アルファ王子に嫌われるための十の方法

小池 月

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Ⅴ 突然の転落

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カロール殿下と城内の庭園散歩。庭園散歩はリンの日課。カロール殿下は剣術や体術、馬術の鍛錬があり身体を動かしているが、リンは城内散歩を日課にしないと体力が低下する。

カロール殿下は時々リンの散歩に付き添ってくれる。殿下は公務で忙しく毎日とはいかないけれど、リンとの時間を作ろうとしてくれているのが伝わってくる。

「ほら、クリスマスローズが咲いている」
殿下の声に薄紫色の花を見る。初秋に王城に来てから、もう四ヶ月を越える。早いなぁとリンは思う。

「もう、冬ですね」
「空気が冷えるよね。長い散歩はやめておこう」
優しく微笑むカロール殿下を見上げる。聞いてみたい疑問がリンに浮かぶ。聞いても良いのか少し悩む。

「なに? 何か気になる?」
「はい。どうして、僕なのでしょうか? カロール殿下のお相手は、侯爵家や王都にいる伯爵家のご令嬢やオメガでよろしかったのではないのですか?」

少しの沈黙。花を眺めていた殿下がリンを見る。

「うん。しっかり答えたほうがいいよね。正直に話すよ。王都では貴族の権力争いがあってね。王都の侯爵家たちがちょっと、ね。それに触発されて伯爵家たちもギクシャクしている。父には俺しか子がいないから、俺の妃に入る家が将来の王政で権力を持つ。わが国は他国と違い一夫一妻制度だから王家に側室がない。誰が『妃』という一つの椅子に着くかで貴族間戦争でも起きそうな状態なんだよ」

聞いていて、リンにもなんとなく話の流れが見えてきた。

「貴族の争いに巻き込まれないために、僕を使ったのですね」
「うん。始めはそうだった。侯爵家や伯爵家のいがみ合いに関係のない貴族から婚約者を決めれば丸く収まると思った。それで、男性オメガで独身のリンが選ばれた」

「ジャルル家は田舎貴族で、王政に関わりが薄くてしがらみがない。殿下にとって都合が良かったのですね」

「うん。俺は、男オメガという生きにくい存在が王子の婚約者になれるのならば、相手にとっていい話だろうと思い込んでいた。だが、ベランダで泣きながらフクロウと話すリンを見て、自分がしたことは正しかったのか分からなくなった」

カロール殿下がそっとリンの首の保護帯を触る。

「王太子の婚約者という地位と名誉が貰えるならばリンは十分幸福であろうと思っていた。俺は思い上がっていた。リンの保護帯は『最高級の品なら何でもいい。贈ってしまえ』と指示をした。今では、その全てが傲慢で反省すべきことであったと思っている」

カロール殿下がその場に膝をつく。リンは驚いて周囲を見る。城の者に見られたら何を言われるか分からない。

「リン、申し訳なかった。俺が間違っていた。リンの言葉の一つ一つが俺の心に刺さった。俺に嫌われようと頑張る姿が、リンのオメガの香りが、リンの笑顔が、リンの全てが俺の特別になった。これほど心が動かされるのはリンだけだ。リン、愛している。俺と、結婚して欲しい」

リンの手を取り、煌くブレスレットを触りながら殿下がリンの手にキスをする。リンの手の甲が熱くなる。リンは心が震えるほどの喜びを感じた。涙が流れる。温かい涙だ。リンは答えに迷わなかった。セレスに心で謝る。

「はい。僕も、愛しています」
リンを見上げていたカロール殿下が立ち上がりリンを抱き締める。『愛している』と繰り返しながらリンを抱き締める殿下が、愛おしいとリンは思った。


「ところでさ、ここまで聞けなかったことを俺も聞いて良いか?」
カロール殿下の質問にリンは頷く。
「はい。なんでしょうか?」

「セレスってニッゼン子爵家の男オメガだよな? まぁ、その、リンとは、恋人、だったのかな?」

「そうですね。恋人として付き合っていました。でも今思えばセレスとの関係は友達の延長でした。付き合うといっても軽くキスをしてデートする程度です。セレスは大切な存在ですが、カロール殿下に僕が抱く思いとは全然違う感覚です」

「そっか。そうなのか。あぁ、良かった。もう、本当に安心した。ずっとセレスの存在が気になっていた。その、セックスとか、していない?」

「ブハっ。僕とセレスがセッ……何考えているんですか。僕たちはプラトニックな関係です。互いの幸せを祈り合える、そんな仲です」

「ふうん。じゃ、同性の親友みたいなものだな」
殿下に言われてリンは『そうか』と気が付く。大好きだけど殿下への想いとは違う。セレスへの想いは『親友』だ。




「では、リン。一週間だけだから。体調に気を付けているのだよ。それから、危ないことはしてはいけないから。お酒は飲まないように。いいね? 城外には出てはいけないよ。あぁ、心配だ」

カロール殿下は本日から一週間、地方視察に出かける。この過剰な心配ぶりが数日続いている。

リンを連れて行くと殿下は騒いだが、公務に婚約者が同行するなど前代未聞だ。リンが王太子妃になれば付いていくことは出来るけれど。そんなことを考えてリンは赤面する。カロール殿下との未来も、悪くないと思う。最近はそんな事を考えてぼんやりしてしまう。

「リン、大丈夫? やっぱり視察はやめようか?」
心配そうな殿下にリンはハッと我に返る。

「大丈夫です。ぼんやりして申し訳ありません。殿下、公務です。休まずに日程をこなしてきてください。僕のせいで殿下が腑抜けになったと評価されるのは嫌です」
リンの言葉にニッコリ笑うカロール殿下。

「分かっているよ。素晴らしいオメガ婚約者を自慢して歩きたいのだが、それは結婚してからの楽しみにしておく」
カロール殿下がリンの耳元で囁く。独特の低く響く声にリンの背中がゾワリとする。ジンとするリンの腰。深呼吸して『公衆の場だ』と自分に言い聞かせる。

「カロール殿下、ご無事の帰りをお待ちしております」
気を取り直してリンはとびっきりの笑顔でカロール殿下に微笑みかけた。リンの微笑みにカロール殿下が頬を染めて笑い返してくれる。リンに近づくと正面から触れるだけのキスをする殿下。

「カ、カロールさま!」
慌ててリンがカロール殿下の腕から逃げようとするが、ぎゅっと抱きしめられる。その腕の強さにリンは抵抗をやめた。カロール殿下に腕を回し抱きしめ返す。相変わらず大きな身体でリンの腕は回りきらない。

「行ってくる。留守を頼んだよ」
「はい」

近衛兵を警備につけてカロール殿下が出発した。リンは一行が見えなくなるまで見送った。
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