は香りが良く飲みやすいお茶だった。リンがお茶を飲むと、セレスが司教に聞き始める。

「司教様、僕は隣領地ニッゼン子爵家のオメガです。今回、幼馴染である伯爵家のリンに大きな縁談が来たことでオメガとして不安になってしまったのです」

「おや、何をご不安に思ったのですか?」
相談されたと思い司教が嬉しそうにセレスを見る。

「はい。もし縁談が来たらオメガは嫁ぐことになります。僕の場合は住み慣れた子爵家から離れて、良く知らない嫁ぎ先に行くでしょう。知らない場所で孤独に生きるのは辛いです。どうすれば良いオメガとして大切にされるのでしょうか?」

セレスがウルウルな瞳で縋るように司教を見つめる。茶色の軽い癖毛が愛らしいセレスに見つめられて司教が顔を真っ赤にしている。リンは(セレス、やるなぁ)と尊敬してしまった。

「あぁ、子爵家のご子息オメガ様。あなた様はご自分の魅力に自信を持てば大丈夫です。今のように素直にお気持ちを出せばいいのです。リン様やあなた様は神に愛されたオメガです。そこに居るだけで大切に愛してもらえますから、大丈夫です」

司教がセレスの手を握り感極まったようにウンウン頷いている。急に手を握られたセレスは驚いて上体を反らして拒否の表情をしている。リンに目線で助けを求めるセレス。これは止めないとマズイ。

「司教様、セレスの手をお放しください。セレスは伯爵家との婚約が決まりそうなのです。むやみに触れますと子爵家伯爵家の双方から警告がいきます」

伯爵家の婚約はリンとの約束だったからすでに反故になったけれど、それでもセレスを守るためなら小さな嘘くらいリンは平気だ。リンの言葉にハッと手を離す司教。

「申し訳ありません。感極まってしまいました。大変な失態、お許しください」
リンとセレスに膝をつく司教を会釈で許す。

「大丈夫です。ためになるお話をありがとうございました。では、また調べものを二人で続けます。終わりましたらお声をかけます」

セレスが声をかけると司教がペコペコ謝りながら退席した。
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