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Ⅴ 突然の転落
④
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リンが起き上れるようになり数日が経過した。毎朝リンの部屋にドーラ殿下が訪室する。
「やあ、リン。おはよう。少しは動いている?」
「ドーラ王子殿下。おはようございます。日中は室内を歩くようにしております。ご心配、感謝いたします」
声をかけに立ち寄ってくれるドーラ殿下に丁寧にお礼を伝える。この人に失礼が無いように細心の配慮をリンは心がけている。ここで捨てられたらリンは生きて行けない。
「今日、体調が良ければ十時のお茶を一緒にどうかな?」
「はい。喜んで」
痛みは改善している。熱も引いた。今後について話をしなくてはいけない。リンは覚悟を決めて左腕に輝くブレスレットを握りしめた。
リンは十時に温室に来るよう指示を受けた。寝巻の様な室内着から、用意してもらった服に着替えた。服はアローラ国のものと変わりなかった。ザザ国とアローラ国は領土問題で戦争をしたことがあり国交が途絶えているため、互いに警戒している。そんな状況のザザ国に居ることがリンの緊張を高ぶらせる。
「こちらでございます」
案内してくれる侍女に従い城の中を移動した。アローラ国の王城に比べてこじんまりした城。もしかしたら別荘程度の場所かもしれないと想像する。
一階に温室があった。その中に入るよう促される。
「失礼します」
「どうぞ。リン、こちらに」
温かな温室に様々な花。瑞々しい緑が花の美しさを際立たせている。その中心に東屋のように豪華なテーブルセット。テーブルの上には洋菓子とフルーツが並ぶ。リンが席に着くと侍女が温かいお茶を注いでくれる。
「さて、リン。城内を歩いても息切れや苦しさ、痛みは出ない?」
「はい。大丈夫です」
背中の痛みは我慢できないほどではない。
「では、少し長く話しても大丈夫だろうか?」
「はい」
一度紅茶を飲むドーラ王子。リンも一口いただく。温かくて渋みの少ない、飲みやすい味だ。
「リンが今後どうしたいか、聞きたい」
ドーラ王子の言葉にリンは深呼吸して答える。
「はい。僕はアローラ国を国外追放になりました。罪状は良く理解できませんでした。僕とカロール殿下は愛し合っていましたが、侯爵家の令嬢に嵌められたのだと思います。僕が居なければ侯爵家がカロール殿下の婚約者になれると言っていました。カロール殿下不在の時に侯爵家の権限で罪人とされました。本来ならカロール殿下に会いに行きたいです。でも、背中の罪人の焼き印。それに鞭の痕。これを背負ってカロール殿下に会うなど出来ません。もう、僕はアローラ国に戻ることは、出来ないと思っています」
悔しくて苦しくてリンは唇を噛みしめた。
「そうか。大変だったね。では、リン・ジャルルの名を捨てて、このザザ国で生きるか? そうだな。この国で生きるのならば、侍女や侍従などの下働きでも出来るかな?」
「はい。何でもします」
どうせ伯爵家にもアローラ国にも戻れない。名を捨てても構わなかった。
「いや、冗談だ。さすがに首に金の保護帯をつけた者を下働きなど、絶対無理だ。金の保護帯はどの国でも上級貴族と王族しか身につけない。さらに着けている間は王家や貴族に身を置く者である証だ。通常離縁や勘当、罪人となれば保護帯は外される。それを外されていないとなるとリンはまだ王家縁の者となる。今のはリンの覚悟を知りたかっただけだ」
あはは、と笑うドーラ殿下。リンは心の中でつぶやく。
(冗談に聞こえなかった……)
気を取り直してドーラ殿下に声をかける。
「保護帯は侯爵家の者では外せなかっただけです。この鍵はカロール殿下が所持していますから」
「そうか。ま、我が国に居ればいい。客人一人養えないほど貧困国ではないよ。リンは俺の客人だ。将来的に行くあてがなければ、この城の管理監督でもしたらいい。ここは国境近くに去年建てた別荘だ。なぜ、ここに建てたと思う?」
「え? 国境警備のため、ですか?」
「違うよ! セレスがいるからだよ!」
突然興奮したように大きな声を出すドーラ殿下。
「いやぁ、あれはよく晴れた春の日だよ。狩りで森を駆け抜けていたら、知らないうちにアローラ国に入ってしまっていた。そのことに気が付いて隠れるようにザザ国に戻る道を探していたら、天使に出会ったのだ。あの茶色の髪の毛。フワフワした癖毛にドングリの様な大きな瞳。白い肌がまた愛らしくて。知っているか? セレスは片頬に笑窪ができるのだぞ。はぁ、天使だ」
うっとりと頬を染めるドーラ殿下。リンは口を開けて呆けてしまった。
「もしかして、セレスが言っていた『一度だけ会ったアルファ』ってドーラ殿下ですか?」
「はあぁあ! セレスが俺の話題を、幼馴染に、したのかぁ! もう、嬉し死にする! もう、興奮で鼻血が止まらん」
椅子から立ち上がりグネグネ身もだえする姿にリンは静止してしまった。この人、ちょっと気色悪いかもしれない。これまで出会ったことがないタイプだ。
「笑窪は左頬の下ですよね」
「そうそう! 愛らしいよね。口角下ってのがまた良い」
悦に入っているドーラ殿下が面白くて可笑しくて、リンはクスリと笑った。
「うん。リンも笑っているほうが良い。ここはアローラ国ではない。リンは俺の客人だ。ゆっくり静養すればよい」
優しい王子顔に戻るドーラ殿下。くるくると表情が変わる面白い人だ。
「ありがとうございます。助けてくださり、心から感謝申し上げます。それに今後のことまで考えてくださりありがとうございます。僕にできる事は何でも致します」
ドーラ殿下に深く頭を下げる。
「では、今後、詳しくアローラ国の事を教えてくれ」
「はい。僕は男性オメガであり国政に関与しておりません。地方貴族の領地管理としての税金管理と産業収益管理の手伝い程度しか知識がありません。それでよければ全面的にご協力します」
「リン、それ本気で言っているの?」
「はい」
「もしかして、リンってクソ真面目? 今の話はさぁ、『アローラ国の事を教えてくれ』ってカッコつけて言っているけどさ、毎日暇さえあればセレスの話をしようって意味じゃないか」
半目でリンを睨んでいるドーラ殿下。貴族や王家でこんな人は見たことが無い。可笑しくて小さく笑って「それでしたら、喜んで」とお伝えした。
リンが笑うとドーラ殿下も笑ってくれた。笑うと少し心が晴れた。
「やあ、リン。おはよう。少しは動いている?」
「ドーラ王子殿下。おはようございます。日中は室内を歩くようにしております。ご心配、感謝いたします」
声をかけに立ち寄ってくれるドーラ殿下に丁寧にお礼を伝える。この人に失礼が無いように細心の配慮をリンは心がけている。ここで捨てられたらリンは生きて行けない。
「今日、体調が良ければ十時のお茶を一緒にどうかな?」
「はい。喜んで」
痛みは改善している。熱も引いた。今後について話をしなくてはいけない。リンは覚悟を決めて左腕に輝くブレスレットを握りしめた。
リンは十時に温室に来るよう指示を受けた。寝巻の様な室内着から、用意してもらった服に着替えた。服はアローラ国のものと変わりなかった。ザザ国とアローラ国は領土問題で戦争をしたことがあり国交が途絶えているため、互いに警戒している。そんな状況のザザ国に居ることがリンの緊張を高ぶらせる。
「こちらでございます」
案内してくれる侍女に従い城の中を移動した。アローラ国の王城に比べてこじんまりした城。もしかしたら別荘程度の場所かもしれないと想像する。
一階に温室があった。その中に入るよう促される。
「失礼します」
「どうぞ。リン、こちらに」
温かな温室に様々な花。瑞々しい緑が花の美しさを際立たせている。その中心に東屋のように豪華なテーブルセット。テーブルの上には洋菓子とフルーツが並ぶ。リンが席に着くと侍女が温かいお茶を注いでくれる。
「さて、リン。城内を歩いても息切れや苦しさ、痛みは出ない?」
「はい。大丈夫です」
背中の痛みは我慢できないほどではない。
「では、少し長く話しても大丈夫だろうか?」
「はい」
一度紅茶を飲むドーラ王子。リンも一口いただく。温かくて渋みの少ない、飲みやすい味だ。
「リンが今後どうしたいか、聞きたい」
ドーラ王子の言葉にリンは深呼吸して答える。
「はい。僕はアローラ国を国外追放になりました。罪状は良く理解できませんでした。僕とカロール殿下は愛し合っていましたが、侯爵家の令嬢に嵌められたのだと思います。僕が居なければ侯爵家がカロール殿下の婚約者になれると言っていました。カロール殿下不在の時に侯爵家の権限で罪人とされました。本来ならカロール殿下に会いに行きたいです。でも、背中の罪人の焼き印。それに鞭の痕。これを背負ってカロール殿下に会うなど出来ません。もう、僕はアローラ国に戻ることは、出来ないと思っています」
悔しくて苦しくてリンは唇を噛みしめた。
「そうか。大変だったね。では、リン・ジャルルの名を捨てて、このザザ国で生きるか? そうだな。この国で生きるのならば、侍女や侍従などの下働きでも出来るかな?」
「はい。何でもします」
どうせ伯爵家にもアローラ国にも戻れない。名を捨てても構わなかった。
「いや、冗談だ。さすがに首に金の保護帯をつけた者を下働きなど、絶対無理だ。金の保護帯はどの国でも上級貴族と王族しか身につけない。さらに着けている間は王家や貴族に身を置く者である証だ。通常離縁や勘当、罪人となれば保護帯は外される。それを外されていないとなるとリンはまだ王家縁の者となる。今のはリンの覚悟を知りたかっただけだ」
あはは、と笑うドーラ殿下。リンは心の中でつぶやく。
(冗談に聞こえなかった……)
気を取り直してドーラ殿下に声をかける。
「保護帯は侯爵家の者では外せなかっただけです。この鍵はカロール殿下が所持していますから」
「そうか。ま、我が国に居ればいい。客人一人養えないほど貧困国ではないよ。リンは俺の客人だ。将来的に行くあてがなければ、この城の管理監督でもしたらいい。ここは国境近くに去年建てた別荘だ。なぜ、ここに建てたと思う?」
「え? 国境警備のため、ですか?」
「違うよ! セレスがいるからだよ!」
突然興奮したように大きな声を出すドーラ殿下。
「いやぁ、あれはよく晴れた春の日だよ。狩りで森を駆け抜けていたら、知らないうちにアローラ国に入ってしまっていた。そのことに気が付いて隠れるようにザザ国に戻る道を探していたら、天使に出会ったのだ。あの茶色の髪の毛。フワフワした癖毛にドングリの様な大きな瞳。白い肌がまた愛らしくて。知っているか? セレスは片頬に笑窪ができるのだぞ。はぁ、天使だ」
うっとりと頬を染めるドーラ殿下。リンは口を開けて呆けてしまった。
「もしかして、セレスが言っていた『一度だけ会ったアルファ』ってドーラ殿下ですか?」
「はあぁあ! セレスが俺の話題を、幼馴染に、したのかぁ! もう、嬉し死にする! もう、興奮で鼻血が止まらん」
椅子から立ち上がりグネグネ身もだえする姿にリンは静止してしまった。この人、ちょっと気色悪いかもしれない。これまで出会ったことがないタイプだ。
「笑窪は左頬の下ですよね」
「そうそう! 愛らしいよね。口角下ってのがまた良い」
悦に入っているドーラ殿下が面白くて可笑しくて、リンはクスリと笑った。
「うん。リンも笑っているほうが良い。ここはアローラ国ではない。リンは俺の客人だ。ゆっくり静養すればよい」
優しい王子顔に戻るドーラ殿下。くるくると表情が変わる面白い人だ。
「ありがとうございます。助けてくださり、心から感謝申し上げます。それに今後のことまで考えてくださりありがとうございます。僕にできる事は何でも致します」
ドーラ殿下に深く頭を下げる。
「では、今後、詳しくアローラ国の事を教えてくれ」
「はい。僕は男性オメガであり国政に関与しておりません。地方貴族の領地管理としての税金管理と産業収益管理の手伝い程度しか知識がありません。それでよければ全面的にご協力します」
「リン、それ本気で言っているの?」
「はい」
「もしかして、リンってクソ真面目? 今の話はさぁ、『アローラ国の事を教えてくれ』ってカッコつけて言っているけどさ、毎日暇さえあればセレスの話をしようって意味じゃないか」
半目でリンを睨んでいるドーラ殿下。貴族や王家でこんな人は見たことが無い。可笑しくて小さく笑って「それでしたら、喜んで」とお伝えした。
リンが笑うとドーラ殿下も笑ってくれた。笑うと少し心が晴れた。
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