アルファ王子に嫌われるための十の方法

小池 月

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番外編Ⅰ「セレスの結婚式」

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 高級そうなショップに入ると個室に案内されて、店員が上品な手袋を数分点運んでくる。カロール殿下に借りていた手袋を返した時、ふと自分の手首に違和感が生じた。

 はっとする。無い。左手首についているはずのエメラルドのブレスレットが、無い。リンの頭に先ほどの子供のことが過る。あの子は、リンの腕にぶつかった。もしかしたら、ブレスレットを狙っていたのではないか。

あのエメラルドのブレスレットはリンの宝物だ。苦しいときのリンとカロール殿下を繋いでいたブレスレット。

「どうかしたのか? 寒くて体調を崩したのか?」
隣に座るカロール様の心配そうな声にリンは我に返る。手首を袖に隠して、リンは微笑む。

「いえ、大丈夫です」
「いや。リンのその様子は大丈夫じゃないな。何があった?」

リンを覗き込むカロール殿下。とても隠しきれずにリンは白状する。

「ブレスレットが、ありません」
恐る恐る口にすると、すぐに青ざめて驚愕の表情をするカロール殿下。その気持ちは十分わかった。あのブレスレットはリンとカロール殿下が離れている間、カロール殿下の手もとにあった。カロール殿下にとっても思い入れのある物だ。

「あの、子供か」
カロール殿下が怖い顔をする。リンは慌てて声をかける。

「いえ、どこかに落としたのだと思います。少し戻って探してみますから」
「いや、リンは動くな。ここはザザ国であり我らは国賓だ。下手に動けば我がアローラ国の品位が落ちるし、今後の国際関係に影響したら困る」

冷静に言葉を発しているがカロール殿下が怒っているのが雰囲気で伝わる。だけど、あの子を罰しないで欲しいと思うリンが居る。あの子は冬に薄着で不衛生な様子だった。生活に困っているのは明らかだ。そんな子供を、どうするのが正しいのか。

「護衛を」
カロール殿下が付き人に声をかける。

「待ってください」
カロール殿下の言葉を遮り、リンは声を出した。

「カロール様、ブレスレットは無くした僕の責任です。あの子供を見ましたか? 寒空に薄着で、不衛生で、明らかに貧困層の子でした。あの子が今日を食いつなぐための糧になるのなら、あのブレスレットは良い働きをするでしょう。子供の命を救うのですから。だから、僕は諦めます」

リンの言葉に険しい顔のカロール殿下。

「リン。それはいけない。貧困があろうと、それを理由に罪を犯すことを許してはいけない。それは、あの子の命を救うことにはならない。盗みが正しいと誤解させることになる。それでは治安が保たれない」

はっきりと言われてリンは何も言えなくなる。確かにカロール様の言葉は正しい。だが、慈悲が無くていいのだろうか。

「リンはこのまま何もせず、諦めていいのか?」
カロール様の落ち着いた声に、リンは下を向いたまま首を横に振る。

「だめ、だと思います」
「そうか。リンはあの子に酷いことをしないで欲しいと思うのだな?」
「はい」
頷きながら、これはリンの傲慢なのだろうかと考える。どうしたいのか自分でも分からない。

「では、酷いことはしないとリンに誓う。ただ、あの子はリンにぶつかったことを謝っていないな。とりあえず謝らせるために、話す場を設けよう。それならどうだ?」
リンはカロール殿下の提案に顔を上げた。それが最善に思えた。

「はい。もう一度、会いたいです」
リンの言葉を受けて、カロール殿下が護衛に「あの子供を探して、リンの前に無傷で連れてくるように」と指示を出した。

探しに向かう護衛兵たちを見て、リンは逃げた時の自分の記憶が蘇りカロール殿下の手をギュッと握った。追われる苦しさは分かる。どうか無傷で捕まってくれるよう願った。
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