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Ⅴ 突然の転落
③
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「どうだ。目が覚めそうか? この者の着けている首の保護帯。やはりこれはアローラ国の王族関係だ。それに、この紙。俺はこちらが気になる。これには、セレスの匂いがする」
「ドーラ王子、また幻のオメガの話ですか。全く、夢でも見たんですよ」
「いいや、セレスは幻でも妖精でもない。俺の運命だ! 実在するんだ!」
ところどころセレスの名前が聞こえて、リンは目を開ける。目を開けて自分が下向きに寝ていることに驚いた。起きようと身体を動かすと背中がズキンと痛む。
「いたぁ」
「まだ起きるな。背中の鞭の傷と火傷が化膿している。男オメガで体力抵抗力が低い上に低栄養と低体温。死ななかったのが不思議なくらいだ。木の実でも食っていたか? お前の周りに木の実が沢山落ちていたぞ」
目線を動かして椅子に座る人を見る。肩までの銀髪に青い目の精悍な男性。
「分かりません。ルーが、運んでくれたのかなぁ」
リンはうつ伏せのまま答えた。夢を見ているような不思議な感覚だった。
「ルー?」
「大フクロウの、ルー。殿下の、ペットです」
「殿下とは、アローラ国の?」
「はい」
「そうか。では君は王家の者か?」
「いえ。カロール殿下の、婚約者でした」
「婚約破棄でもされたか?」
「そうかも、しれません。僕は、反国者として処罰されました」
「それで鞭打ちと焼き印をされたのかな?」
「はい」
「そうか。君は罪を犯したのか?」
「いいえ。罪になる事はしておりません」
「そうか。冤罪ならば我が国にいても構わん。ドクター、どうだ?」
「反応はクリアです。この者は嘘を申しておりません」
声の方を向きたいが、リンは身体が動かせず周囲の様子が分からなかった。
「我が国ザザは医療分野が発展していてね。脳波で言動の虚偽が分かるんだ。枕に脳波測定のプレートをいれてある。あとで取るから。ついでにいくつか聞きたい」
「はい」
「君は男性オメガのセレスと知り合いか?」
「セレスは僕の親友で幼馴染です」
「やはり、セレスは実在するのだね! ほら、爺! 聞いたか!」
「殿下、病人の前でございます」
「そうだった。この者は国賓として扱う。セレスの幼馴染だ! えっと、そうだ。名は?」
「リンです。リン・ジャルル。アローラ国の伯爵家次男です」
「そうか。上級貴族だな。な、セレスは同じ伯爵家なのか?」
「いえ、セレスは子爵家です。領地が隣で同じ年なので仲良くしております」
リンは全身が痛くて、質問の多さに疲れを感じた。
「子爵家か。貴族であるなら俺のもとに輿入れできる。なぁ、爺、そうだろう?」
「ま、隣国とはいえ貴族でしたら正妃でいけますねぇ。相手に拒否されなければ、ですねぇ」
「爺は俺が振られるとでも言いたいのか?」
「いえいえ、滅相もございません」
明るい会話にリンはついて行けない。これが夢かもしれないけれど、状況を把握しなくてはいけない。自分が助けてもらえたのか聞きたい。リンは頑張って気を張り目を開けているが、痛みで頭がグラグラする。
「すみません。痛みがひどくて、少し休んでいいでしょうか?」
申し訳なくて小さな声で訴えた。
「あぁ、すまない。名乗り遅れたが、俺はザザ国第一王子ドーラだ。リンの保護は俺の責任で行っている。傷の治療も行う。痛み止めを追加しよう。何かあれば俺を頼るように。とりあえず安心して休んでいい」
「はい。ありがとう、ございます」
「体調が良くなったら、セレスの話を聞かせてくれ」
陽気な王子殿下に軽く笑ってリンは眠った。痛み止めと鎮静剤で治療してもらえると聞いて安心した。これ以上、痛みには耐えられそうになかった。
一週間、寝たきり状態で治療してもらい背中の傷はかなり良くなった。
傷の部分はカサブタが表面を覆っている。化膿したためカサブタ周囲の皮膚が赤黒く変色している。きっとカサブタが剥がれる部分はもっと色濃く痕が残っているだろう。
しかし、もう誰にも見せることはないから構わなかった。
右背部の焼き印を鏡で見た時に、もう全てが終わった、とリンは絶望した。
アローラ国では誰もが知る焼き印。性犯罪者や不貞行為をした重い罪人への印。この焼き印のある者は王族に接することなど許されない。貴族としても存在できない。絶望がリンの心を占める。リンは今後カロール殿下に会う事すら出来なくなった。
伯爵邸に戻ることも、セレスに会うことも出来ない。身体を動かすと生じる痛みの度に悲しみの波がリンを飲みこんだ。
「ドーラ王子、また幻のオメガの話ですか。全く、夢でも見たんですよ」
「いいや、セレスは幻でも妖精でもない。俺の運命だ! 実在するんだ!」
ところどころセレスの名前が聞こえて、リンは目を開ける。目を開けて自分が下向きに寝ていることに驚いた。起きようと身体を動かすと背中がズキンと痛む。
「いたぁ」
「まだ起きるな。背中の鞭の傷と火傷が化膿している。男オメガで体力抵抗力が低い上に低栄養と低体温。死ななかったのが不思議なくらいだ。木の実でも食っていたか? お前の周りに木の実が沢山落ちていたぞ」
目線を動かして椅子に座る人を見る。肩までの銀髪に青い目の精悍な男性。
「分かりません。ルーが、運んでくれたのかなぁ」
リンはうつ伏せのまま答えた。夢を見ているような不思議な感覚だった。
「ルー?」
「大フクロウの、ルー。殿下の、ペットです」
「殿下とは、アローラ国の?」
「はい」
「そうか。では君は王家の者か?」
「いえ。カロール殿下の、婚約者でした」
「婚約破棄でもされたか?」
「そうかも、しれません。僕は、反国者として処罰されました」
「それで鞭打ちと焼き印をされたのかな?」
「はい」
「そうか。君は罪を犯したのか?」
「いいえ。罪になる事はしておりません」
「そうか。冤罪ならば我が国にいても構わん。ドクター、どうだ?」
「反応はクリアです。この者は嘘を申しておりません」
声の方を向きたいが、リンは身体が動かせず周囲の様子が分からなかった。
「我が国ザザは医療分野が発展していてね。脳波で言動の虚偽が分かるんだ。枕に脳波測定のプレートをいれてある。あとで取るから。ついでにいくつか聞きたい」
「はい」
「君は男性オメガのセレスと知り合いか?」
「セレスは僕の親友で幼馴染です」
「やはり、セレスは実在するのだね! ほら、爺! 聞いたか!」
「殿下、病人の前でございます」
「そうだった。この者は国賓として扱う。セレスの幼馴染だ! えっと、そうだ。名は?」
「リンです。リン・ジャルル。アローラ国の伯爵家次男です」
「そうか。上級貴族だな。な、セレスは同じ伯爵家なのか?」
「いえ、セレスは子爵家です。領地が隣で同じ年なので仲良くしております」
リンは全身が痛くて、質問の多さに疲れを感じた。
「子爵家か。貴族であるなら俺のもとに輿入れできる。なぁ、爺、そうだろう?」
「ま、隣国とはいえ貴族でしたら正妃でいけますねぇ。相手に拒否されなければ、ですねぇ」
「爺は俺が振られるとでも言いたいのか?」
「いえいえ、滅相もございません」
明るい会話にリンはついて行けない。これが夢かもしれないけれど、状況を把握しなくてはいけない。自分が助けてもらえたのか聞きたい。リンは頑張って気を張り目を開けているが、痛みで頭がグラグラする。
「すみません。痛みがひどくて、少し休んでいいでしょうか?」
申し訳なくて小さな声で訴えた。
「あぁ、すまない。名乗り遅れたが、俺はザザ国第一王子ドーラだ。リンの保護は俺の責任で行っている。傷の治療も行う。痛み止めを追加しよう。何かあれば俺を頼るように。とりあえず安心して休んでいい」
「はい。ありがとう、ございます」
「体調が良くなったら、セレスの話を聞かせてくれ」
陽気な王子殿下に軽く笑ってリンは眠った。痛み止めと鎮静剤で治療してもらえると聞いて安心した。これ以上、痛みには耐えられそうになかった。
一週間、寝たきり状態で治療してもらい背中の傷はかなり良くなった。
傷の部分はカサブタが表面を覆っている。化膿したためカサブタ周囲の皮膚が赤黒く変色している。きっとカサブタが剥がれる部分はもっと色濃く痕が残っているだろう。
しかし、もう誰にも見せることはないから構わなかった。
右背部の焼き印を鏡で見た時に、もう全てが終わった、とリンは絶望した。
アローラ国では誰もが知る焼き印。性犯罪者や不貞行為をした重い罪人への印。この焼き印のある者は王族に接することなど許されない。貴族としても存在できない。絶望がリンの心を占める。リンは今後カロール殿下に会う事すら出来なくなった。
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