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Ⅸ リンの生きる場所
⑤
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翌朝目覚めるとカロール殿下とドーラ殿下がソファーの下の床に布団を運んで寝ていた。殿下二人が床にゴロ寝している現状にリンとセレスは飛び起きてしまった。
「どうしよう。これ、僕たちは不敬罪にならない?」
「ちょっと考えられない状況で、どうしようか」
身分の低いリンとセレスがソファーを使い王子殿下二人が床にいるなど咎められても仕方が無い。夜が遅かったのか二人とも爆睡している。
起こさないようにリンはソファーから立ち上がる。そっとカロール殿下を見ると、リンの服を抱え込んでいる。その姿に吹き出しそうになりセレスに目線を向ける。
するとセレスは下を向いて笑いをかみ殺している。セレスに目線で『ドーラ殿下もセレスの服を抱えている?』とたずねるとセレスが手招きする。
リンがセレスの傍にいきドーラ殿下を見ると、一抱え分のセレスの服を抱きかかえていた。これにはさすがに笑いが我慢できず「ブハッ」と吹き出してしまった。
「リン、笑うなよぉ。せっかく我慢していたのに」
「いやいや、これは笑うだろ」
小声で囁き合いキッチンに避難する。直視していたら笑いが我慢できない。
気持ちを立て直すためにキッチンで座り込み、コソコソ会話していた。
「リン! リンがいない!」
「何? あ! セレスもいない!」
急な叫び声にリンとセレスがビクっとなる。
『ここです』と言う前にカロール殿下の叫びが響く。
「衛兵! すぐに城中を探せ! 不審者は皆捕まえろ! 城から一人も出すな! 城中の者を総動員してリンを見つけろ! 万が一リンに何かあったら全員処刑するぞ!」
ものすごい圧を感じてリンとセレスが震えあがる。心臓が痛い感覚。「ここに居ます」と言いたいのに声が上げられない。
呼吸が苦しくて冷汗が出る。苦悶の表情のセレスが息のような声で「ドーラ」と呼んだ。
「まて! セレスだ! カロール、室内にいる。威圧を解くんだ!」
すぐにドーラ殿下がキッチンを覗く。苦しさに冷汗が出ていたリンとセレスは床に座り込んだまま動けずにいた。
「セレス! 大丈夫か?」
すぐにドーラ殿下がセレスを抱き上げる。セレスが震えながらドーラ殿下にしがみ付くのをリンは見ていた。
「リン! ゴメン、室内にいると思わなくて」
リンのところにも青い顔をしたカロール殿下が駆け付ける。ドーラ殿下に甘えるセレスを見たせいだろうか、リンもカロール殿下に抱きつく。
「悪いが一部屋借りる。セレスのケアを優先したい」
ドーラ殿下とセレスがベッドルームに入り扉を閉めた。
「リン。俺だけに集中して。俺のフェロモン、分かる?」
リンはカロール殿下の腕の中で頷きを返す。
「ごめん。焦っちゃった。居なくなったと思った。心が破裂しそうになってアルファの威圧が出てしまった。怖かったよね。もう大丈夫だから」
カロール殿下の清涼な若木の匂いがリンを包む。
温かな抱擁と幸福な匂いにリンの心が満たされる。芯まで冷えた身体が生き返るようだ。このまま寝てしまいそうな安心感があるけれど、十分睡眠をとったおかげで眠れそうにない。
「もう、大丈夫です」
三十分ほどでリンの気持ちが落ち着いた。慈しむように包んでくれていたカロール殿下の腕から抜け出る。
「うん。ごめんね。リンは発情期を迎えた後だからこれで大丈夫だったか。セレスは、ちょっとマズいかな。発情を誘発してしまったかも。もしかしたら一週間ほど王城に滞在になるかも、な。タイミングを見てセレスたちにはドーラの部屋に移ってもらおう。そうなったら俺がリンと居てもいい?」
ドーラ殿下とセレスが籠っている寝室から甘い香りが漏れている。
「はい。セレスは大丈夫でしょうか?」
「ドーラが付いている。セレスには申し訳ない事をしてしまったが、あとはドーラに任せるしかない。」
「そうですね」
ガチャリとドアが開いてドーラ殿下がシーツに包んだセレスを抱えて出て来た。ドーラ殿下のフェロモンが強くてリンはカロール殿下の後ろに隠れる。
「リン、俺の後ろから出ないで」
リンがカロール殿下のフェロモンに守られる。
「カロール、俺の部屋に戻る。セレスが発情した。終わるまで籠る。ザザ国の護衛を城内につけるが許してほしい。あとは侍女を数名頼めるか?」
「もちろんだ。俺の威圧のせいだ。悪かった。ドーラの身の安全はアローラ国国王陛下の名にかけて保障する。全面的にサポートするからセレスだけに集中してくれ」
「助かる」
いつの間にか現れたザザ国の護衛と共にドーラ殿下が早足で立ち去った。ドーラ殿下の腕の中のセレスは頭からシーツにくるまれていて様子が全く分からなかった。
「換気しようか。フェロモンが凄かったね」
「はい。カロール殿下以外のアルファのフェロモンは初めてです。嫌ではないけれど、カロール殿下の匂いに比べて胸やけがしそうな感覚です」
「なるほど。そう感じたのか。俺も同じ。セレスのオメガフェロモンは甘くて強烈だけど、リンの匂いを知っているから惹かれはしない」
カロール殿下が侍女を呼んで部屋の換気と片付け、ドーラ殿下の状況と護衛の指示、サポートの指示、朝食用意を指示する。ついでに先ほどの城内の護衛兵へのリンを探す指示を取り消していた。
あっという間に綺麗に片付いた室内。ついでに大きな檻が運ばれてルーがこの部屋に来た。これには飛び上がるほど喜んでしまった。
「ルーだ! 書斎の檻ごと移して大丈夫なのですか?」
「いいよ。ルーは昨日から『リンに会わせろ』って檻をガジガジしていたから、ここに居るほうがお互いに良さそうだ」
早速リンはルーに近寄る。
「ルー。また一緒にいられるね。昼間だから休んでいてね。夜にまたお散歩しよう。ルーが飛ぶ姿をまた見たいな」
リンが話しかけるとルーが目をクリクリさせて優しい表情をする。
「じゃ、夜にお茶会としようか。王城に長く居るつもりは無かったのだが、これも運かもしれん。リンと二人の貴重な時間だ。楽しまなくては勿体ない」
「では僕は終戦記念祝賀祭でにぎわう市街地を見てみたいです」
「ブハッ!」
急にカロール殿下がむせ込む。驚いてリンは殿下の背中をさする。
「どうされたのですか?」
「いや、何でもない。その、ちょっと思い出し笑いと言うか。ははは。リンが市街地に行きたいと言ったのは二回目だからね。懐かしくて」
カロール殿下は嬉しそうに笑っている。
「では僕は王都の終戦記念祭を見るのは二回目ですか?」
「いや。リンが王城に来たのは初夏の終戦記念祭の後だ。そこからここに居たのは半年弱だ。その半年が俺の全てを覆すような濃い時間だった」
「どういうことですか? 半年しかカロール殿下と過ごしていないのなら、残りの半年、僕はどうしていたのでしょう? ずっと行方不明だったのですか?」
「辛いことが重なったのだ。それに耐えかねてリンは記憶を閉ざしている。だから無理に思い出さなくていい。疑問に思うこともあるだろうが、目の前の俺を信じて欲しい」
「もし、思い出したら僕はどうなるのでしょう」
「今は考えなくていい。疑問に思うことを受け流すのだ。気分が悪くなる場所に行かず、触れない。それが最善だな」
リンは「はい」と頷くしか出来なかった。カロール殿下が悲しそうな顔で話していたから。
「どうしよう。これ、僕たちは不敬罪にならない?」
「ちょっと考えられない状況で、どうしようか」
身分の低いリンとセレスがソファーを使い王子殿下二人が床にいるなど咎められても仕方が無い。夜が遅かったのか二人とも爆睡している。
起こさないようにリンはソファーから立ち上がる。そっとカロール殿下を見ると、リンの服を抱え込んでいる。その姿に吹き出しそうになりセレスに目線を向ける。
するとセレスは下を向いて笑いをかみ殺している。セレスに目線で『ドーラ殿下もセレスの服を抱えている?』とたずねるとセレスが手招きする。
リンがセレスの傍にいきドーラ殿下を見ると、一抱え分のセレスの服を抱きかかえていた。これにはさすがに笑いが我慢できず「ブハッ」と吹き出してしまった。
「リン、笑うなよぉ。せっかく我慢していたのに」
「いやいや、これは笑うだろ」
小声で囁き合いキッチンに避難する。直視していたら笑いが我慢できない。
気持ちを立て直すためにキッチンで座り込み、コソコソ会話していた。
「リン! リンがいない!」
「何? あ! セレスもいない!」
急な叫び声にリンとセレスがビクっとなる。
『ここです』と言う前にカロール殿下の叫びが響く。
「衛兵! すぐに城中を探せ! 不審者は皆捕まえろ! 城から一人も出すな! 城中の者を総動員してリンを見つけろ! 万が一リンに何かあったら全員処刑するぞ!」
ものすごい圧を感じてリンとセレスが震えあがる。心臓が痛い感覚。「ここに居ます」と言いたいのに声が上げられない。
呼吸が苦しくて冷汗が出る。苦悶の表情のセレスが息のような声で「ドーラ」と呼んだ。
「まて! セレスだ! カロール、室内にいる。威圧を解くんだ!」
すぐにドーラ殿下がキッチンを覗く。苦しさに冷汗が出ていたリンとセレスは床に座り込んだまま動けずにいた。
「セレス! 大丈夫か?」
すぐにドーラ殿下がセレスを抱き上げる。セレスが震えながらドーラ殿下にしがみ付くのをリンは見ていた。
「リン! ゴメン、室内にいると思わなくて」
リンのところにも青い顔をしたカロール殿下が駆け付ける。ドーラ殿下に甘えるセレスを見たせいだろうか、リンもカロール殿下に抱きつく。
「悪いが一部屋借りる。セレスのケアを優先したい」
ドーラ殿下とセレスがベッドルームに入り扉を閉めた。
「リン。俺だけに集中して。俺のフェロモン、分かる?」
リンはカロール殿下の腕の中で頷きを返す。
「ごめん。焦っちゃった。居なくなったと思った。心が破裂しそうになってアルファの威圧が出てしまった。怖かったよね。もう大丈夫だから」
カロール殿下の清涼な若木の匂いがリンを包む。
温かな抱擁と幸福な匂いにリンの心が満たされる。芯まで冷えた身体が生き返るようだ。このまま寝てしまいそうな安心感があるけれど、十分睡眠をとったおかげで眠れそうにない。
「もう、大丈夫です」
三十分ほどでリンの気持ちが落ち着いた。慈しむように包んでくれていたカロール殿下の腕から抜け出る。
「うん。ごめんね。リンは発情期を迎えた後だからこれで大丈夫だったか。セレスは、ちょっとマズいかな。発情を誘発してしまったかも。もしかしたら一週間ほど王城に滞在になるかも、な。タイミングを見てセレスたちにはドーラの部屋に移ってもらおう。そうなったら俺がリンと居てもいい?」
ドーラ殿下とセレスが籠っている寝室から甘い香りが漏れている。
「はい。セレスは大丈夫でしょうか?」
「ドーラが付いている。セレスには申し訳ない事をしてしまったが、あとはドーラに任せるしかない。」
「そうですね」
ガチャリとドアが開いてドーラ殿下がシーツに包んだセレスを抱えて出て来た。ドーラ殿下のフェロモンが強くてリンはカロール殿下の後ろに隠れる。
「リン、俺の後ろから出ないで」
リンがカロール殿下のフェロモンに守られる。
「カロール、俺の部屋に戻る。セレスが発情した。終わるまで籠る。ザザ国の護衛を城内につけるが許してほしい。あとは侍女を数名頼めるか?」
「もちろんだ。俺の威圧のせいだ。悪かった。ドーラの身の安全はアローラ国国王陛下の名にかけて保障する。全面的にサポートするからセレスだけに集中してくれ」
「助かる」
いつの間にか現れたザザ国の護衛と共にドーラ殿下が早足で立ち去った。ドーラ殿下の腕の中のセレスは頭からシーツにくるまれていて様子が全く分からなかった。
「換気しようか。フェロモンが凄かったね」
「はい。カロール殿下以外のアルファのフェロモンは初めてです。嫌ではないけれど、カロール殿下の匂いに比べて胸やけがしそうな感覚です」
「なるほど。そう感じたのか。俺も同じ。セレスのオメガフェロモンは甘くて強烈だけど、リンの匂いを知っているから惹かれはしない」
カロール殿下が侍女を呼んで部屋の換気と片付け、ドーラ殿下の状況と護衛の指示、サポートの指示、朝食用意を指示する。ついでに先ほどの城内の護衛兵へのリンを探す指示を取り消していた。
あっという間に綺麗に片付いた室内。ついでに大きな檻が運ばれてルーがこの部屋に来た。これには飛び上がるほど喜んでしまった。
「ルーだ! 書斎の檻ごと移して大丈夫なのですか?」
「いいよ。ルーは昨日から『リンに会わせろ』って檻をガジガジしていたから、ここに居るほうがお互いに良さそうだ」
早速リンはルーに近寄る。
「ルー。また一緒にいられるね。昼間だから休んでいてね。夜にまたお散歩しよう。ルーが飛ぶ姿をまた見たいな」
リンが話しかけるとルーが目をクリクリさせて優しい表情をする。
「じゃ、夜にお茶会としようか。王城に長く居るつもりは無かったのだが、これも運かもしれん。リンと二人の貴重な時間だ。楽しまなくては勿体ない」
「では僕は終戦記念祝賀祭でにぎわう市街地を見てみたいです」
「ブハッ!」
急にカロール殿下がむせ込む。驚いてリンは殿下の背中をさする。
「どうされたのですか?」
「いや、何でもない。その、ちょっと思い出し笑いと言うか。ははは。リンが市街地に行きたいと言ったのは二回目だからね。懐かしくて」
カロール殿下は嬉しそうに笑っている。
「では僕は王都の終戦記念祭を見るのは二回目ですか?」
「いや。リンが王城に来たのは初夏の終戦記念祭の後だ。そこからここに居たのは半年弱だ。その半年が俺の全てを覆すような濃い時間だった」
「どういうことですか? 半年しかカロール殿下と過ごしていないのなら、残りの半年、僕はどうしていたのでしょう? ずっと行方不明だったのですか?」
「辛いことが重なったのだ。それに耐えかねてリンは記憶を閉ざしている。だから無理に思い出さなくていい。疑問に思うこともあるだろうが、目の前の俺を信じて欲しい」
「もし、思い出したら僕はどうなるのでしょう」
「今は考えなくていい。疑問に思うことを受け流すのだ。気分が悪くなる場所に行かず、触れない。それが最善だな」
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