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Ⅸ リンの生きる場所
⑥
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夜になるとカロール殿下に『ベランダお茶会』とやらに誘われた。ベランダのテーブルセットにティーセットを並べてキャンドルの灯り。キラキラと綺麗だ。
カロール殿下がルーを腕に乗せてベランダの止まり木に移す。
「ルーもお茶会に参加するのですね。素敵です」
「ルーは今から夜の散歩だよ」
「あ、そうでした。今日は鼠をとってこないで欲しいなぁ。久しぶりの殿下との夜のお茶会だから」
「あはは。ほら、リンが隠れるためのタオルケットがあるから」
殿下が示す先には柔らかそうな薄手の畳まれた布。椅子の横の籠に入れられている。それを見ていると、以前にもこんな場面があったような既視感がリンを襲う。懐かしいと思うと同時に不安が押し寄せる。リンは心を静めるように深呼吸して目線を上げる。
「ルーが何か持ってきたら即隠れます」
「その意気だ。そうだ。リンの部屋からドングリをもって来よう。俺が毎日磨いていたからピカピカだぞ」
ピカピカのドングリたちを想像してリンの口元が緩む。
「まだあるのですね。嬉しい。初めてのルーからのプレゼントだから大切にしていました」
ルーからプレゼントをもらったのはいつだったのか思い出せずにリンは首をかしげる。だけど深く考えない方が良い。疑問を頭から追い出すようにベランダからの夜景を見た。
二階の高さから見える街の明かりが幻想的だ。城の正門側が見えて警備を勤める兵士が見える。
「さすが王都というべき近代的な夜景ですね」
「うん。お客様向けの部屋だからね」
「あ、僕が過ごしていた部屋があるのならそちらに移ったほうが良いでしょうか?」
「いや。ここでいい」
何故だろう、と疑問に思ったが、カロール殿下の悲しそうな顔を見て考えるのはやめた。これ以上は聞かないほうが良い。
『ホゥ、ホーー』
急にルーが鳴き声を上げた。少し重くなった空気を払拭するかの鳴き声だ。
「あぁ、そうか。ごめん」
カロール殿下が音の出ない笛を吹く。するとバサッと翼を広げてルーが飛び立つ。
月夜に映える美しい姿にリンは見惚れた。リンはカロール殿下に誘導されてテーブル席に着く。
「羽、飛べないワケじゃないんですね。安心しました」
「うん。戻ったときに右羽先が折れていて。治療に二か月かかった。近場を飛ぶには問題ないと思うよ。リンは温かい紅茶が良い? 冷たい果実水も用意したよ」
テーブルの上のカップ類を殿下が手に取る。もしかしてカロール殿下が臣下であるリンにお茶を用意するつもりだろうか。そんなことは立場上許されない。リンは慌てて席を立つ。
「僕が淹れます。王太子殿下にお茶を用意いただくなんて恐れ多すぎます」
リンの言葉に動きを止めるカロール殿下。何かを考えるようにしてから、柔らかい笑顔をリンに向ける。
「あはは。懐かしい。リンは前にもそんなことを言った。いいから座っていて。俺がお茶を淹れるのも跪くのもリンにだけだ。おっと、国王陛下には跪く。ってこれも前と同じ会話だ」
上機嫌なカロール殿下に任せて、温かい紅茶を淹れていただいた。懐かしい様な優しい味のする紅茶だ。心まで温まるような紅茶の温度が愛おしくて、リンはカップを両手で触れてみた。すぐに熱さに手を引く。今は夏だからなぁ、と笑みをこぼした。
「明日、街を見に行ってみよう。お忍びデートだね。祭りの何を見たい?」
「賑わいの様子を見たいです。王都ってどんな風なのか知りたいです」
「うん。じゃ、露店が出ている中心を見てみようか。解放の広場が一番賑やかだよ。そうだ。馬で行こうか」
殿下の提案に申し訳なくなる。リンは乗馬が出来ない。
「すみません。僕は乗馬が出来なくて」
「知っているよ。俺の後ろに引っ付いていればいい」
カロール殿下はリンのことをよく知っているなぁと感心した。リンの事は何でもお見通しだ。ふとリンの心に疑問が浮かび、カロール殿下に質問する。
「僕は、カロール殿下から見てどんな人なのでしょう」
「そうだな。俺の知るリンは、面白くて意外性があって真っすぐだな。そして努力家。前を向く健気さが可愛い人だよ」
真っすぐにリンを見て応えるカロール殿下。その眼差しにリンの頬が熱を持つ。
「なんだか恥ずかしいです。過大評価な気がします。ただの田舎者の気がしますが」
照れるリンに柔らかな微笑みが向けられる。
「じゃ、俺は今のリンから見てどんな人?」
「カロール殿下は、完璧なアルファで人を先導する才能に溢れた方です。でも時々崩れそうに危うい部分が見えて、ぎりぎりを生きている方かなぁと思います。こんなことを言って失礼ですね。すみません」
リンの言葉に目を見開くカロール殿下。リンから目線を外して冷茶を一口飲まれる。怒らせてしまったかもしれない。何とフォローすれば良いのだろう。リンが焦って考えているとカロール殿下が口を開く。
「いや、いいよ。ほぼ合っている。ちなみに俺の弱い部分を知っているのはリンだけだ。リンだけは俺の思い通りに行かないし、弱い部分もさらけ出せる。愛するってすごいことだとリンから学んだ。だから俺に必要な存在なんだよ」
カロール殿下の言葉にリンは安堵し、微笑む。心のどこかで『知っているよ』と声がする。
「カロール殿下を支えるのは僕の役割です。殿下を受け止めるのは僕だから、大丈夫です」
自然とリンの口から言葉が出ていた。
「そうか」
幸せそうに微笑むカロール殿下が綺麗だった。キャンドルの灯りに美しい夜景。
しばらくするとルーが戻ってきた。今日は何も捕獲してこなくて一安心した。そんなリンを見てカロール殿下が声を出して笑った。
色々と腑に落ちない点もあるけれど、カロール殿下と生きて行けば大丈夫だと思えた。リンはカロール殿下を好きなのだと分かった。
カロール殿下がルーを腕に乗せてベランダの止まり木に移す。
「ルーもお茶会に参加するのですね。素敵です」
「ルーは今から夜の散歩だよ」
「あ、そうでした。今日は鼠をとってこないで欲しいなぁ。久しぶりの殿下との夜のお茶会だから」
「あはは。ほら、リンが隠れるためのタオルケットがあるから」
殿下が示す先には柔らかそうな薄手の畳まれた布。椅子の横の籠に入れられている。それを見ていると、以前にもこんな場面があったような既視感がリンを襲う。懐かしいと思うと同時に不安が押し寄せる。リンは心を静めるように深呼吸して目線を上げる。
「ルーが何か持ってきたら即隠れます」
「その意気だ。そうだ。リンの部屋からドングリをもって来よう。俺が毎日磨いていたからピカピカだぞ」
ピカピカのドングリたちを想像してリンの口元が緩む。
「まだあるのですね。嬉しい。初めてのルーからのプレゼントだから大切にしていました」
ルーからプレゼントをもらったのはいつだったのか思い出せずにリンは首をかしげる。だけど深く考えない方が良い。疑問を頭から追い出すようにベランダからの夜景を見た。
二階の高さから見える街の明かりが幻想的だ。城の正門側が見えて警備を勤める兵士が見える。
「さすが王都というべき近代的な夜景ですね」
「うん。お客様向けの部屋だからね」
「あ、僕が過ごしていた部屋があるのならそちらに移ったほうが良いでしょうか?」
「いや。ここでいい」
何故だろう、と疑問に思ったが、カロール殿下の悲しそうな顔を見て考えるのはやめた。これ以上は聞かないほうが良い。
『ホゥ、ホーー』
急にルーが鳴き声を上げた。少し重くなった空気を払拭するかの鳴き声だ。
「あぁ、そうか。ごめん」
カロール殿下が音の出ない笛を吹く。するとバサッと翼を広げてルーが飛び立つ。
月夜に映える美しい姿にリンは見惚れた。リンはカロール殿下に誘導されてテーブル席に着く。
「羽、飛べないワケじゃないんですね。安心しました」
「うん。戻ったときに右羽先が折れていて。治療に二か月かかった。近場を飛ぶには問題ないと思うよ。リンは温かい紅茶が良い? 冷たい果実水も用意したよ」
テーブルの上のカップ類を殿下が手に取る。もしかしてカロール殿下が臣下であるリンにお茶を用意するつもりだろうか。そんなことは立場上許されない。リンは慌てて席を立つ。
「僕が淹れます。王太子殿下にお茶を用意いただくなんて恐れ多すぎます」
リンの言葉に動きを止めるカロール殿下。何かを考えるようにしてから、柔らかい笑顔をリンに向ける。
「あはは。懐かしい。リンは前にもそんなことを言った。いいから座っていて。俺がお茶を淹れるのも跪くのもリンにだけだ。おっと、国王陛下には跪く。ってこれも前と同じ会話だ」
上機嫌なカロール殿下に任せて、温かい紅茶を淹れていただいた。懐かしい様な優しい味のする紅茶だ。心まで温まるような紅茶の温度が愛おしくて、リンはカップを両手で触れてみた。すぐに熱さに手を引く。今は夏だからなぁ、と笑みをこぼした。
「明日、街を見に行ってみよう。お忍びデートだね。祭りの何を見たい?」
「賑わいの様子を見たいです。王都ってどんな風なのか知りたいです」
「うん。じゃ、露店が出ている中心を見てみようか。解放の広場が一番賑やかだよ。そうだ。馬で行こうか」
殿下の提案に申し訳なくなる。リンは乗馬が出来ない。
「すみません。僕は乗馬が出来なくて」
「知っているよ。俺の後ろに引っ付いていればいい」
カロール殿下はリンのことをよく知っているなぁと感心した。リンの事は何でもお見通しだ。ふとリンの心に疑問が浮かび、カロール殿下に質問する。
「僕は、カロール殿下から見てどんな人なのでしょう」
「そうだな。俺の知るリンは、面白くて意外性があって真っすぐだな。そして努力家。前を向く健気さが可愛い人だよ」
真っすぐにリンを見て応えるカロール殿下。その眼差しにリンの頬が熱を持つ。
「なんだか恥ずかしいです。過大評価な気がします。ただの田舎者の気がしますが」
照れるリンに柔らかな微笑みが向けられる。
「じゃ、俺は今のリンから見てどんな人?」
「カロール殿下は、完璧なアルファで人を先導する才能に溢れた方です。でも時々崩れそうに危うい部分が見えて、ぎりぎりを生きている方かなぁと思います。こんなことを言って失礼ですね。すみません」
リンの言葉に目を見開くカロール殿下。リンから目線を外して冷茶を一口飲まれる。怒らせてしまったかもしれない。何とフォローすれば良いのだろう。リンが焦って考えているとカロール殿下が口を開く。
「いや、いいよ。ほぼ合っている。ちなみに俺の弱い部分を知っているのはリンだけだ。リンだけは俺の思い通りに行かないし、弱い部分もさらけ出せる。愛するってすごいことだとリンから学んだ。だから俺に必要な存在なんだよ」
カロール殿下の言葉にリンは安堵し、微笑む。心のどこかで『知っているよ』と声がする。
「カロール殿下を支えるのは僕の役割です。殿下を受け止めるのは僕だから、大丈夫です」
自然とリンの口から言葉が出ていた。
「そうか」
幸せそうに微笑むカロール殿下が綺麗だった。キャンドルの灯りに美しい夜景。
しばらくするとルーが戻ってきた。今日は何も捕獲してこなくて一安心した。そんなリンを見てカロール殿下が声を出して笑った。
色々と腑に落ちない点もあるけれど、カロール殿下と生きて行けば大丈夫だと思えた。リンはカロール殿下を好きなのだと分かった。
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