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Ⅹ 辿り着いた幸せ
①
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祭りの最中で良かった。どこかの業者の荷馬車に入り込みことが出来た。走り出した馬車は王都の賑わいを抜けた。人の多さで護衛をまくことが出来たと思う。
(これからどうしよう)
そればかりが頭をよぎる。
アローラ国でリンが見つかってはいけない。それは死体であってもダメだ。カロール殿下の寂しそうな微笑みを思い出す。寂しそうにするのも当然だと思う。リンが入国したと判明した以上、この祭りが終わったら処刑執行の判断をしなくてはいけないのだから。
記憶がないリンと会話したカロール殿下の言葉が蘇る。今のリンを裁けるのはカロール殿下と国王陛下だけ。カロール殿下は自分が裁く覚悟を持ち、リンとの最期の時間を楽しんでいたのだ。
リンが罰せられたらジャルル家も処罰される。リンが皆を不幸にしてしまう。そんなのは耐えられないと心が痛む。
ガタゴトと走っていた荷馬車が止まる。周囲を見れば、大きな川で馬の一休憩の様子。夜も遅くなり暗闇。民家が見えるが人通りが少ない場所。リンはそっと荷馬車を降りた。
闇に隠れるように草むらを分けて進む。足元が悪くて何度か転んだ。心臓が痛いほどにバクバク鳴り響く。それでも少し先に見える橋の下まで行かなくては、隠れる場所がない。
恐怖で身体が震えた。リンを捕らえに衛兵が来るかもしれない。急いで隠れないと見つかってしまう。そう思うと余計に足がもつれた。
橋の下までたどり着き、乗って来た荷馬車の方を見れば、休憩を終えて走り出していた。リンに気が付いていない様子に心から安堵した。
橋脚の影に隠れるように座ると、急に背中の焼き印が痛みだす。骨まで響くような痛み。リンは自分の肩を押さえながら声を殺して泣いた。
流れる川を眺める。闇の中に黒く光る川。川幅は五十メートルほどだが水量が多い。リンの頭にある考えが浮かぶ。逃げきれないことは分かっている。この川底に沈めば、誰にも見つからないだろう。
川に入って助からない方法を考えて、リンはバックの中身を全て出す。空になったバッグに河原の石を詰め込む。少しでも重くなるように願う。重くなったバッグを身に着けて川を見つめる。死ぬと覚悟を決めていたのに、目の前の死に直面すると怖くて水に入れない。そんな自分が情けない。
「お祭り、楽しかったな……」
ぼんやりと川を見つめて、カロール殿下の笑顔を思い浮かべる。幸せは一瞬で消えていく。涙がとめどなく溢れる。リンは、ただ川の流れを見つめていた。
夜の静かな道が急に賑やかになった。橋の上を馬や人があわただしく通り、川沿いの道が照明を持った人で照らされる。
「探せ! とにかく細かく探せ!」
「民家に囲われているかもしれん。聞き込みを!」
「対象は黒髪の男性オメガだ。特徴は首に金の保護帯がある。王家縁のオメガのため怪我を負わせず丁重な扱いをせよ!」
「了解!」
橋の上から聞こえる言葉にリンの心臓が恐怖で止まりそうになる。心臓の音が破裂しそうに耳に響く。心が悲鳴をあげる。
(捕まるのはダメだ!)
「念のため河川敷も調べよ」
「はい」
数名が河原に降りてくる。
恐怖でリンの頭がパニックになる。その場から動くことが出来ず、隠れる場所もなく、リンは凍り付いたように橋脚のそばで震えていた。足音が近づきライトがリンを照らす。緊張で呼吸が苦しくなった。リンの手が震える。
「あぁ! いました! いましたぁ! 隊長!」
「なに?」
大きな声が響き、恐怖に駆られてリンは逃げるように川に入った。
「あ、いけません! この川は水深が急に深くなります! お戻りを!」
あちこちから捜索の警護兵と警察が集まってくる。照明で照らされて足がすくむ。
「落ち着いてください。我々はあなた様に危害を加えるつもりはありません。お願いです。川からお戻りになってください!」
「泳ぎの出来る者は支度を! まだ川に入るな。刺激してしまって深みに入られたらダメだ!」
「お助けする準備を整えろ!」
助けられたらリンが困る。慌てて川の中に足を進めるが。
「リン! 待て! もう離れたくないんだ! お願いだ。待ってくれ!」
必死の形相で走ってくるカロール殿下が目に入る。すでに太ももまで水に入っていて、流されずに立つことでリンは精一杯だ。
「リン、戻るんだ! 俺の婚約者はお前だけだ。俺の横に立つのは今も未来もリンだけだ! 俺はリンを愛しているんだ!」
リンはカロール殿下の想いを十分知っている。リンだってカロール殿下が大好きだ。
この人をずっと支えていきたいと思っている。けれど、それだけではダメなのだ。カロール殿下の立場と将来をお守りするためには、リンの存在が邪魔なのだ。リンは深呼吸をして一言を伝える。
「僕は、あなたが、嫌いです」
衝撃をうけたように目を見開くカロール殿下。その傷ついた顔を見て、リンの目から涙がこぼれる。
リンは水の流れにそれ以上耐えることができず、足をとられて倒れる。これでリンのすべきことは全てできた。
『アルファ王子に嫌われるための十の作戦』の最後の一個は成功だ。あとはリンの身体が川底に沈めばいい。死体が上がらなければいい。
リンは暗い水の中で「僕も愛しています」と呟いた。水の中なのに自分の声が聞こえた気がした。
懺悔のようにリンは心で繰り返す。
ーーカロール様、ごめんなさい。嫌いなわけがない。こんなに愛しているのに。これほど大好きなのに……。
(これからどうしよう)
そればかりが頭をよぎる。
アローラ国でリンが見つかってはいけない。それは死体であってもダメだ。カロール殿下の寂しそうな微笑みを思い出す。寂しそうにするのも当然だと思う。リンが入国したと判明した以上、この祭りが終わったら処刑執行の判断をしなくてはいけないのだから。
記憶がないリンと会話したカロール殿下の言葉が蘇る。今のリンを裁けるのはカロール殿下と国王陛下だけ。カロール殿下は自分が裁く覚悟を持ち、リンとの最期の時間を楽しんでいたのだ。
リンが罰せられたらジャルル家も処罰される。リンが皆を不幸にしてしまう。そんなのは耐えられないと心が痛む。
ガタゴトと走っていた荷馬車が止まる。周囲を見れば、大きな川で馬の一休憩の様子。夜も遅くなり暗闇。民家が見えるが人通りが少ない場所。リンはそっと荷馬車を降りた。
闇に隠れるように草むらを分けて進む。足元が悪くて何度か転んだ。心臓が痛いほどにバクバク鳴り響く。それでも少し先に見える橋の下まで行かなくては、隠れる場所がない。
恐怖で身体が震えた。リンを捕らえに衛兵が来るかもしれない。急いで隠れないと見つかってしまう。そう思うと余計に足がもつれた。
橋の下までたどり着き、乗って来た荷馬車の方を見れば、休憩を終えて走り出していた。リンに気が付いていない様子に心から安堵した。
橋脚の影に隠れるように座ると、急に背中の焼き印が痛みだす。骨まで響くような痛み。リンは自分の肩を押さえながら声を殺して泣いた。
流れる川を眺める。闇の中に黒く光る川。川幅は五十メートルほどだが水量が多い。リンの頭にある考えが浮かぶ。逃げきれないことは分かっている。この川底に沈めば、誰にも見つからないだろう。
川に入って助からない方法を考えて、リンはバックの中身を全て出す。空になったバッグに河原の石を詰め込む。少しでも重くなるように願う。重くなったバッグを身に着けて川を見つめる。死ぬと覚悟を決めていたのに、目の前の死に直面すると怖くて水に入れない。そんな自分が情けない。
「お祭り、楽しかったな……」
ぼんやりと川を見つめて、カロール殿下の笑顔を思い浮かべる。幸せは一瞬で消えていく。涙がとめどなく溢れる。リンは、ただ川の流れを見つめていた。
夜の静かな道が急に賑やかになった。橋の上を馬や人があわただしく通り、川沿いの道が照明を持った人で照らされる。
「探せ! とにかく細かく探せ!」
「民家に囲われているかもしれん。聞き込みを!」
「対象は黒髪の男性オメガだ。特徴は首に金の保護帯がある。王家縁のオメガのため怪我を負わせず丁重な扱いをせよ!」
「了解!」
橋の上から聞こえる言葉にリンの心臓が恐怖で止まりそうになる。心臓の音が破裂しそうに耳に響く。心が悲鳴をあげる。
(捕まるのはダメだ!)
「念のため河川敷も調べよ」
「はい」
数名が河原に降りてくる。
恐怖でリンの頭がパニックになる。その場から動くことが出来ず、隠れる場所もなく、リンは凍り付いたように橋脚のそばで震えていた。足音が近づきライトがリンを照らす。緊張で呼吸が苦しくなった。リンの手が震える。
「あぁ! いました! いましたぁ! 隊長!」
「なに?」
大きな声が響き、恐怖に駆られてリンは逃げるように川に入った。
「あ、いけません! この川は水深が急に深くなります! お戻りを!」
あちこちから捜索の警護兵と警察が集まってくる。照明で照らされて足がすくむ。
「落ち着いてください。我々はあなた様に危害を加えるつもりはありません。お願いです。川からお戻りになってください!」
「泳ぎの出来る者は支度を! まだ川に入るな。刺激してしまって深みに入られたらダメだ!」
「お助けする準備を整えろ!」
助けられたらリンが困る。慌てて川の中に足を進めるが。
「リン! 待て! もう離れたくないんだ! お願いだ。待ってくれ!」
必死の形相で走ってくるカロール殿下が目に入る。すでに太ももまで水に入っていて、流されずに立つことでリンは精一杯だ。
「リン、戻るんだ! 俺の婚約者はお前だけだ。俺の横に立つのは今も未来もリンだけだ! 俺はリンを愛しているんだ!」
リンはカロール殿下の想いを十分知っている。リンだってカロール殿下が大好きだ。
この人をずっと支えていきたいと思っている。けれど、それだけではダメなのだ。カロール殿下の立場と将来をお守りするためには、リンの存在が邪魔なのだ。リンは深呼吸をして一言を伝える。
「僕は、あなたが、嫌いです」
衝撃をうけたように目を見開くカロール殿下。その傷ついた顔を見て、リンの目から涙がこぼれる。
リンは水の流れにそれ以上耐えることができず、足をとられて倒れる。これでリンのすべきことは全てできた。
『アルファ王子に嫌われるための十の作戦』の最後の一個は成功だ。あとはリンの身体が川底に沈めばいい。死体が上がらなければいい。
リンは暗い水の中で「僕も愛しています」と呟いた。水の中なのに自分の声が聞こえた気がした。
懺悔のようにリンは心で繰り返す。
ーーカロール様、ごめんなさい。嫌いなわけがない。こんなに愛しているのに。これほど大好きなのに……。
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