9 / 47
Ⅳ 嫌われ作戦は成功? 失敗?
①
しおりを挟む
自室でソワソワしながらリンは待った。午後のお茶の時間のあと、一人で過ごしたいとハカルに伝えて侍女を下がらせた。もう二度と殿下に襲われないために、今日は抑制剤を倍量内服している。
リンは脳内シュミレーションをする。『僕は可愛いからね』とか『僕が可愛いのは当然だ』と言うタイミングはどうしたら良いのだろう。急に唐突に言うわけにはいかない。
殿下から『リンは可愛い』と言われたら、当然だという顔をして言うのが良いかもしれない。それが一番スムーズだ。そのためには、可愛いとか綺麗とか、誉め言葉を引き出さなくてはいけない。
リンは鏡の前に行き自分を見る。褒められるためにいつもと違う雰囲気を作るほうがいい。髪にオイルをつけて手触りをよくする。セレスと髪の毛のいじり合いをしていたから編み込みも綺麗にできる。片側だけ耳にかけるように編み込めば、リンの顎のラインが見えて少しは見栄えが良い。大きな猫の様な瞳が目立つ。リンは化粧が苦手だから顔は軽くパウダーをするだけ。唇だけ薄いピンクの紅を塗る。そうするとリンの黒髪とピンクの艶唇が肌の白さを際立出せる。
首の金製保護帯を磨いてストールで隠す。鏡で服装の乱れをチェックする。派手過ぎず、清楚なのに華やかさをまとい完璧だと思う。鏡に映る自分を見て、自分はオメガなのだな、とリンは思う。もしリンが筋肉ムキムキのベータならばこんな苦労は無かっただろうな、と溜息をつく。
『ピンコーン』
独特の訪室を知らせるチャイム音。侍女が不在のためリンが自室玄関の扉を開ける。扉の先に平服の殿下。黒いボトムと白クルーネックTシャツにアクセサリーを合わせて、街の若者風だ。まるで舞台俳優のようだ。カッコよさに圧倒されてリンは見惚れてしまった。
カロール殿下の顔を見れば、真っ赤になり目線を泳がせている。あまり殿下と目を合わせないようにリンは下を見る。
「リン、すごく、可愛い。良く似合っているね。髪型も素敵だ」
真っ赤な顔をした殿下の誉め言葉につられてリンも顔が熱を持つ。熱い。
「カロール殿下も、素敵です」
つい正直に感想を伝えてしまった。リンは自画自賛ナルシストオメガを演じるのだ、と思い出す。
「ま、まぁ、僕が可愛いのは、いつもの事ですけど」
頬が熱いままで言葉にしてみて、恥ずかしい様な変な気持ちが沸き上がる。自画自賛するって照れることなのだと知った。リンはまたしても『これは失敗だ……』と思った。
「うん。リンはいつも可愛いよ。愛らしくて綺麗だ」
少しかがんだカロール殿下がリンの手を恭しく手に包み込む。そのまま膝をつきリンの手にキスをする殿下。その行為にリンは心臓が止まりそうになる。
「いけません! 殿下、僕などに膝をついてはいけません! 臣下の僕が跪くのならまだしも、僕にこのようなことをなさらないで下さい!」
見られていないか周囲を確認する。廊下に誰もいない。侍女たちの姿はない。こんな場面を見られたらハカルに叱られてしまう。誰にも見られていないことにリンはホッと胸を撫でおろす。
「俺がしたいからいい。俺が膝をつく相手は国王陛下とリンだけだ」
膝をついたままの殿下に見上げられて目線が外せない。殿下がキラキラ輝いて見える。息が止まりそうなほどの心臓のドキドキ。たまらずにリンの膝がカクリと折れそうになる。その直前で殿下が立ち上がりリンの背を支えてくれる。
「体調が万全ではないのだろう? 熱が出たあとで、怪我も負わせているし。いつも気が回らなくて俺はダメだな。今日は俺が全て支える。酒は無理に飲まなくていい。酒場にこだわるのは止めよう。夜のお忍びデートだと思えば気が楽だろう?」
リンはカロール殿下の発言に驚いた。昨日朝食を一緒に食べたときにはこんな気遣いは無かった。どうしたのだろうか。いつ、リンの体調に気が付いたのだろう。
「さぁ、行こう」と背中を支えられて移動する。城内を歩くと、どこに行くのか気を張ることに精一杯になり、リンの小さな疑問は消え去っていた。
城の中を歩いているのに城内で誰とも会っていない。静かさに不安になる。
「誰も、いないです」
「使用人の城内会議かな?」
「そんなのがあるのですね。これほど人が居ない城内は初めてです」
「だから今日は脱走日和だ」
支えられた背中から殿下が楽しそうに笑う振動が伝わってくる。
「もしかして、殿下はお忍びでお出かけすることがあるのですか?」
「う~~ん、そこは想像に任せるよ」
「あ、リンは馬には乗れる?」
「すみません。乗馬はできません」
「そうか。では、俺と一緒でいいよね」
鼻歌でも歌い出しそうなカロール殿下。伯爵領ではリンの移動は全て馬車だった。幼い頃に兄や父に馬に乗せてもらったことがあるが一人で乗ったことはない。
「はい。お願いします」
そう答えてチラリとカロール殿下を見上げる。直ぐに殿下と目が合う。間近で殿下の顔を見てしまいリンの顔が火照る。すぐに目線を前に戻し、顔の熱が引くようにひたすら願った。
抑制剤を倍量飲んで良かったと胸を撫でおろす。今日は心臓を射貫くような良い匂いがしない。きっとあの匂いはアルファのフェロモンだ。
リンは脳内シュミレーションをする。『僕は可愛いからね』とか『僕が可愛いのは当然だ』と言うタイミングはどうしたら良いのだろう。急に唐突に言うわけにはいかない。
殿下から『リンは可愛い』と言われたら、当然だという顔をして言うのが良いかもしれない。それが一番スムーズだ。そのためには、可愛いとか綺麗とか、誉め言葉を引き出さなくてはいけない。
リンは鏡の前に行き自分を見る。褒められるためにいつもと違う雰囲気を作るほうがいい。髪にオイルをつけて手触りをよくする。セレスと髪の毛のいじり合いをしていたから編み込みも綺麗にできる。片側だけ耳にかけるように編み込めば、リンの顎のラインが見えて少しは見栄えが良い。大きな猫の様な瞳が目立つ。リンは化粧が苦手だから顔は軽くパウダーをするだけ。唇だけ薄いピンクの紅を塗る。そうするとリンの黒髪とピンクの艶唇が肌の白さを際立出せる。
首の金製保護帯を磨いてストールで隠す。鏡で服装の乱れをチェックする。派手過ぎず、清楚なのに華やかさをまとい完璧だと思う。鏡に映る自分を見て、自分はオメガなのだな、とリンは思う。もしリンが筋肉ムキムキのベータならばこんな苦労は無かっただろうな、と溜息をつく。
『ピンコーン』
独特の訪室を知らせるチャイム音。侍女が不在のためリンが自室玄関の扉を開ける。扉の先に平服の殿下。黒いボトムと白クルーネックTシャツにアクセサリーを合わせて、街の若者風だ。まるで舞台俳優のようだ。カッコよさに圧倒されてリンは見惚れてしまった。
カロール殿下の顔を見れば、真っ赤になり目線を泳がせている。あまり殿下と目を合わせないようにリンは下を見る。
「リン、すごく、可愛い。良く似合っているね。髪型も素敵だ」
真っ赤な顔をした殿下の誉め言葉につられてリンも顔が熱を持つ。熱い。
「カロール殿下も、素敵です」
つい正直に感想を伝えてしまった。リンは自画自賛ナルシストオメガを演じるのだ、と思い出す。
「ま、まぁ、僕が可愛いのは、いつもの事ですけど」
頬が熱いままで言葉にしてみて、恥ずかしい様な変な気持ちが沸き上がる。自画自賛するって照れることなのだと知った。リンはまたしても『これは失敗だ……』と思った。
「うん。リンはいつも可愛いよ。愛らしくて綺麗だ」
少しかがんだカロール殿下がリンの手を恭しく手に包み込む。そのまま膝をつきリンの手にキスをする殿下。その行為にリンは心臓が止まりそうになる。
「いけません! 殿下、僕などに膝をついてはいけません! 臣下の僕が跪くのならまだしも、僕にこのようなことをなさらないで下さい!」
見られていないか周囲を確認する。廊下に誰もいない。侍女たちの姿はない。こんな場面を見られたらハカルに叱られてしまう。誰にも見られていないことにリンはホッと胸を撫でおろす。
「俺がしたいからいい。俺が膝をつく相手は国王陛下とリンだけだ」
膝をついたままの殿下に見上げられて目線が外せない。殿下がキラキラ輝いて見える。息が止まりそうなほどの心臓のドキドキ。たまらずにリンの膝がカクリと折れそうになる。その直前で殿下が立ち上がりリンの背を支えてくれる。
「体調が万全ではないのだろう? 熱が出たあとで、怪我も負わせているし。いつも気が回らなくて俺はダメだな。今日は俺が全て支える。酒は無理に飲まなくていい。酒場にこだわるのは止めよう。夜のお忍びデートだと思えば気が楽だろう?」
リンはカロール殿下の発言に驚いた。昨日朝食を一緒に食べたときにはこんな気遣いは無かった。どうしたのだろうか。いつ、リンの体調に気が付いたのだろう。
「さぁ、行こう」と背中を支えられて移動する。城内を歩くと、どこに行くのか気を張ることに精一杯になり、リンの小さな疑問は消え去っていた。
城の中を歩いているのに城内で誰とも会っていない。静かさに不安になる。
「誰も、いないです」
「使用人の城内会議かな?」
「そんなのがあるのですね。これほど人が居ない城内は初めてです」
「だから今日は脱走日和だ」
支えられた背中から殿下が楽しそうに笑う振動が伝わってくる。
「もしかして、殿下はお忍びでお出かけすることがあるのですか?」
「う~~ん、そこは想像に任せるよ」
「あ、リンは馬には乗れる?」
「すみません。乗馬はできません」
「そうか。では、俺と一緒でいいよね」
鼻歌でも歌い出しそうなカロール殿下。伯爵領ではリンの移動は全て馬車だった。幼い頃に兄や父に馬に乗せてもらったことがあるが一人で乗ったことはない。
「はい。お願いします」
そう答えてチラリとカロール殿下を見上げる。直ぐに殿下と目が合う。間近で殿下の顔を見てしまいリンの顔が火照る。すぐに目線を前に戻し、顔の熱が引くようにひたすら願った。
抑制剤を倍量飲んで良かったと胸を撫でおろす。今日は心臓を射貫くような良い匂いがしない。きっとあの匂いはアルファのフェロモンだ。
266
あなたにおすすめの小説
黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜
せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。
しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……?
「お前が産んだ、俺の子供だ」
いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!?
クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに?
一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士
※一応オメガバース設定をお借りしています
【完結済み】準ヒロインに転生したビッチだけど出番終わったから好きにします。
mamaマリナ
BL
【完結済み、番外編投稿予定】
別れ話の途中で転生したこと思い出した。でも、シナリオの最後のシーンだからこれから好きにしていいよね。ビッチの本領発揮します。
[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません
月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない?
☆表紙絵
AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。
りんご成金のご令息
けい
BL
ノアには前世の記憶はあったがあまり役には立っていなかった。そもそもあまりにもあいまい過ぎた。魔力も身体能力も平凡で何か才能があるわけでもない。幸いにも裕福な商家の末っ子に生まれた彼は、真面目に学んで身を立てようとコツコツと勉強する。おかげで王都の学園で教育を受けられるようになったが、在学中に両親と兄が死に、店も乗っ取られ、残された姉と彼女の息子を育てるために学園を出て冒険者として生きていくことになる。
それから二年がたち、冒険者としていろいろあった後、ノアは学園の寮で同室だった同級生、ロイと再会する。彼が手を貸してくれたおかげで、生活に余裕が出て、目標に向けて頑張る時間もとれて、このまま姉と甥っ子と静かに暮らしていければいいと思っていたところ、姉が再婚して家を出て、ノアは一人になってしまう。新しい住処を探そうとするノアに、ロイは同居を持ち掛ける。ロイ×ノア。ふんわりした異世界転生もの。
他サイトにも投稿しています。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟第10回BL小説大賞(2022年)奨励賞。2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞での応援ありがとうございました!
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます
ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。
しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。
——このままじゃ、王太子に処刑される。
前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。
中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。
囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。
ところが動くほど状況は悪化していく。
レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、
カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、
隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。
しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。
周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり——
自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。
誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う——
ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる