アルファ王子に嫌われるための十の方法

小池 月

文字の大きさ
17 / 47
Ⅴ 突然の転落

しおりを挟む
「どうだ。目が覚めそうか? この者の着けている首の保護帯。やはりこれはアローラ国の王族関係だ。それに、この紙。俺はこちらが気になる。これには、セレスの匂いがする」

「ドーラ王子、また幻のオメガの話ですか。全く、夢でも見たんですよ」
「いいや、セレスは幻でも妖精でもない。俺の運命だ! 実在するんだ!」

ところどころセレスの名前が聞こえて、リンは目を開ける。目を開けて自分が下向きに寝ていることに驚いた。起きようと身体を動かすと背中がズキンと痛む。
「いたぁ」

「まだ起きるな。背中の鞭の傷と火傷が化膿している。男オメガで体力抵抗力が低い上に低栄養と低体温。死ななかったのが不思議なくらいだ。木の実でも食っていたか? お前の周りに木の実が沢山落ちていたぞ」
目線を動かして椅子に座る人を見る。肩までの銀髪に青い目の精悍な男性。

「分かりません。ルーが、運んでくれたのかなぁ」
リンはうつ伏せのまま答えた。夢を見ているような不思議な感覚だった。

「ルー?」
「大フクロウの、ルー。殿下の、ペットです」
「殿下とは、アローラ国の?」
「はい」

「そうか。では君は王家の者か?」
「いえ。カロール殿下の、婚約者でした」
「婚約破棄でもされたか?」

「そうかも、しれません。僕は、反国者として処罰されました」
「それで鞭打ちと焼き印をされたのかな?」

「はい」
「そうか。君は罪を犯したのか?」

「いいえ。罪になる事はしておりません」

「そうか。冤罪ならば我が国にいても構わん。ドクター、どうだ?」
「反応はクリアです。この者は嘘を申しておりません」

声の方を向きたいが、リンは身体が動かせず周囲の様子が分からなかった。

「我が国ザザは医療分野が発展していてね。脳波で言動の虚偽が分かるんだ。枕に脳波測定のプレートをいれてある。あとで取るから。ついでにいくつか聞きたい」
「はい」

「君は男性オメガのセレスと知り合いか?」
「セレスは僕の親友で幼馴染です」

「やはり、セレスは実在するのだね! ほら、爺! 聞いたか!」
「殿下、病人の前でございます」
「そうだった。この者は国賓として扱う。セレスの幼馴染だ! えっと、そうだ。名は?」

「リンです。リン・ジャルル。アローラ国の伯爵家次男です」
「そうか。上級貴族だな。な、セレスは同じ伯爵家なのか?」

「いえ、セレスは子爵家です。領地が隣で同じ年なので仲良くしております」
リンは全身が痛くて、質問の多さに疲れを感じた。

「子爵家か。貴族であるなら俺のもとに輿入れできる。なぁ、爺、そうだろう?」
「ま、隣国とはいえ貴族でしたら正妃でいけますねぇ。相手に拒否されなければ、ですねぇ」
「爺は俺が振られるとでも言いたいのか?」
「いえいえ、滅相もございません」

明るい会話にリンはついて行けない。これが夢かもしれないけれど、状況を把握しなくてはいけない。自分が助けてもらえたのか聞きたい。リンは頑張って気を張り目を開けているが、痛みで頭がグラグラする。

「すみません。痛みがひどくて、少し休んでいいでしょうか?」
申し訳なくて小さな声で訴えた。

「あぁ、すまない。名乗り遅れたが、俺はザザ国第一王子ドーラだ。リンの保護は俺の責任で行っている。傷の治療も行う。痛み止めを追加しよう。何かあれば俺を頼るように。とりあえず安心して休んでいい」

「はい。ありがとう、ございます」
「体調が良くなったら、セレスの話を聞かせてくれ」

陽気な王子殿下に軽く笑ってリンは眠った。痛み止めと鎮静剤で治療してもらえると聞いて安心した。これ以上、痛みには耐えられそうになかった。



 一週間、寝たきり状態で治療してもらい背中の傷はかなり良くなった。

傷の部分はカサブタが表面を覆っている。化膿したためカサブタ周囲の皮膚が赤黒く変色している。きっとカサブタが剥がれる部分はもっと色濃く痕が残っているだろう。

しかし、もう誰にも見せることはないから構わなかった。

右背部の焼き印を鏡で見た時に、もう全てが終わった、とリンは絶望した。

アローラ国では誰もが知る焼き印。性犯罪者や不貞行為をした重い罪人への印。この焼き印のある者は王族に接することなど許されない。貴族としても存在できない。絶望がリンの心を占める。リンは今後カロール殿下に会う事すら出来なくなった。

伯爵邸に戻ることも、セレスに会うことも出来ない。身体を動かすと生じる痛みの度に悲しみの波がリンを飲みこんだ。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜

せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。 しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……? 「お前が産んだ、俺の子供だ」 いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!? クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに? 一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士 ※一応オメガバース設定をお借りしています

【完結済み】準ヒロインに転生したビッチだけど出番終わったから好きにします。

mamaマリナ
BL
【完結済み、番外編投稿予定】  別れ話の途中で転生したこと思い出した。でも、シナリオの最後のシーンだからこれから好きにしていいよね。ビッチの本領発揮します。

処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます

ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。 しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。 ——このままじゃ、王太子に処刑される。 前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。 中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。 囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。 ところが動くほど状況は悪化していく。 レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、 カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、 隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。 しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。 周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり—— 自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。 誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う—— ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。

[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません

月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない? ☆表紙絵 AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

りんご成金のご令息

けい
BL
 ノアには前世の記憶はあったがあまり役には立っていなかった。そもそもあまりにもあいまい過ぎた。魔力も身体能力も平凡で何か才能があるわけでもない。幸いにも裕福な商家の末っ子に生まれた彼は、真面目に学んで身を立てようとコツコツと勉強する。おかげで王都の学園で教育を受けられるようになったが、在学中に両親と兄が死に、店も乗っ取られ、残された姉と彼女の息子を育てるために学園を出て冒険者として生きていくことになる。  それから二年がたち、冒険者としていろいろあった後、ノアは学園の寮で同室だった同級生、ロイと再会する。彼が手を貸してくれたおかげで、生活に余裕が出て、目標に向けて頑張る時間もとれて、このまま姉と甥っ子と静かに暮らしていければいいと思っていたところ、姉が再婚して家を出て、ノアは一人になってしまう。新しい住処を探そうとするノアに、ロイは同居を持ち掛ける。ロイ×ノア。ふんわりした異世界転生もの。 他サイトにも投稿しています。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟第10回BL小説大賞(2022年)奨励賞。2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞での応援ありがとうございました! 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

処理中です...