顔も知らない番のアルファよ、オメガの前に跪け!

小池 月

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Ⅷ 寄り添って

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 「LUCaさん、田村さんの代わりのお迎えが来たみたいですよ。先ほど撮影スタッフに挨拶に来て、邪魔になるといけないから車で待機していますって」

「わかりました。ありがとうございます」
スタッフから声がかかる。思ったより早く着いてくれた。現場の皆さんに挨拶をして車に向かった。

「お疲れ様です。遠くまで来ていただきありがとうございます」
後部座席のドアを開けて挨拶をしながら乗り込んだ。

「お疲れ様。ルカのためなら遠いなんてことないよ」
良く知った声に驚いて前を向く。

川口さん? 運転席から振り返った川口さんがルカの顔に何かを吹きかける。油断していて思いっきり吸い込んでしまった。

強い苦みを感じて目の前がグニャリと揺れる。これ、ヤバい! すぐに外に出ようとするがドアが開かない。抵抗したけれど口に布を押し当てられて意識が薄れる。蓮、蓮に言わなきゃ。助けてって、伝えないと……。

「ルカ。番なんてものが居るからいけないのだよ。番じゃなくなればいい。僕がルカを自由にしてあげるからね」

川口さんの言葉が遠くに聞こえる。逃げたいのに瞼が重くて身体が言うことを聞かない。動かない口で必死に蓮を呼びながらルカは意識を手放した。


 暗い沼から這い上がるような気持ち悪さ。目を覚ましたいのに頭痛がして目が開けられない。
「う~~」
ルカは唸り声をあげて頭を押さえる。

「ルカ、大丈夫かい?」
人の声に驚いて重い目を開ける。まぶしくてルカの眉間に皺が寄る。

「かわ、ぐちさん? どうして?」
喉が渇いていて上手く喋れない。

「少し薬が強すぎたかな。ゴメンね、ルカ。でもルカを救うために仕方が無かったから」
ルカを救う? 川口さんは一体何を言っているのだろう?

「ルカの番の噛み跡。焼いてしまおう。そうすれば番解消できるじゃないか」

川口さんの発言にルカの心臓がドクリと鳴る。噛み跡を、焼く? 

恐怖に心臓が速くなり手が震えだす。オメガの本能だろうか。自然と手で首後ろを覆い隠す。寝かされていたソファーから身体を起こし川口さんから距離を取ろうと起ちあがる、が。ルカの足元がふらついて立つことが出来ない。ガタンと膝をついて頭痛と眩暈に顔をしかめる。

「ルカ、無理しないほうがいい。強めの薬を使っているから」
膝をついた姿勢から川口さんを見上げる。川口さんの後ろには薪暖炉。パチパチと火の音が恐怖を煽る。

もし、ここで首後ろを焼かれたらルカはどうなってしまうのだろう? 嫌な汗が流れる。噛み跡を焼いて番解消をする方法は、大昔にオメガへの虐待や拷問として用いられた手段。恐ろしすぎて床を這うようにドアに向かう。

何とかして逃げなくては!
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